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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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旅芸人として


「ええっと・・・ち、ちょっと待った!」 リューイはうろたえてそう言うと、レッドのそばまで駆け戻り、「おい、芸ってどんなのが芸なんだ。何をすればいいんだ。」


「いつも通りでいいんだよ。ほら得意のやつ、砂漠やイオの村で、盗賊相手にやったような動きを見せてやれ。それで立派な芸になるから。」


「あれは武術だ!」


 リューイが腹を立てると、エミリオが穏やかな声でこう言った。

「リューイ、技を披露してあげればいいんだよ。」


「技を・・・。」


「ああ。君がその体に得たものを、ほんの少し見せてあげればいい。イオの祭りの時も、君の強さを知ってみんな喜んでいたろう。」


「みんな、強い者を見るのが好きなんだ。」と、ギルも続けた。


 そして、ほかの仲間たちも笑顔でうなずきかけた。

 リューイは、いとも簡単に機嫌を直したようだった。


「分かった。」


 そうして再びステージに出たリューイは、なんの前触れもなく、いきなりバク転の連続技から、伸身しんしん宙返りで決めるという動きをしてみせた。人々はどよめき、それからまだ何かしてくれるものと思っていたので、息を呑んで待った・・・が、リューイはきょとんとしているだけである。


 やりげたつもりのリューイは、戻っていいものかどうかと迷い、仲間たちの顔をうかがった。すると、レッドやギルが〝続けろ。〟という仕草しぐさをしてみせている。それが分からず、リューイがきき返すような素振りをした時、再演の声が上がったのだ。それでやっと二人の身振りの意味を理解したリューイは、思い出したというように、遠吠とおぼえのような声を上げてキースを呼んだ。


 村人たちをゾッとさせながら、リューイの隣へとやってきたキースは、そのあと、リューイに何やら指示されて、少し離れた。


 何を始めるつもりなのか・・・それは、仲間たちにも分からない。


 ただ、腰を落として身構え、キースと向かい合ったリューイの面上には、不敵な笑みが浮かんでいる。


 キースが飛びかかった!


 会場からは一瞬悲鳴も上がったが、落ち着いてよく見てみると、キースは牙をくことはなく、つかみかかろうともしない。ただ素早く体をひるがえしては、リューイの体めがけて突進していくだけである。それをリューイも、体勢を柔軟に変化させて、くるくるとけ続けた。技を披露してあげればいい・・・そう言われて思いついたのが、実際に友獣たちを相手にしていたこの訓練。こうして反射神経に磨きをかけ、自分なりに回避パターンを研究してきたのである。めまぐるしい動きでありながら、まるで息を合わせているようにさえ見える両者のそれは、格闘技であると同時に一種のダンスのようでもあった。


 人々は興奮した。


「これは使える。」

 ギルが呟いた。


「今、本気で大道芸やらせようと思ったろ。」と、レッド。


「あら、いいじゃない。あと私の踊りと、エミリオの楽と、ギルの弓と、カイルの占いで旅費が作れるわ。ならやっぱり、あなたはファイヤーダンスね。」


 レッドはとうとう、言い返すことができなくなった。


 どっと歓声が上がった。村人たちは喜んでさかんに手を叩き、甲高かんだか指笛ゆびぶえがあちこちに鳴り響いた。


 その盛大な拍手と喝采かっさいの中で、カイルは一人誓いを立てていた。


 次の祭りの日には、フィアラもここに・・・。


 それからも夜通しで陽気なうたげは続いた。


 いつの間にか、村長や女性、それに子供たちも母親に抱かれて眠りながら帰って行ったが、男たちは構わず延々とさかずきを交わし合った。









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