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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第6章  白亜の街の悲話  〈 Ⅲ〉  
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僕は精霊使い



 戦いがいったん止んだこの時、二人は、エミリオの背後から嗚咽おえつが聞こえてくることに気づいて、目を向けた。


 刺客しかくの男が泣いていた。


「殿下・・・エミリオ皇子殿下、もうお止めくだされ。」


 そしてほかの男たちも次々と膝を折り、地面に両手をついて、同じく涙を流し始めたのである。


 それを見たギルは、剣を下ろした。


 なぜこんなことに・・・。家来が堂々と帝国の皇子をほうむりに来る・・・こんな馬鹿なことがあるかといきどおりもしたものの、その姿はもはやあわれでしかなかった。


 そしてエミリオに目を向けると、苦渋の面持ちでそんな家来たちを見つめている。


 そうして重い沈黙が続く中、やや離れた場所にいて、一歩も動けず、一言も発せず、ただただ立ち尽くすばかりの旅仲間たち・・・。特にレッドとシャナイアの二人は、ずっと気持ちの整理をつけることに必死になっていた。


「なによ・・・これ? どういうこと?」


 シャナイアは、この衝撃がこれほど胸にこたえているという、それにも戸惑った。特に、エミリオを知ったことよりも、ギルの正体を知らされたことに、より気が動転しているのにも気付いていた。それは、悲しみをともなっていた。本気でかれ始めていた・・・と、シャナイアは気付いて愕然がくぜんとした。


 だがそこで、ふと思い出した。イオの村で、レッドがいきなり妙なことを言い出したことに。


〝お前、エルファラムとアルバドルの皇子を・・・。〟


 そこでレッドが言いよどんだ理由に、この時ようやく気付いたのだった。


「あなた知ってたの?」

 シャナイアはとがめるようにレッドをこついた。


「知ってたらこんな顔するか。感づいてただけだ。」

 レッドはまだあからさまに驚いているその顔で答えた。


 そのレッドの左足には、おびえきったミーアがからみついている。この少女には全く理解できないままに、いつも仲が良くて優しいエミリオとギルの二人が、どうしたのか、突然人が変わったように怖い顔で戦い始めてしまったので、ショックのあまり、そのまま凍りついたようになっていた。


 やがて、ため息をついて静かに歩き出したギルは、地面に膝をついたままでいる刺客の男に歩み寄って行った。


 ギルが剣をさやに収めたので、エミリオも何も言わずに見守った。


「聞くが、エミリオ皇子を葬る以外に・・・なんだ。殺す以外にないとでも言いたかったのか。どうやってそれを証明する。首でも持ち帰るつもりか。できないだろう、お前たちには。」

 ギルは男に向かってきいた。


「もしくは・・・それにあたいするものを。」

 隊長が答えた。


 ギルは思案し、エミリオの顔を見て、それからエミリオの大剣に視線を落とした。

「エミリオ・・・無理を承知で頼むぞ。その剣を差し出してくれ。」


「それは・・・できない。」


「その紫の宝石が母親の形見だってことは、知ってる。だからこそ、お前を死んだと見せかけられるものは、それだけだ。」


「ちょっと待って、ちょっと待って! そんなの困る!」あせったカイルがたちまち悲鳴を上げた。「だって、それほかにはない特別な石なんだよっ。いるかもしれないし・・・。」


「じゃあ、エミリオを差し出す方がいいか。」

「もっと困る!」

「ならあきらめろ。」

「嫌だよっ、どっちも嫌だ!」

「わがままかっ。仕方ないだろ、それしか ―― 」

「あ、そうだっ!」


 ギルは、カイルが何を言いだすのかを待った。


「その精霊石を作ればいいんだ。」

「エミリオ、お前を死なせたくない。頼むから ―― 」

「ちゃんと話を聞いてよ! 僕は精霊使いだよ!」


 精霊使いという響きは、妙に説得力があった。リサでの一件のあとでは、なおさら気を引かれた。


「あの力でこの宝石を? どうやって。」


「水晶占いの原理さ。」とカイルは答えて、説明を加える。「その精霊石は、オルセイディウスに仕える風の精霊の中でも、より優れた使徒が集まって作られたもの。その色や輝きは、普通の宝石とは違って精霊によるものだよ。水晶に風の精霊を送り込めば、そういう色になるんだ。その色と輝きだけなら、この辺りに転がってる石ころで作ることができるよ。違うのは、そこに神の意志が宿ってるかどうかってことだけで、質は一緒。持って帰って鑑定させればいいよ。まったく同じ結果が出るはずだから。神秘の結果がね。エミリオが持たない限り、大きな違いはでないよ。」


 その通りだった。母の形見であり神秘の宝石であるそれだからこそ、証拠になるのである。


「石の成分はどうするんだ。マズいだろう。」

 ギルがきいた。


「全部抜き取る。風と大地の精霊を操って同等のものを作ってみせるから、まあ見ててよ。ただ、剣は用意できないけど。」


「それでいいか?」と、ギルはその暗殺部隊の隊長に問うた。


 隊長はエミリオ皇子と目を見合うと、ギルに向かって、ぎこちなく首を縦に動かした。


 すると、カイルは腰をかがめて、めるように地面を見回し始めた。この場にいる全員が不安そうに見つめる中で。


 そして、選んだ小石を一つつまみ上げた。それをよくよく眺めて、満足そうにうなずく。


「うん、この石が丁度いい。ちょっと悪いけど、そこのおじさん達どいてくれる?」


 両者の間 ―― 暗殺部隊と、ギルとエミリオとの間 ―― に割って入ったカイルは、刺客の男たちを手で追い払った。


「あいつ、俺を含めて言ってやしないだろうな・・・。」と、レッド。


 彼ら三人はやや後方にいたが、エミリオとギルの二人が下がってくることを予想して、さらに数歩後退した。


 二人の皇子も言われるまま、やや腰を引いている仲間たちのそばまで一緒に下がった。








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