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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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凱旋門に現れる亡霊



 酒場の喧噪けんそうから離れた三人は、すっかり寝静まった、どこか物寂しい感じさえする表通りを歩いていた。凱旋門がいせんもんもあり、周りには高い住宅も連なっている広い通りだが、ほかに人気は全く無かった。そういえば、とっくに真夜中だ。


「結局、奴らの金は全部修理代になっちまったな。」

 レッドは言いながら夜空をあおいだ。


「黙って夜遊びしようとしたから、罰が当たったのかなあ・・・。」


 ギルもレッドも、そう言うわりには楽しんでおきながら・・・という目をリューイに向ける。


「それにしても妙な町だ。かたや死人のように生活している住民がいるかと思えば、その一方で、あんな浮かれたごろつきのたまり場があるとはな。」

 ギルが言った。


「妙な儀式はあるし。」と、リューイ。

「悪霊はいるし。」と、レッド。


 結局楽しむことができなかったせいで、三人はのんびりと帰り道を歩いていた。


 すると、突然リューイが立ち止ったのである。


「驚いた・・・俺にも見えるぜ。」


 いったい何が。ギルもレッドも、リューイの視線をたどってみた。


 一目瞭然いちもくりょうぜん


 古い凱旋門の下に、大勢の兵士たちがいる。馬の背にまたがり、剣や槍などを持ち、勇ましい姿で整然と、かつおごそかに行進している。だが、はっきりしていない。リューイが驚いてそう口にしたのは、だからだ。つまり、ぼうっと見えているそれらは、聞いたことくらいはある、恐らくあの・・・亡霊ぼうれいというもの。 


 そうと確信した次の瞬間、三人は一斉に目をみはった。それらがときの声を叫ぶように腕を突き上げたかと思うや、馬腹をりつけ、まっしぐらに向かってくるからだ。


「うあっ、こっちに来る!」


 リューイの叫びを合図に、思わずそろって駆けだした。透けているというのに迫力満点で押し寄せてくる。


「亡霊はでるし!」と、レッド。


 三人はとにかく、まだ明かりが点いている家を目指して疾走しっそうした。そしてたどり着くなり、反応があるまでせわしなくノッカーを叩き続ける。


 玄関が開いた。主人らしき男性が顔を出してくれたが、話はあとだ。すべり込むようにして強引ごういんに入れてもらった三人は、バタンと玄関を閉めたあと、息を切らせて背中からドアにもたれた。


「ご、豪快な亡霊め・・・。」

 ひたいの汗を拭いながら、ギルはドア越しに振り返る。


「あんたさんら、どうしたね。」


 住人の主人は、突然の闖入者ちんにゅうしゃに驚いている様子で立っていた。


「ああ失礼、突然お邪魔して。先ほどここを亡霊が・・・。」

 きかれるままに訳を話しだしたギルは、そこで口籠くちごもった。見たままを伝えて、果たして信じてもらえるのか。


「ああ、あれですか。いつものことですよ。お前さんたち、旅人かい。」


 ギルとレッドは絶句。意外で驚くべき返事が、平然と返ってきたのだ。


「いつもの・・・って、何とも思わないのか⁉」

 リューイもたまげてきき返した。


 すると急に顔をくもらせた主人は、重い声でこう答えたのである。

「まだマシですよ。怪物が暴れ回ることに比べれば。」と。


 その言葉を聞くなり、三人は思わず反応して血の気が引いた。


 この町の異様さといい、明らかにおかしいその様子といい、今度はギルがさらに問うと、主人はますます苦い面持ちになり、しかも病的に青ざめだしたのである。


 気になる言葉も出てきたものの、それについて追及するのはやめた方がいいと感じたギルは、返事を待たずに話を終わらせた。姿勢を正して改めてびを言い、恐る恐る玄関を開けてみる。


 もう豪快な亡霊たちはいなくなっていた。


 三人は再び大通りへ出た。そして気がくままに帰路を急いだ。もうゆっくりなどしていられない。








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