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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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駆けくらべ



 まだ馬に乗れない子供たちによる徒競走が行われた。参加者は、ミーアとそう変わらない幼子おさなごばかりだ。どの子もき活きとしたいい表情をしている。


 ミーアもすっかりこの村に馴染なじんで、レッドやリューイに付きまとうこともなく、仲良くなった子たちとほとんど一緒にいる。そして、彼らの知らない間に、ミーアは人気者になっていた。魅力的な風貌ふうぼうで、愛嬌あいきょうもたっぷりとある。ただ、気はかなり強いお嬢ちゃんだ。そのことを、誰よりもレッドはよく知っている。


 さきほど行われた格闘とは違い、大人たちは誰もが相好そうごうを崩して、穏やかな声援を送っていた。荒々しい男の戦いのあとのこれは、言わばひとときの癒しであり、余興のようなもの。


 競争は簡単に終わる。一斉に駆け出し、折り返し地点に立てた木の棒を回って、戻ってくるだけ。だが、最後までどうなるか分からないほどに距離はある。


 アヒルのようによちよちてくてくと駆けてゆくのかと思いきや、思いのほか、どの子も野性的な、なかなかの走りっぷりを披露してくれた。そして驚いたことに、折り返し地点を過ぎるとミーアはぐんぐんとスピードを増して、前の三人をごぼう抜きに。結果、十二人中、上位三人の少年に次いで四位に押し上がるという快挙をみせた。


 始めは面白がって軽い声援を飛ばしていたギルやリューイも、これにはびっくりして目を丸くし、声をそろえて感嘆かんたんした。ミーアの素性 ―― 公爵こうしゃく令嬢であること ―― は、すでに知っている。それで自然の中で育った村の子供たちに匹敵するとは、驚きだ。


 だがレッドだけは、さすがに毎日のように侍女じじょたちをいてみせ、城を抜け出していただけのことはあると、内心でそのすばしっこさを皮肉った。


 だがふと、また瞳にかげを宿らせた・・・。


 城へ戻れば、あとは一生(かご)の中だ。親友はおろか、同じ年頃の友達を作ることも、一人でしたいことを、したいようにすることも出来なくなる。川の浅瀬あさせや草原を、こうして裸足はだしで駆け回ることも・・・。


 こんなに好奇心旺盛で活発な少女が、堅苦かたくるしい作法で縛りつけられ、付き人にずっと監視されて生きることになるというのは、レッドには可哀想でならなかった。


 そんなレッドを見つけたミーアは、キラキラ輝く大きな瞳で、とびきりの笑顔で、両手をめい一杯振り立ててみせている。


 レッドの方は、軽く手をあげて応えた瞬間に、少し頬をゆるめてみせるしかできなかった・・・。








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