祭りのあと
男たちが祭りの醍醐味を堪能すると、翌日はおのずと勤労感謝の日になる。ただ、豊穣への祈りや、実りある収穫に感謝する行事は祭りとなって昨日行っているので、この場合はまさに文字通り、最も体に応える肉体労働に精を出し、勤勉に働き続けてくれる男たちを労ってあげる日・・・ということ。
その男たちは、みな酔い潰れた格好で草原に寝転がっていた。それを遠目に、女たちが後片付けに取り組む。日常の畑仕事や家畜の世話も、この日の午前中だけは女手だけでどうにかこなす。
そして、太陽が力強く輝きだす頃、ようやく、男たちは示し合わせたように一人、また一人と体を起こし始めるのだった。
だが、この日。朝日が山の稜線を抜けきっても、村の男たちは爽やかな風に吹かれてまだ眠りこんでいる。
その中で誰よりも早く目覚めたカイルは、夕べのうちに、リーダーのクレイグと村長にだけフィアラのことを話し、彼女を受け入れてもらえるよう頼んでいた。一行のことをとても気に入っている二人は、その時、名医と認めたカイルの言葉を信用して、すぐに快くうなずいてみせた。集会を開いて、新しい仲間を迎える準備をしておくと、そう請け合ったのである。
カイルが目覚めた時、夜中にミーアを連れて、借家へ戻ったはずのシャナイアがそばにいた。男たちが起きそうな時間を見計らって、シャナイアは少し前にこの祭り跡へとやってきた。
彼女を連れてくるから朝食を用意しておいて欲しいと頼まれたシャナイアは、お安い御用と了解して、意気揚々と森へ出掛けていくカイルを、今、にこやかに手を振って見送ったばかり。
そして、そのあと。
シャナイアの表情が急変した。急いで仲間たちを起こしにかかる。
まずは、こういう状態でも一番寝起きのよさそうなエミリオから。
すると、エミリオは、シャナイアがそばへ行くだけで起きた。エミリオも勧められて飲んだが、勧められなければ注がなかったし、飲みっぷりが優雅すぎて、次が入るまでは時間をとった。それで比較的爽快でいられるのである。
少し朦朧としてはいたが、エミリオには、近くに寄ってきた気配がシャナイアであることは、すぐに分かった。エミリオは毛布を捲り上げて体を起こした。エミリオは知っていたが、酔い潰れているほとんどの者は、自分がいつ毛布を被ったのかを知らない。真夜中に、それを用意して戻って来た婦人や娘たちが、そっとかけてやったものである。シャナイアもミーアを寝かせたあとでそうしていた。
シャナイアは、「おはよう。」と言い、それから、「大丈夫?」と声をかけた。
エミリオはうなずいて、「ミーアはどうした。連れて帰ったのかい。」と、しっかりした声できいた。
「ええ、今はまだベッドで寝てるわ。あの様子じゃあ、お昼までは絶対に起きないわよ。」
エミリオは、傍らで伸びているリューイの肩を揺すった。
驚いたことに、リューイは跳ね上げた毛布と一緒にいきなり起きた。ところが、意外と(酒に) 強いのかと思いきや、そのあと、「うえっ、こんな変な気分は初めてだ。」と呻きだしたのである。
続いて、シャナイアはレッドの頬に軽い往復ビンタを浴びせる。まるで姉か母親のような手つきだ。
レッドの眉間に、いかにもうっとおしそうな皺が寄った。それから、こめかみを押さえてのろのろと背中を起こしたレッドは、「あったま痛てえ・・・。」と唸って、恨めしそうにシャナイアの方へ首を向けた。その動作がまた恐ろしく困難だった。
レッドが目覚めたと分かると、シャナイアは次にギルの耳もとで甘く囁く。周りが少し騒々《そうぞう》しくなっていたので、意識は緩慢に戻りつつあるところだった。毛布の陰から肘をついて体を起こそうとしたギルは、眩い陽光が射し込んできたとたん、目に一撃を食らったかと思った。
「しまった、つい羽目を外した。」
そうして全員目を覚ましたことを確認すると、シャナイアは、カイルが向かった先を元気よく指差した。
「追跡開始よ。さあ早く、見失っちゃうわ。」