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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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賭け



 男が先に離れていくと、レッドも一緒に席を立った。


「何かたくらんでる顔だぜ、あれは。」

 男の背中をにらみつけながら、レッドはギルにささやきかけた。 


「たぶんな。だが、こいつが迂闊うかつに一発やっちまったあとの方が、俺は怖いよ。」

 そう答えて、ギルはリューイに指を向ける。


 そのリューイも、レッドに続いてついて来ていた。


 誘われたその場所へ行くと、連中は相変わらず感じの悪い笑顔をそろえ、あまり快いとは言えない態度でギルを迎えた。正々堂々勝負する気がないのは見ても分かる。が、ギルは、まるで警戒心のかけらもないといった顔で、もの怖じ一つせず、その中に加わった。    


 そばには、レッドとリューイもついている。《《そういう》》事態になるまでは、手も口も出さないし、おとなしく見物しているつもりだ。


 一人の男がカードをきり始めた。まるで一枚一枚手に吸い付いていくような、見事な手捌てさばき。かなり使い慣れているとみた。なるほど、これなら巧妙こうみょうなイカサマを仕掛けるのもお手のものだろう。


 ギルはそう思い、先ほどひらめいたことをどう持ちかけるかを考えた。


「ちょっと待った。」

「あ?」


 突然ストップをかけられた男は、気に食わないといった目を向ける。だが、男のそんな態度を逆に面白そうに受け止めると、ギルはこう提案した。


「そう言えば、一般的なカード遊びでも、土地によってルールが違うと聞いたことがある。悪いけど、俺はこの辺りの者じゃあないんだ。そこで、こんなのはどうだろう。」


 連中は都合の悪そうな顔を見合ったが、しばらく考えたあと、ギルに先を話すことを許した。


「ほら、あそこにルーレットダーツがあるだろ?」

 ギルは店の奥隅おくすみを指差して言った。


 そこには確かに、赤と白の二色で大きく番号がふられている、またの名を〝回転式抽選ボード〟と言われるものが置いてある。


「あれに五枚くらいカードを貼り付けて、そっちが選んだ一枚を俺が射抜くことができたら、俺の勝ち。それ以外なら、一人につき三倍の賭け金ってのはどうだ。」


 そんなことを、ギルはあっさりと言ってのけた。


 ほかの全員、呆気あっけに取られて口を開けた。そう、レッドとリューイも。


 それから、連中は一斉にふきだした。


「こりゃあいい、一枚を狙って射抜くのだって簡単にはいかないぜ。」


「それも俺たちが選んだ一枚だと?」


 男たちは口々にそう言って、高笑いしている。できっこない。


 だがギルは無邪気な笑顔のまま、「ずいぶん得だろう?」と、少年のような声で言った。


「ようし乗った。おいお前ら、この中に金を集めろ。すぐに三倍にして返してやる。」


 一人が嬉しそうに、仲間の賭け金を自分の帽子の中へ集め始めた。仲間たちの方も、少しも躊躇ちゅうちょせずに大金を手放している。


 思わぬギルの発言に、一方のレッドとリューイは内心(あせ)っていた。レッドは、こんな腕白わんぱく小僧が言いだしそうな考えが閃きであったなど、ギルのことを、ほとほと読めない男だと痛感した。


「できなかったら、どうするつもりだ。」


 レッドはとがめるようにきいた。これなら詐欺さぎにあって、ひと騒動そうどうやらかす方がまだしもだ。


「できなかったら? そんな例え話は無用だ。」


「やったことがあるのか?」と、リューイ。


「いいや。自信があるだけ。」


 この返答にはさすがのリューイも呆れ返り、レッドは、「まぐれか奇跡でも狙うつもりか。」と、うろたえて言った。


 二人には、ギルの妙に堂々としているさまは、ただの無謀むぼうか恐れ知らずにしか見えなかった。


「まあ見てろ。」


 ギルはそんな二人を軽くなだめただけで、平然と男たちに向き直った。


「真剣に体で返してもらう。」


 レッドは半ば本気で考え始めた。この男なら、その気になれば三日でかせげるはずだ。


 三人がそうこうしているうちにも、連中の方はカードを一枚選び終えていた。


 ギルは、ルーレットと専用の矢を借りる許可をもらいに、従業員がいるカウンターへ。その間に、ほかの男たちはその勝負の場へと移動した。


 誘ってきた男が選んだカードをギルに見せ、ギルがそれを覚えたところで、五枚のカードはボードに均等に貼り付けられていく。


 そして準備は整った。


「いくぜ。」

 カードを張り付けた男が言った。


「いつでも。」

 矢を構えて、ギルもうなずいてみせる。


 できるわけがない、とは思いながらも、連中もヘラヘラとまりのなかった顔をひきしめた。大金を手にする期待に胸を膨らませて。


 ところで、この勝負には互いに条件をつけていた。正当な速度で回すこと。そして、一分以内に矢を手放すことである。


 ボードを回した男は、危ないと判断して素早く下がった。


 そして五十秒が過ぎた時、常識を超えた感覚や動体視力、それに集中力が導き出したタイミングで、矢は寸分の狂いもなくギルの手元を放れた。


 ほかの者から見れば、いつの間に矢を手放したのか。連中が気付いた時には、それは確かに一枚の真ん中辺りを突き刺している。


 連中はたまげて、目が飛び出さんばかりに釘付くぎづけになった。矢がとらえたその一枚に。回転しているターゲットを、どうすれば的確につかまえられるのか。色や周りの番号などが多少のヒントとなっても、回ってしまえば、ほとんど意味はなくなるはず。これだけでもじゅうぶん売り物になる芸当だ。 


 ただ、意地悪をして似ているものばかりを用意したものだから、近付いてよく見ないとまだ分からない。


 だがギルは自信に満ちた様子で歩いて行き、矢を引き抜いた。


 ギルは、ニヤッとほほ笑んだ。







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