石像の罠と棒術の達人
「このまま・・・進もう。」
カイルは一つ深呼吸をし、辛そうなため息をついて、仲間たちを促した。
ギルやレッドは目を見合ったものの、こういう場合にカイルはリーダー的存在となるので、何も言わずに従うことにした。
後戻りはせず、再びリューイを先頭に新たな道へと足を進める。
初めの分かれ道を通り過ぎると、リューイはまたカイルに指示されるままに次の角を曲がった。時々、部屋のような がらん とした場所に出ることもあった。そこは何もない殺風景な空間ばかりだったが、そこでは必ず道がいくつかに分岐した。リューイはまた、そんな部屋がありそうな入口の方へ曲がった。
とたんに何か踏みつけた、と気づいた瞬間 ―― !
「伏せろ!」
あわててリューイは叫んだ。同時に、胸の前で鉄棒を風車のごとく振り回し始めたのである。そこにあるものを見るより、先に。ほとんど勘と条件反射だ。
エミリオとギルは咄嗟に這いつくばり、レッドもカイルの頭を押さえつけながらそうした。
カッ・・・カンカンッキンッカンッ・・カンカンキンッ ―― !
たちまち、耳をつんざく甲高い音が立て続けに鳴り響いた。リューイの描く大車輪にかかって、何かが弾き飛ばされているようだ。
背後で見守る者たちは、その見事な手さばきと恐ろしいほどの回転速度に目をみはった。改めて、リューイのすることは何もかも人間業ではない。
しばらくして、鉄棒が風をきる唸り声だけとなった。
リューイは一度手を止めたが、その目つきは依然として険しい。
静まり返った辺りの様子に、カイルが頭を起こそうとする。
「まだだ。」
レッドが鋭くささやいて、カイルの頭をまた押さえつけた。
シュッ ・・・!
リューイは、鉄棒を力一杯きり上げる。
カンッ ――!
そのひと振りにかかってキラリと光るものが斜め上へ向かい、壁に当たって落ちた。手のひらサイズの細長い針だ。そしてリューイの背後・・・つまり、ほかの者たちが伏せている場所以外の床には、おびただしい数のそれが無造作に散らばっている。
リューイは背中を向けたまま、「無事か。」と、言った。その時、リューイは真正面にあるものをじっとねめつけていた。
「ああ、おかげでな。」
カイルの脇を抱え起こしてやりながら答えたレッドは、それから、リューイが睨みつけている方へ向かって顎をしゃくった。
「これは全部、あの壁から吐き出されたものか。」
進行方向、真正面のそこには、壁に浮き彫りの女性がいた。優しそうな顔をしている。だが右手で牛の頭骸骨を持ち上げ、左手には鳥の大きな翼。そして、その周りの壁のいたるところには、無数の穴が。
「絶対何か出してくると思ったんだよ。」
リューイは答えながら鉄棒を脇に挟んで、指の関節をポキポキと鳴らしていた。
「牛の頭と鳥の翼は、昔の邪術を行う際の供え物だよ。ほかにも獣の舌とか肝とか心臓とか、いろいろあるよ。」
カイルが言った。
「なんて不気味で・・・皮肉な。挑発だろうな。」
ギルは顔をしかめた。
「牛は中間的なものでね、雨乞いをする時とかにも供えられるけど、その場合はたいてい仔牛一頭の姿丸々。特に内臓を用いるのは決まって邪術なんだ。それと何らかの関係があるんじゃないかな。」
あれこれと喋りながら、カイルは壁の女性に近寄っていく。
「カイル、今の見てたろ ? 知らねえぞ。」と、リューイは目の下の傷を指さしてみせた。「これだって、それと似たようなのにやられたんだぜ。」




