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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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神のみぞ知る



 エミリオとの二人部屋で、カイルは手術に必要なものをそろえてレッドと向かい合った。


 エミリオは何をしているのか、まだ戻ってはこない。恐らく、主人が帰ってくるのを待っているか、夫人が気付くまでついていてやるつもりなのだろう。夫人は、自分の身に起こったことを覚えているかどうか分からないのだ。覚えていれば意識を取り戻した時に震えあがるだろうし、覚えていなければ目覚めた時の状況が理解できないだろう。


 たくましい腕の傷口から痛々しく血が流れていたが、カイルはまゆ一つ動かさずに手際てぎわよく洗浄し、施術せじゅつした。幸いナイフが細かったおかげで、縫い付けるのも数針で済んだ。


「それにしても、上手いこと突き刺さったね。深いけど骨は無事だし、これならすぐに回復するよ。運がいい。」


 果たしてそうと言えるのか・・・。レッドは肩をすくった。


「レッドってさあ・・・。」縫合ほうごうを終えたレッドの腕に包帯を巻いてやりながら、カイルは、今度はこう言った。「思ってたんだけど、運悪いよね。」


「さっきは運がいいって言わなかったか?」


「そうじゃなくて、ほら、リサの村でのことといい、日頃の行い疑っちゃうな。」


「馬鹿抜かせ。そういうさがなんだろうよ、俺は。だいたい、よくよく考えてみるとお前と関わってからだぜ、妙なことばかりが起こるのは。」


「僕のせいだっての?」


「不思議に思っただけだ。」


「じゃあきっと、僕もそういうさがなんだな。考えてみれば、もともと僕たちは特殊な運命にあるしね。この先、もっと怖い目に遭うかもしれないよ。僕たちが何に導かれてゆくのかは、神のみぞ知るだ。」


「冗談・・・。」


 カイルは淡々と言ってくれるが、レッドはゾッとした。あのような得体の知れない謎の生命体と戦うのは、もう御免ごめんだ。


「大丈夫だよ、僕たちには守り神がついてるもの。」


「ならいいがな。」


 本気かどうか微妙なその口ぶりに、レッドも苦笑を返した。とりあえず、自分にとっては何の気休めにもならない。


 そう話している間にも処置を終えたカイルは、「はい、もういいよ。」と、お決まりの笑顔。 


「動かしても平気か。」

 レッドは包帯の上から傷口をさすった。


ひじの近くだから曲げ伸ばしはひかえて欲しいけど、少しくらいならね。無茶はしないように。」


「気をつけるよ。」レッドは夜更けの窓の外に目を向けた。「さてと、そろそろ寝るか。お前も早く休めよ。」


 実のところ自分はさらさら眠る気などないのに、レッドはわざとそう言って腰を上げ、ドアを開けて部屋から出ようとした。


 だが、ふと立ち止まる。レッドはもう一度中をのぞいて、医療器具を片付けているカイルの背後から、改まった声で呼びかけた。


 縫合糸やクーパー(外科剪刀)を手にしたままで、カイルが振り向く。


「お前には世話になりっぱなしだな。ありがとう。」


 そう言い残して、レッドは部屋を離れた。


 再び手を動かした少年医師の顔には、少しのあいだ何か嬉しそうな笑みが浮かんだ。








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