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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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闇の中の死闘



 創られた闇の中にあっては、ランタンの灯りも、焚き火の輝きも、本来の明るさよりもかすんでいた。それでも、少しは魔物をひるませることができた。しかし、これほどのご馳走を目の前にしていては、住処すみかに戻ろうという気にはなれないのだろう。ただ執拗しつようにチャンスを狙っている。


 焚き火のそばでは、ようやくまとまりだした村の男たちが松明たいまつを作り、避難場所の防御を強化しようとしていた。それをまとめているのは、クレイグである。彼は松明を持って魔物の動きに注意を払いながら、なおも懸命に指示を飛ばしていた。


「固まれ!」

 よく通るクレイグの声が響き渡った。

松明たいまつを持つ者は所々に散るんだ!」


 クレイグのように武器を手に取ることができた勇敢ゆうかんな男たちは、円の外側に立って戦う覚悟を決めたようだった。


 一方、カイルは、焦燥しょうそうにかられながらも、一度にいろんなことを考えていた。


 守るものが多すぎて結界が張れない。けれど、それよりもまず、錯乱した闇の精霊がいては、戦える新たな精霊の邪魔になる。せめて光があれば。


 カイルは暗い東の空を見上げ、山の尾根があるあたりを見た。どうしようもなく心臓がドキドキしていた。涙がこみ上げてきて、泣きそうになった。


 夜明けはまだ来ない。それとも、闇の精霊が辺りに充満しているせいで、朝が分からなくなっているのだろうか。


 カイルは気が遠くなりそうだった。村人たちを残すべきではなかった。もっと強く説得すべきだった。


 けれど、べそをかいてたって、何にもならない。後悔しても何の解決にもならなければ、ましてやうろたえている時では。そんなことは許されない。今は祖父はおらず、ほかに代わりの務まる者も。今ここでは、自分だけがその次元に立つことができるのだから。


 カイルは必死で気を確かに持ち直した。


 闇を引き下がらせなければ。戦える精霊たちがやって来られるように。朝を迎えられるように。


 しかし、狂った精霊の正気を取り戻して収拾をつけるというのは難しく、しかもカイルには経験がなかった。ただ、砂漠の戦いで似たような目にはっている。あの時、呼べるはずのない強力な砂の精霊たちの気を引くのは、命懸けだった。


 死力を尽くすことになる。


 すると、気付くことができた。そばから聞こえてきたのは、おびえた子供の泣き声・・・。


 レッドは、リューイが投げつけた自分の剣を、化け物の顔から急いで引き抜いた。次いでそいつにとどめをさし、上から下りてきたまた別の魔物をひと突きにして、乱暴にり払う。そういうものが出ると予想して、念のために剣を二本備えて来たレッドは、腰にあるもう一本をも素早く構え、そのあと三体を立て続けに斬り捨てていた。


 そこへすぐにリューイが駆けてきて、レッドが庇っていた少年を抱き上げた。


「この子は俺が。」

「頼む。」


 そのあと続けざまに腕を振るって二体を斬ったあと、レッドはリューイを援護しながら焚き火の方へ向かった。


 だがその途中、ふと泣き声を聞きつけたリューイが、レッドが魔物に乱打を浴びせている時にいきなり離れて、子供を片腕に抱いたままそこへ飛んで行ってしまった。レッドには戦いながらもそれが分かったが、今度は援護してやることができなかった。レッドはすきを見ては振り返り、ただ闇の中へと消えてしまった相棒の名を叫び続けた。








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