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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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石像の罠と棒術の達人



「このまま・・・進もう。」


 カイルは一つ深呼吸をし、つらそうなため息をついて、仲間たちをうながした。


 ギルやレッドは目を見合ったものの、こういう場合にカイルはリーダー的存在となるので、何も言わずに従うことにした。


 後戻あともどりはせず、再びリューイを先頭に新たな道へと足を進める。


 初めの分かれ道を通り過ぎると、リューイはまたカイルに指示されるままに次の角を曲がった。時々、部屋のような がらん とした場所に出ることもあった。そこは何もない殺風景さっぷうけいな空間ばかりだったが、そこでは必ず道がいくつかに分岐ぶんきした。リューイはまた、そんな部屋がありそうな入口の方へ曲がった。


 とたんに何か踏みつけた、と気づいた瞬間 ―― !


「伏せろ!」


 あわててリューイは叫んだ。同時に、胸の前で鉄棒を風車かざぐるまのごとく振り回し始めたのである。そこにあるものを見るより、先に。ほとんどかんと条件反射だ。 


 エミリオとギルは咄嗟とっさに這いつくばり、レッドもカイルの頭を押さえつけながらそうした。


 カッ・・・カンカンッキンッカンッ・・カンカンキンッ ―― !


 たちまち、耳をつんざく甲高かんだかい音が立て続けに鳴り響いた。リューイの描く大車輪にかかって、何かがはじき飛ばされているようだ。


 背後で見守る者たちは、その見事な手さばきと恐ろしいほどの回転速度に目をみはった。改めて、リューイのすることは何もかも人間(わざ)ではない。


 しばらくして、鉄棒が風をきるうなり声だけとなった。


 リューイは一度手を止めたが、その目つきは依然いぜんとして険しい。


 静まり返った辺りの様子に、カイルが頭を起こそうとする。


「まだだ。」

 レッドが鋭くささやいて、カイルの頭をまた押さえつけた。


 シュッ ・・・!


 リューイは、鉄棒を力一杯きり上げる。


 カンッ ――!


 そのひと振りにかかってキラリと光るものがななめ上へ向かい、壁に当たって落ちた。手のひらサイズの細長いはりだ。そしてリューイの背後・・・つまり、ほかの者たちが伏せている場所以外の床には、おびただしい数のそれが無造作むぞうさに散らばっている。


 リューイは背中を向けたまま、「無事か。」と、言った。その時、リューイは真正面にあるものをじっとねめつけていた。


「ああ、おかげでな。」


 カイルの脇を抱え起こしてやりながら答えたレッドは、それから、リューイがにらみつけている方へ向かってあごをしゃくった。


「これは全部、あのかべから吐き出されたものか。」


 進行方向、真正面のそこには、壁に浮き彫りの女性がいた。優しそうな顔をしている。だが右手で牛の頭骸骨ずがいこつを持ち上げ、左手には鳥の大きな翼。そして、その周りの壁のいたるところには、無数の穴が。


「絶対何か出してくると思ったんだよ。」


 リューイは答えながら鉄棒を脇に挟んで、指の関節をポキポキと鳴らしていた。


「牛の頭と鳥の翼は、昔の邪術を行う際のそなえ物だよ。ほかにも獣の舌とか肝とか心臓とか、いろいろあるよ。」

 カイルが言った。


「なんて不気味で・・・皮肉な。挑発だろうな。」

 ギルは顔をしかめた。


「牛は中間的なものでね、雨乞あまごいをする時とかにも供えられるけど、その場合はたいてい仔牛こうし一頭の姿すがた丸々。特に内臓を用いるのは決まって邪術なんだ。それと何らかの関係があるんじゃないかな。」


 あれこれとしゃべりながら、カイルは壁の女性に近寄っていく。


「カイル、今の見てたろ ? 知らねえぞ。」と、リューイは目の下の傷を指さしてみせた。「これだって、それと似たようなのにやられたんだぜ。」








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