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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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レッドとユアン


 レッドには、ユアンが目で示したものを確かめるまでもなかった。当たっていると感じたからだ。だから、瞬間ドキリとした。そして正直ぎょっとした。何となくとも言わずに、なぜ彼はこうも断言できたのか・・・。それは単に彼が鋭いだけでなく、こういう喋り方になるたちでもあるのか。それとも自分の方が、あからさまにそういう表情をしていたのか・・・。


 レッドが考えていると、ユアンは視線を戻してたずねた。

「あの子には何かあるのか。君にそんな顔をさせるようなことが。」


「ああいや・・・。」

 返す言葉に困って、レッドは思わずうろたえた素振りを見せたが、すぐに口をつぐむしかなくなってしまった。

 そしてなぜか、「すまない・・・。」とだけ答えていた。


 レッドのこの反応に、ユアンは少々面食(めんく)らったような顔をした。何か深い事情があるのだろう・・・そう見て取れて、ユアンはあせった。

「僕が悪かった。そんなつもりはなかったんだ。」


 ゆがんだ笑みを浮かべたレッドは、無言で一度だけ首を振った。


 どういう関係かときかれた場合の返事なら決めていたが、ミーアを見つめる目に、どこか切なさやあわれみといったものが滲んでいるのはどういうわけか・・・という問いに対する答えなど用意してはいなかった。これは思わぬ質問だった。


 ユアンは、また違うところを見ていた。その耳の上辺りまである真っ直ぐな横髪が、ときおり夜風に吹かれて優雅になびいた。ランプの明かりの中では、その髪は金色に見えた。


「あの子は不思議な子だな。えっと・・・精霊使いとか言っていたかな、確か。」

 ユアンは髪を掻き流しながら、レッドの方を向いた。


 その精霊使いカイルは、難しい顔をして、もう何周も石碑の周りを歩いている。


「ああ・・・らしいが。」

 その様子をチラっと見てから、レッドは答えた。


「らしい? 頼りなげだな、君がそう言うとは。」


「信用はしているさ。あいつにそういう力があるのも確かだ。ただ、超常現象ばかり見せられるもんで、それと受け入れるに、まだ抵抗があるだけだ。」


 レッドが本心を返すと、ユアンも共感したようでうなずいていた。それからユアンは、続いてリューイに手を向けた。


「それじゃあ、向こうの彼は。」


 レッドも視線をやると、ミーアと少年たちに囲まれているリューイは、満面の笑みを振り撒きながら、子供たちと一緒にキースの毛皮を掻き回している。キースは何をされても何の関心もないようで、おまけに、レッドが見ている時に大あくびを一つした。


「ああ、あいつは子供みたいな大人で、武術の達人だ。それと怪力。」


「ずいぶん・・・変わったお友達だね。」


 口調も非常に温和で知的ながら、ユアンは呆気にとられた顔をしている。


「変わってるなんてもんじゃないさ。あいつは、とても一言では語りつくせない男だ。まだあるぜ、ほら、猛獣使いってのが。」


 ユアンは声をあげて笑った。

「なるほど、あの話は確かみたいだ。」


 レッドが何のことかと黙っていると、ユアンは焚き火がある方を指さして言った。

「女子たちが、あそこで君のうわさをしているよ。興味があるみたいだな。行ってあげたらどうだい。実は、僕はたまたまそれをそばで聞いて、君に目を向けたら、君があんな浮かない顔をしたのが見えたってわけさ。」


 レッドは少し首を伸ばして、そちらを見てみた。


 すると、何人かの娘がさっと顔をらした感じがした。


「噂って・・・どんな。」


こわそうなのは見かけだけで、本当はすごく優しいって。それから、剣術の達人だと。」


「あいつめ・・・何言いふらしてんだ?」

 レッドは囁き声で悪態をついた。そんな余計なことが言えるのは、シャナイアに違いない。


 それにしても、優しいというより甘いという自覚があるレッドには、シャナイアにそんなふうに思われているとは意外だった。だが、一瞬どきりとした、アイアスであるところは一応気を使ってくれたらしい。イオでの一件で反省したレッドは、ここでは紋章をかたくなに隠すこともなく、ひたいの布を付けたり外したりしていたが、やはり大っぴらにするのは本意ではなかった。


 そこでユアンがふと気付いて、二人は、若者が集まっている焚き火場所へ視線を変えた。ギルが口に手を当てて何か言っている。その隣にいるエミリオも、こちらを見ながら微笑している。よく見ると、周りの青年たちも、みな。


 そのうち一人が手招てまねいてきて、何人かがそれにならった。


 顔を見合わせたレッドとユアンは、笑顔でうなずきながら立ち上がった。そして、最も盛大に燃え上がっている炎のもとへと足を向けた。








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