凱旋門に現れる亡霊
酒場の喧噪から離れた三人は、すっかり寝静まった、どこか物寂しい感じさえする表通りを歩いていた。凱旋門もあり、周りには高い住宅も連なっている広い通りだが、ほかに人気は全く無かった。そういえば、とっくに真夜中だ。
「結局、奴らの金は全部修理代になっちまったな。」
レッドは言いながら夜空を仰いだ。
「黙って夜遊びしようとしたから、罰が当たったのかなあ・・・。」
ギルもレッドも、そう言うわりには楽しんでおきながら・・・という目をリューイに向ける。
「それにしても妙な町だ。かたや死人のように生活している住民がいるかと思えば、その一方で、あんな浮かれたごろつきの溜り場があるとはな。」
ギルが言った。
「妙な儀式はあるし。」と、リューイ。
「悪霊はいるし。」と、レッド。
結局楽しむことができなかったせいで、三人はのんびりと帰り道を歩いていた。
すると、突然リューイが立ち止ったのである。
「驚いた・・・俺にも見えるぜ。」
いったい何が。ギルもレッドも、リューイの視線をたどってみた。
一目瞭然。
古い凱旋門の下に、大勢の兵士たちがいる。馬の背にまたがり、剣や槍などを持ち、勇ましい姿で整然と、かつ厳かに行進している。だが、はっきりしていない。リューイが驚いてそう口にしたのは、だからだ。つまり、ぼうっと見えているそれらは、聞いたことくらいはある、恐らくあの・・・亡霊というもの。
そうと確信した次の瞬間、三人は一斉に目をみはった。それらが鬨の声を叫ぶように腕を突き上げたかと思うや、馬腹を蹴りつけ、まっしぐらに向かってくるからだ。
「うあっ、こっちに来る!」
リューイの叫びを合図に、思わずそろって駆けだした。透けているというのに迫力満点で押し寄せてくる。
「亡霊はでるし!」と、レッド。
三人はとにかく、まだ明かりが点いている家を目指して疾走した。そしてたどり着くなり、反応があるまで忙しなくノッカーを叩き続ける。
玄関が開いた。主人らしき男性が顔を出してくれたが、話はあとだ。滑り込むようにして強引に入れてもらった三人は、バタンと玄関を閉めたあと、息を切らせて背中からドアにもたれた。
「ご、豪快な亡霊め・・・。」
額の汗を拭いながら、ギルはドア越しに振り返る。
「あんたさんら、どうしたね。」
住人の主人は、突然の闖入者に驚いている様子で立っていた。
「ああ失礼、突然お邪魔して。先ほどここを亡霊が・・・。」
きかれるままに訳を話しだしたギルは、そこで口籠もった。見たままを伝えて、果たして信じてもらえるのか。
「ああ、あれですか。いつものことですよ。お前さんたち、旅人かい。」
ギルとレッドは絶句。意外で驚くべき返事が、平然と返ってきたのだ。
「いつもの・・・って、何とも思わないのか⁉」
リューイもたまげてきき返した。
すると急に顔を曇らせた主人は、重い声でこう答えたのである。
「まだマシですよ。怪物が暴れ回ることに比べれば。」と。
その言葉を聞くなり、三人は思わず反応して血の気が引いた。
この町の異様さといい、明らかにおかしいその様子といい、今度はギルがさらに問うと、主人はますます苦い面持ちになり、しかも病的に青ざめだしたのである。
気になる言葉も出てきたものの、それについて追及するのはやめた方がいいと感じたギルは、返事を待たずに話を終わらせた。姿勢を正して改めて詫びを言い、恐る恐る玄関を開けてみる。
もう豪快な亡霊たちはいなくなっていた。
三人は再び大通りへ出た。そして気が急くままに帰路を急いだ。もうゆっくりなどしていられない。