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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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余計なお世話


 やがて、げんおとがひとりかなでた。そして静寂せいじゃくが覆う・・・と突然、拍手喝采(かっさい)がわき起こった。


 シャナイアは笑顔でそれらに応え、愛嬌あいきょうを振り撒きながらエミリオと共に戻った。


「どう? れ直したでしょ。」


「お前に惚れた覚えはない。」レッドはぶっきらぼうに返した。「そうだ、お前、なに余計なこと言ってんだ。勝手なことべらべら喋ってないだろうな。」


「ああ、あれね。」

「やっぱり。」

「誰から聞いたの?」

「ユアン。」

「あら、男ね。女の子にはモテなかったの?」

「うるせえ。なんでそんな話してんだ。」


「あなただけモテてなかったからよ。それに、もう少し見られることに慣れた方がいいんじゃない? 本当はモテる口なんだから、もっと愛想よくしてなさい。」


「余計なお世話だ。」


「だって、それに・・・。」

 シャナイアの声が急に小さくなった。


「あ・・・?」


くやしかったんだもの。」

「なんだって?」

「なんでもありません。」


 シャナイアは思い出していた。レトラビアでの任務で足を負傷した時、レッドは見捨てずに、ずっと負ぶって歩いてくれたのを。激流の川を渡る時には、彼はほかの隊員の三倍その川を横切って、全員を無事に対岸へ渡した。レドリー・カーフェイという男は、体を張って可能な限りほかを最大限に生かそうとする、そんな男であることを、あの時の誰もが理解した。※


 それなのに、よく知りもせずに冷たくされそうなどという評判は、その時レッドに恋にも似た感情を抱いてしまったシャナイアには、我慢ならなかったのである。


 そのシャナイアはもう、レッドを半分無視して違うところを見ていた。


「あら、アイリーンだわ。」


 シャナイアは、会場を外れて潅木の方へ向かうその姿を目にとめて言った。


「カイルったら、とうとう皆にまで心配かけちゃって。」


「ああ、あの子が・・・。」

 ギルは、そちらに目をやってつぶやいた。その娘とは、今日の昼間に話をした覚えがあった。


「カイルより一つ年上なのよ、彼女。年頃が同じだから、余計気になっちゃうのね。」


 仲間たちはどうなることかとずっと見ていたが、やがてその暗闇の中から出てきたのが彼女一人だけであると、そろって落胆らくたんのため息をついた。


 彼女は肩を落として、何度も振り返りながら友人たちのもとへと帰って行く。


「ダメだったのね。カイルったら、いつまでいじけてるつもりかしら。」


「俺っ ―― 」

「もう一度 ―― 」


 リューイが意気込んで立ち上がり、同時にレッドも腰を上げた。


 二人は顔を見合わせる。


「一緒に行くか?」


 炎と喧騒けんそうから離れるにつれて、風のうなりは鮮明になり、冷気が肌身に沁みてくる。それらから、夜ももう遅いことにレッドは気付いた。夜更よふけが実感できるようになると徐々に酔いが冷めてきて、リューイも一つ身震いをした。


 カイルは両手で抱いている自分の膝に頭を乗せて、小さくなっていた。ずいぶん長いあいだ、この少年は一人そうしていたのだ。やはり気付いているくせに、間近まで近づいても見向きさえしない。


「こらガキ、いい加減にしろよ。」

 レッドが言った。


「いつまでそうやってえ、うじうじしてるつもりだ。」とリューイ。


「ほっといてよ。」

 カイルはつっけんどんに言い放った。今はかまってもらいたい気分ではなかった。


「悪い・・・。」


 しばらくしてからそう先に声を出したのは、リューイである。


 それにレッドも続いた。

「悪かった。けどなカイル、ほっとけないんだよ。お前はもう・・・弟みたいなもんだから・・・。」


 すると、すぐにではなかったが、カイルは悄然しょうぜんとした顔をのろのろと向けた。


「ごめん、みんなに心配かけて。でも僕・・・。」


「一人で悩むな。」レッドは、カイルの左隣に腰を下ろした。「今度は何て言われたんだ。」


 そしてリューイも、もう反対側に座った。






※ 『アルタクティスzero』 ― 外伝3「レトラビアの傭兵」  参照






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