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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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殺しても殺しても・・・



 赤い目が二つ迫ってくる・・・だが、カイルは子供をぎゅっと抱きしめるので精一杯だ。とっさに駆けつけたものの、この支配がかなくなった闇の中で、こんな状態ではまだ何もできない。


 すると突然、誰かが目の前に現れた。それがリューイだと分かった時には、赤い目玉だけでなくその体のつくりまで見て取れ、リューイがそいつと取っ組み合おうと身構えているのも分かった。


「いけないっ、逃げて!」

 カイルは悲鳴のような警告を発した。

「棘が!」


 リューイが驚いてよく見ると、そいつには手が無かった。初め背負っていると思われた翼は、鳥類と同じように腕の付け根から生えていて、足はあったが、交互に出して歩くというものではない。飛び跳ねながら突き進んでくるのである。翼以外は狼に似ているかに思われたが、遥かにみにくい怪物だ。そして羽毛は・・・恐ろしいことにイバラだらけ。しかもそれは、もう三度も跳躍すれば届くというところで、さらに突起とっきしたように見えた。抱きすくめられたら、ひとたまりもない・・・!


 とその時、突風のような勢いで獣の足音がやってきたかと思うと、一瞬、なんと魔物がその気配に気をとられてくれた。その好機を逃さず、考えるよりも早く暴れ馬のような蹴りを化け物に食らわせたリューイ。


 次は足音の正体がキースだと分かるよりも早く、「走れっ!」


 リューイは急いでキースの背中に二人の子供を乗せ、「死ぬ気でつかまっていろ。」と言い聞かせて、カイルと共に駆け出した。


「星明りが嫌なくらいなら、あいつら互いの目玉はどうなんだよ。似たようなもんだろ。」

 リューイが隣を走っているカイルにがなった。


「よ、よく分からないけど、質もあるんじゃないかなっ。星明りと魔物の眼光は、全く別物だよっ。」


 いくら蹴り飛ばされても、魔物は次から次へとめげずに立ち向かってくる。たいした武器を持っていないリューイは、棘だらけの翼の前では、真っ向から攻撃することができない。そのため素早く敵の視界から外れ、渾身こんしんの蹴りで蹴倒けたおすというワンパターンな足技一つで、キースやカイルに遅れをとらず援護しながら付いていった。


 一方、即席の避難場所にたどり着いた三人の剣士 ―― エミリオ、ギル、レッド―― は、人々が身を寄せるその最前線を守っていた。だが守備範囲があまりに広くて、全力で駆け回らなければならなかった。そのうえ一体に手間取るわけにはいかず、ほとんど一撃でしとめなければならない。それに、魔物が光に慣れてきている気がした。あせりが募り、体力は凄まじい速さで消耗していく。そう思わせないほど、その誰もが、なおも力強く武器を振るい続けてはいても。


 シャナイアは、避難場所の中心にある焚き火の前まで、無事にミーアを連れて来ることができた。だがあとは、レイラに預けてすぐにその場を離れ、レッドを探しに向かった。レッドは剣を二本持っているはずと。


 いつ終わるとも知れない恐怖。それに目を背けて、ただじっとおびえている娘や子供たちとは違い、男たちは、魔物の動きと戦いを、取りかれたように見つめていた。目の前を見たこともない赤い目をした怪物が動きまわり、苛立いらだったようなうめき声や、羽音がひっきりなしに聞こえてくる。怖い・・・だが、それでも釘付けになってしまう。松明たいまつの灯りに照らされて戦う剣豪たちの姿に。


 魔物はねじくれて動き回り、実に捕らえ難い。それにもかかわらず、エミリオは瞬時に見極め、次々と的確に斬り殺していくのである。ギルも同様、どれほど疲れていても狙いを外すことがない。大剣使いであるこの二人の剣捌けんさばきは、舞いのように華麗でありながら確実にしとめる威力をもつ。そして、アイアスの紋章を刻印しているレッドは、戦場では武神オリファトロスの化身と恐れられたほど。こんな窮地きゅうちだというのに、村の男たちはおかげで目を奪われ、息をんだ。


 しかしそうしていられるのは、彼らの戦闘能力が相手を上回り、常に先手をとることができているからだ。それなのに魔物が一向に絶えない、この状況。エミリオやギルは、すぐに気になっていた。殺しても殺しても、終わりなどないのだろう。きっと、呪いを浄化しない限りは。カイルは気づいているだろうか。だが今は、戦う以外にできることが無かった。








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