闇の中の死闘
創られた闇の中にあっては、ランタンの灯りも、焚き火の輝きも、本来の明るさよりも霞んでいた。それでも、少しは魔物を怯ませることができた。しかし、これほどのご馳走を目の前にしていては、住処に戻ろうという気にはなれないのだろう。ただ執拗にチャンスを狙っている。
焚き火のそばでは、ようやくまとまりだした村の男たちが松明を作り、避難場所の防御を強化しようとしていた。それをまとめているのは、クレイグである。彼は松明を持って魔物の動きに注意を払いながら、なおも懸命に指示を飛ばしていた。
「固まれ!」
よく通るクレイグの声が響き渡った。
「松明を持つ者は所々に散るんだ!」
クレイグのように武器を手に取ることができた勇敢な男たちは、円の外側に立って戦う覚悟を決めたようだった。
一方、カイルは、焦燥にかられながらも、一度にいろんなことを考えていた。
守るものが多すぎて結界が張れない。けれど、それよりもまず、錯乱した闇の精霊がいては、戦える新たな精霊の邪魔になる。せめて光があれば。
カイルは暗い東の空を見上げ、山の尾根があるあたりを見た。どうしようもなく心臓がドキドキしていた。涙がこみ上げてきて、泣きそうになった。
夜明けはまだ来ない。それとも、闇の精霊が辺りに充満しているせいで、朝が分からなくなっているのだろうか。
カイルは気が遠くなりそうだった。村人たちを残すべきではなかった。もっと強く説得すべきだった。
けれど、べそをかいてたって、何にもならない。後悔しても何の解決にもならなければ、ましてやうろたえている時では。そんなことは許されない。今は祖父はおらず、ほかに代わりの務まる者も。今ここでは、自分だけがその次元に立つことができるのだから。
カイルは必死で気を確かに持ち直した。
闇を引き下がらせなければ。戦える精霊たちがやって来られるように。朝を迎えられるように。
しかし、狂った精霊の正気を取り戻して収拾をつけるというのは難しく、しかもカイルには経験がなかった。ただ、砂漠の戦いで似たような目には遭っている。あの時、呼べるはずのない強力な砂の精霊たちの気を引くのは、命懸けだった。
死力を尽くすことになる。
すると、気付くことができた。そばから聞こえてきたのは、怯えた子供の泣き声・・・。
レッドは、リューイが投げつけた自分の剣を、化け物の顔から急いで引き抜いた。次いでそいつに止めをさし、上から下りてきたまた別の魔物をひと突きにして、乱暴に蹴り払う。そういうものが出ると予想して、念のために剣を二本備えて来たレッドは、腰にあるもう一本をも素早く構え、そのあと三体を立て続けに斬り捨てていた。
そこへすぐにリューイが駆けてきて、レッドが庇っていた少年を抱き上げた。
「この子は俺が。」
「頼む。」
そのあと続けざまに腕を振るって二体を斬ったあと、レッドはリューイを援護しながら焚き火の方へ向かった。
だがその途中、ふと泣き声を聞きつけたリューイが、レッドが魔物に乱打を浴びせている時にいきなり離れて、子供を片腕に抱いたままそこへ飛んで行ってしまった。レッドには戦いながらもそれが分かったが、今度は援護してやることができなかった。レッドは隙を見ては振り返り、ただ闇の中へと消えてしまった相棒の名を叫び続けた。