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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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人身御供



 人々のあとについて行き着いた先は、居住区や商店街から離れた町の西端に、ひっそりとある神殿の遺構いこうだった。かつては高い基壇の上に完全な形で建ち、周柱式しゅうちゅうしきを付け柱としていたようだ。人々が集まっているのはその剥き出しの列柱れっちゅうに囲まれた場所で、その神殿の廃墟はいきょは列柱とテラスを組み合わせた構成になっており、中央に斜路しゃろが設けられている。


 儀式らしきことは、そこで行われようとしていた。


 高くなった広いテラスの上には二つのかがり火が焚かれ、間には何をするつもりか稲藁いねわらの束やたきぎが並べられている。さらに、それは石の台 ―― 祭壇さいだん―― を取り囲んでいた。


 そこには、黒っぽい外套がいとうをまとい、頭巾ずきんを深くかぶっている女もいる。そのせいで陰になっている顔はよく見えないが、胸の前に垂れている長い髪と、その体つきや着衣の感じから女であることはすぐに見て取れた。女は、何やら声高こわだかにしゃべっている。最後尾にいる一行にはよく聞こえなかったが、彼女がどうやら司祭者らしい。


 だが、真っ先に気になったのは、何よりも、女が両手でかかげている布包ぬのづつみ。それだけがいまいち見定みさだがたかったが、このセッティングからして、何が行われようとしているかはおおよそ察しがついた。


 その形や大きさから、信じ難い、恐ろしい予感を覚えずにはいられなかった。


「ここからじゃあ、よく見えないわ。」

 シャナイアの声はかすかに震えている。


「あの女が何か持っていることは確かなんだがな。」と、遠回しにレッドも言った。


「赤ん坊だ・・・。」

 重い声で、ついにギルが言いきった。


「あの子の誕生を皆で祝う・・・って感じじゃあないよな、どう見ても。」


 リューイは、自分の前にいる人々の顔をのぞき込んだ。誰もがみなうつむいて黙り込むか、手を合わせてひたすらおがむかだ。そうして両手をみ合わせては、さめざめと涙を流している者までいる。


「そんな・・・まさか。」

 言おうとしたカイルの言葉は、途中、口の中で凍りついた。


「・・・人身御供ひとみごくう。」


 苦い口調で、エミリオがあとの言葉を引き継いだ。的中していれば、早く手を打たなければ時間がない。


 誰も、このまま見過ごすことはできそうになかった。どんな理由があろうと。


「だけど変だよ・・・僕 今、寒くて気分が悪い。ここ・・・呪われてるよ。」

 カイルはそう言って、エミリオを見上げた。


 エミリオも見つめ返して、うなずいた。


「じゃあ、これは呪いを解く儀式か?」

 リューイが言った。


生贄いけにえなんて必要ないよ。だから変って言ったんだ。逆に呪いをかける時か・・・。」


「呪いの儀式かこれ⁉」と、リューイ。


「まさか。」と、策を考えながらも、ギルも思わず。


「うん。町の人みんなで、そんなことするわけないよ。呪いを解くといえば、大昔には、災いなんかが続くと神が怒ってると思って、生贄を捧げればしずまるとされてた時代もあったみたいだけど・・・。」カイルは少し視線をさまよわせ、すぐにまた真正面に目を向け直した。「とにかく・・・あそこ・・・あの女の人がいるあたり・・・。」


「おい、今、悠長ゆうちょうに会話してる場合じゃないだろ。お前の力で何か邪魔できる方法はないのか。」

 レッドがかすようにカイルにきいた。


「今、ここで何かしたらバレちゃうよっ。この人たち、みんな一応これを認めてるわけなんだから、邪魔してつかまったらどうするの。」


「ひとまずあの子を連れ去ろうにも、ここからじゃあ遠すぎる。たどり着くまでにひっらえられるだろうな。そもそも、走り込んで行ける通路もない。」

 ギルもため息まじりにそう言った。


 目の前は、大勢の信仰者しんこうしゃふさがれているのである。


 その隣で、エミリオはずっと眉間みけんしわを寄せて考え込んでおり、シャナイアはうろたえるばかりだ。


 恐らく人だと思われるものが、石の祭壇に横たえられた。そうこうしているあいだにも、儀式はとどこおりなく進められている。








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