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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第2章  邂逅の町  〈Ⅰ -邂逅編〉
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ミーアの偽名

 

 客は三人で、まず現れたのはひたいに赤い布を結んでいる精悍せいかんな若者と、その彼に抱えられている幼い少女。あとに続いて金髪碧眼きんぱつへきがんの青年である。


「へい、いらっしゃ・・・」

 そちらを見るなり、ニックは小さな丸い目を大きくした。

「レッド⁉レッドじゃないか!」


 ニックは、気がくのをおさえて調理を中断すると、たちまちカウンターを回りこんで厨房ちゅうぼうから出ていき、レッドとその連れがそばに来てくれるのを待ち構えた。


 そして、リューイを促してカウンター前までやってきたレッドは、ミーアを下ろしてニックと向かい合う。


「久しぶり。相変わらずだな、この店は。けど、おやじはまた太ったんじゃないか。」


「お前はまた・・・一段とたくましくなったな。」


 本来なら喜んでその言葉をかけてやりたいところだが、ニックはその時、悲しげな顔をせずにはいられなかった。


 そしてそれに、レッドも苦笑でこたえた。


「お前も相変わらずか。」

「ああ。あれからまた・・・戦場を駆けずり回ってた。」

「だろうな・・・。」


 そのあとで、ニックは不思議そうな目をミーアに向ける。


「けど・・・そのお嬢ちゃんは?」

「妹だ。」

「妹⁉ だけど、お前の両親は・・・。」


 ニックは、今度は怪訝けげんそうな顔をした。なぜなら、レッドが子供の頃に戦争で親と生き別れたという話を聞いていたからである。その時、実は妹がいたのだとしても、その少女とはどう見ても年が合わない。


 一方、レッドも迂闊うかつ・・・とハッとした。そして、なかなかするどいな・・・とニックをまじまじと見つめた。そんな話をパッと思い出して瞬時に気付かれるとは、意外だった。


「いや、だからその・・・こいつはライデルの子供なんだ。最近、偶然そのことを知って、それで孤児院こじいんあずけられていたこいつに会いに行ってみて、それで・・・ちょっと仲良くなろうかと一時連れ出してきたんだ。ほら、ライデルは俺の育ての親も同然だからさ。」


 レッドは、これほどあせったことはかつてないというほどの動揺ぶりで、苦しまぎれなことを言った。


「確かに全然似てないけどなあ・・・。」


 ニックは、それでもまだ胡散臭うさんくさそうな顔をしている。


 なぜなら、レッドの言うライデルという男は、なんと盗賊 一味いちみかしらだから。


「まあ、とにかくよく来てくれたな。けど、ならやっぱり戻ってきたわけじゃあないのか・・・。」

 ニックは、深々とため息をついてみせた。


「ああ・・・すぐに出て行くつもりだ。それまでまた世話になってもいいかな。」


「大歓迎に決まってるだろう。俺としては、いつまでも居てもらいたいくらいさ。まあ好きにくつろいでくれ。それで、その子とお連れさんは何ていうんだい。」

 ニックは腰を屈めてミーアに微笑みかけた。

「お嬢ちゃん、名前は?」


「ミー・・・」

「ミナだ。」


 ミーアが愛想よく名乗ろうとしたその時、レッドが透かさずそうさえぎった。当然、ミーアは何か言いたそうなふくれっ面でレッドをにらみつける。だいたい、さっきからとんでもなくハチャメチャな紹介をされているのである。


「へえ、ミナちゃんか。顔に似合う可愛い名前だな。」


 ミーアは賢明けんめいにもニコッと微笑ほほえんで応え、黙って耐えていた。


「それから、こいつはリューイだ。ここへ来るまでにたまたま出会ったんだが、馬が合いそうだからしばらく一緒に旅をすることになった。」

 そう紹介したあと、つぶやくように付け加える。

「・・・ちょっと変わり者だがな。」と。


「よろしく。」

 リューイは右手を差し出して、ニックと握手を交した。


「こちらこそ。ところで、お前さんたち何にする?いいのが入ってるんだがね。」


「いや、ビールでいい。一度おやじのすすめるのを飲んで寝込んだ覚えがある。」


「そうだったな、悪い悪い。リューイは強い方かい。」

「森の奴らになら、だいたい勝てるよ。」

「は?」

「だけど、じいさんには 一一 」


「いや、違う、ちょっと待て!」

 レッドはあわててリューイを制した。こいつは勘違かんちがいをしている。

「同じものを頼む。ビール二つだ。」


「あ、ああ。えっと、じゃあミナちゃんは?」


「私もそれ。」


 ニックは軽い笑い声を上げた。

「ミナちゃんやるねえ。本当に飲んでみるかい。」


「こら、ふざけるな。おやじ、ミルクをやってくれ。」

「ミルク?そりゃあないぜ。」

「そうよ、ミルクなんて赤ちゃんの飲み物じゃない!」

「ならいいだろ。」


 レッドのこの一言で完全に機嫌きげんを悪くしたミーアは、思い切り渋面じゅうめんを作ってお子様らしく怒りをあらわに。


 そんなミーアを内心では可愛いと思うレッドは、ミーアには馬鹿にされているとしか思えない笑みを零して、「なんて不細工ぶさいくな顔してんだ。やっぱり・・・ミルクだな。」


 ミーアはハッと息を飲み込むと、勢いよくリューイを振り返った。


「リューイも何とか言ってよ!」

「俺は好きだけどなあ・・・ミルク。」

「もう!」


「嫌ならオレンジジュースにしろ。」


 そう言ってミーアの脇をかかえ上げたレッドは、そのまま高いカウンター席に座らせてから、リューイを連れて、荷物を置きに階段を上がって行った。


「あんな性格だからモテないのよ・・・。」

 出されたジュースをすすりながら、ミーアはボソッと悪態あくたいをついた。


「モテない?あいつがか?とんでもない。」


 頭の上からそんな声が聞こえて、ただただ一点をにらみつけていたミーアは、驚いて顔を上げる。


 その目と目が合うと、店主は話し始めた。







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