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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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軽業師?



 そこから数メートル離れたしげみのかげ。そこに隠れている三人の面上に、ほっとした笑顔が広がる。


「心配して、暗闇にまぎれてわざわざ迂回うかいして、こそこそのぞき見て・・・何やってんだ? 俺たち。」


 腹這はらばいになったままのギルが、声を潜めて言った。しかも匍匐ほふく前進までした。


 シャナイアも同様、ギルの横で遠慮なく聞き耳をたてていたが、エミリオはその二人より後ろで、できるだけ体を小さくして座っている。無論、気にはなったものの、こんなふうに内緒でこそこそとするのは気が引けたのである。


 シャナイアは見つからないように体を起こして、地面に座りこんだ。

「それにしても、カイルがそんなに気にかけてる子って・・・どんな子かしら。」


「気になるな。」と、ギル。それから頭が出ないよう注意して胡坐をかくと、腕組みをして何やら考えだした。


 そして、シャナイアと目を見合う。


 感づいたエミリオが、「二人とも、何を考えている。」


「お前がよもやと思ってることだよ。」


「どうかと思うが。」


「その気がないわけでもあるまいに。」

 今度は何も返してはこない相棒に、ギルはふっと笑った。


 三人は先に会場へと戻り、エミリオは隣にいた青年に預けていた ―― レッドが立ち上がった時に素早く拾い上げた ―― ミーアを、再び膝に抱いた。ずっとそうしていたかのように。そして、ギルとシャナイアも、二人がカイルを連れて戻るのを見ると同じふりをして迎えた。


 周りの男たちもみな、やけに威勢よく笑って少年にさかずきを押し付ける。


「やあ坊や、来たか。まあ一杯付き合え。」


 カイルは礼を言って受け取った。なみなみに酒が注がれた。カイルは飲めるところを見せようとしたが、実は初体験。途端にごほごほとむせてしまい、そばにいたレッドに向かって口の中のものをふき出したところを、レッドは抜群の反射神経でけた。


 村の男たちは大口を開けて笑い、一人がそうしながら少年の背中をさすってやった。


 村長がのろのろと動き出したのが見えた。大きな焚き火台の方へ向かっている。


 つえを支えにして立ち止まった長老は、落ちくぼんだ目を一行いっこうに向けた。


「草原の晩餐会はいかがか。堪能たんのうしていただけたらば幸いじゃが。」


 一行は笑顔をそろえてうなずいた。


 それを見ると村長も満足そうに二度うなずいて、優雅に片手を上げた。その手も視線も、一行がいる場所とはまた違う方向へ向けられている。


「では我らの客人たちへ、この土地の民族音楽を。」


 すると、一行から見て舞台 ―― 焚き火台 ―― の後ろから、獣の皮を張って作った太鼓たいこや、木製のふえを持った数人の男女が出てきて、さっと演奏隊形を整えたのである。


 そして間もなく、リズミカルな調子の曲が始まった。その胸がおどるような音楽は、大地をくすぐり、空気を揺さぶり起こして、静かな夜の草原に響き渡った。彼ら草原の民たちの表情は、そんな曲にも勝って明るく澄みきっていた。カイルはつられてリズムを取りながら聞き入り、シャナイアなどは思わずステップを踏みだしたほどだ。


 曲は、最後まで陽気なまま終わった。演奏者たちの息が見事に合って音がぴたりと止まった時、ギルがいち早く絶賛の声を上げて両手を打った。それに続いて一行は盛大な拍手を送り、ここにいる全ての者が加わった。


「おい、そこの軽業師かるわざし。」


 拍手がまだ鳴り響いている中で、レッドが隣にいる武闘家の金髪青年にそう声をかけた。


 その瞬間、リューイは顔をしかめてみせる。


「お返しに、何か芸の一つでも披露してやったらどうだ。」


「だから軽業師って何だよ。」


「いいじゃない、できるなら何かやってみせてあげなさいよ。私たちはこれから旅芸人ってことにするんだし。」


「あのな、俺は・・・だいたい芸ってどういう意味だ。とにかく嫌だ。」


「私も引っ張り出されたのだから。」


「そうだエミリオ、もっと言ってやれ。」と、ギル。


軽業師かるわざしだって?」


 そのうえ具合の悪いことに、一行のそんな内輪話うちわばなしが酒に酔った男たちに聞かれてしまい、リューイは結局、芸人としてステージへと押し出される羽目に。


 リューイがまだ何かうったえているようだが、周りにいる酔っ払いのあおる声で聞こえず、リューイの口がぱくぱくと動くのしか分からない。はなから聞いてやる気もないので、そんな相棒にレッドは笑って手を振ってみせた。


 そのあとで、シャナイアの手がれ馴れしく肩にまとわりつくのを感じたレッドは、嫌な予感がして眉間みけんに皺を寄せる。


「リューイが終わったら、次はあなたが裸になって踊りながら口から火でも ―― 」


「俺はできないから、やらないっ。」


 あの時・・・イオの村でどう旅芸人といつわるかを考えた時・・・のあれは冗談だと思っていたが、この調子では本当にそのうちさせられかねないぞ・・・そう思い、レッドは、この女にだけは弱みを握られたり、借りを作るまいと気を引き締めた。だいたい〝火でも〟ってほかには何を考えてんだ。やっぱり剣か? やりか?


 一方のリューイは仕方なく観念したものの、何をどうすればよいのか分からず、注目を浴びたまま、ただ突っ立っている。


 沈黙に覆われた。








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