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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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喧嘩



 レッドは喧嘩けんか慣れしていた。そのほとんどは和解役に割って入るのだが、結局はいつも、聞きわけのない連中を手荒な方法で黙らせてしまうことになり、喧嘩両成敗という結果に落ち着くことが多い。ただ、今は具合の悪いことに、取っ組み合い、殴り合いでは、負傷している方の腕はほとんど使いものにならない。それどころか、かばいながらやり合わなければならなかった。


 一方ギルの方は、戦はともかく喧嘩沙汰には縁がなかった。そこで、「悪いが、俺もこいつを使わせてもらうぜ。何か手にしていないと落ち着かん。」と、壁に立て掛けてあったモップに手を伸ばした。


 その直後。大股で接近してきた男の振るうびんをスッとかわしたギルは、たくみな動作で相手の右肩を強打した。ひざを折ってうめいているその男のそばで、ギルは「持ちにくいな・・・。」と呟き、これからその掃除道具をどう扱うかに頭を悩ませた。


 レッドが突き出した一撃が怒り狂った男の出鼻に命中すると、もつれ合うようにして二人の男が倒れた。雄叫びを上げてすぐ、次の相手が飛びかかってきた。が、レッドはそいつの握り拳を難なく受け止めて腹に膝蹴ひざげりを仕掛け、床にうずくまらせた。


「いいぞお、やれやれいっ。」

 ライデルは腕を組み、大口を開けてがははと笑う。


 へべれけに酔っ払った男が、頭上で腕を振り回す。ジョッキを突き上げた男が、わけの分からないことをわめきたてる。


 面白いことに、酒に酔ってただ笑うばかりと思われた見物人たちも、呂律は相変わらずあやふやなものの様々な言動をした。ギルの鮮やかな剣捌けんさばきならぬ棒捌ぼうさばきには、れ惚れして長い感嘆かんたん吐息といきを漏らし、リューイが連続技で二人の男を飛ばした時には、目を見開いて一瞬静まり返った。


 テーブルだろうが椅子だろうが、リューイは所構わず身軽に飛び乗って、必要以上に動き回り、完全に男たちを翻弄ほんろうしていた。


 実際、リューイは楽しんでいた。アースリーヴェの密林にいた頃は、毎日のように疲れ果てるまで樹海を駆け回ったり、海で泳いだりしていたものだったが、そこから離れて一人旅に出てみれば、あまりに違う世界が待っていて、以前のように遊ぶことができなくなった。そんな子供のように我慢していた気持ちが一触即発されると、自制心など簡単に自分の中からどこかへ行ってしまった。


 そんなリューイに度々目をやりながら、ギルとレッドはあきれて肩をすくう思いだ。


 たちまち殺伐さつばつとした店内は、もはや大乱闘。


 ガラの悪い見物人たちは愉快そうに腕を振り回し、いつまでも何か聞きとれぬ野次を飛ばしている。やかましい笑い声を上げ、この騒動を鑑賞しながら、肉や魚をむしゃむしゃとむさぼり、ビールを飲み干して口をぬぐう。


 背中合わせに、レッドは誰かとぶつかった。ハッとして肩越しに振り向くと、そこにはひらりと飛び退いて攻撃をけた直後のギルが。


 互いの目が合い、不適な笑みを交わし合う。 


 そこへ、それぞれ相手にしようとしていた二人の男が、いきなり降ってきた人間に押しつぶされて、ともども床に倒れた。横っ飛びにその男たちの背後からぶつかってきたのは、リューイが胸倉をつかみ、引っ張り回したあげく放り投げた太った男だ。


 手間が省けた。


「ありがとよ。」

 ギルが礼を言った。


 それにリューイもニヤリと笑って返した。


 その時、リューイの足元で倒れていたまた別の男が、うめきながら無理に体を起こして、ほこりまみれの手を伸ばしてきた。


「お前、丈夫だな。」


 呆れたようにそう言ったリューイは、もはやヨレヨレの男を見下ろして立っていただけだった。そのため的が外れて左(そで)をぐいと引き下げられたリューイは、素早く胴着から腕を抜いて男に組みかかり、また無造作むぞうさに放り投げた。

 

 この男も簡単に宙を舞って壁に激突した。こともあろうに腐った羽目板はめいたが割れ、ヘロヘロになった男の体は、ベキッという破壊音と共に別の部屋へ飛び込んでいった。


 サッとけて、飛んでくる男に道を空けてやった見物人たちは、腹を抱えて大笑い。また分からないことを楽しそうにわめいて、のどに勢いよく酒を流し込む。


「レッドを手放して正解だったな。」


 寂しそうにそう呟いたライデルは、何を言っているのかと目を向けてきた子分たちに、レッドの方へあごをしゃくってみせた。


「見ろよ、あいつの顔。悔しいが、俺たちといた時よりも輝いてるじゃねえか。」


 かしらのいつになくキザなセリフに、仲間たちは一斉にふきだした。

 だが、それから一様に笑みを浮かべて、レッドとその友人たちを眺めた。


「いい奴らじゃないか。二人共最高だ。」


「仲間は飽きない奴に限る。」


 ライデルの言葉に子分のリオが付け加え、男たちは肩を組んで互いのきずなを確かめ合った。








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