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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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精霊使いである証拠



 カイルがその場に立膝たてひざをつくと、周りにいる男たちは思わず下がった。


 カイルは虚空こくうを見つめ、そこへすっと両腕を差し伸べる。続いて、その腕はなめらかに、大きく動き始めた。


 カイルはゆっくりとまぶたを閉じていく。そうしながら、静かに、何かに呼びかけ続ける。


 時間はいらなかった。それらはすぐに応えてくれ、間もなく、ひたひたとつどい始めたのである。


 何かが忍び寄ってきた。


 人々が頭上に目を向けると、夜空の星々が手の届きそうなところに舞い下りてきていた。無論、天体の星ではない。それは、金色や銀色に輝く小さな粒子りゅうしの集合体。それらがあまの川さながらに、すぐ頭上でうねりながら流れているのである。ランタンを持つ者たちは、もっとよく見たいという衝動によって、知らずと手を動かし、言われた通りに次々と灯りを消していった。


 すると、光の精霊群で織り成される天の川がいっそう際立きわだち、力強く輝きだした。その息を呑む美しさにせられて、ほとんどの者が呆けたようにぽかんと口を開けている。そこで気付く者がいたとすれば、なぜ呼ばれたのかととがめられるように、光の精霊に髪をまさぐられている美少年が、それでもなお呪文を唱え続けている、妖麗な姿を目にしただろう。だがその必要もなく、一人としてこの現象にとらわれない者などいなかった。それはまさしく精霊使いそのものと言えたが、人々にはもうじゅうぶんだった。


 やがてカイルは、〝 戻れ 〟という意味の最後の命令を口にして、ささやかな呪術を終了した。そして、辺りが次第に薄暗うすぐらくなりつつある時には、〝 ありがとう 〟と声にせず言い、自然の月と星明かりだけになると、〝 ごめんね 〟と、つぶやいた。


 エミリオとギルはがらにも無く、すっかり茫然自失の状態にあった。共にそれと名乗る者がいることは知っていたし、見たこともあった ―― 中には詐欺紛さぎまがいの者も多いと聞く ―― が、それを、こうも疑う余地なく堂々と証明してみせられたのは、初めてだ。


 一方、ミーアも上を向いたまま目をぱちくりさせ、シャナイアもまだ首をけ反らせて、うっとりしている。


 それに比べて、危険で遥かにすさまじかったものの、以前に一度その力をの当たりにしているレッドとリューイは、いち早く現実にかえることができた。


 やがて、一つ、また一つと、我に返った者が再び灯りを点けだした頃になって、カイルはゆっくりと立ち上がった。


「どう?」


 カイルは、クレイグとマットに向き直って言った。


 二人は驚愕きょうがくの眼差しを返し、そのうえマットなどは思わず一歩身を引いた。


「信じてくれる? 全てを。」


 カイルは、あのあとではいっそう神秘的に見える緑色の瞳で、そんな二人をじっと見つめる。


 クレイグは、はっきりと一つうなずいた。

「これで、心底から君を信頼できる。女神メテウスを、まわしい呪いから解き放してくれ。君にかけよう。」


 だが、それに対するカイルの表情は浮かない。


「残念だけど・・・この石碑はくだけてしまうことになります。女神の像も・・・。」


 クレイグも顔を曇らせた。

「どうしても・・・。」


 カイルは申し訳なくなり、彼よりもさらに小さな声で答えた。

「うん・・・呪いを解くと・・・そうなっちゃう。どうしても。」


「そうか・・・なら仕方が無い。デイヴにも悪いが。」


「気にむことはないさ、クレイグ。」

 とその時、人垣の中からそう声があがった。

 声の主は続けた。

「また頼めばいいじゃないか。あいつの創作意欲を掻き立てる、とびきりの材料を用意して。」


 すぐに村人たちは賛同の声を上げた。


「待ってくれ。それならいっそのこと、誰も近付けないような谷底へ、崖から突き落として粉々《こなごな》にすれば ―― 」


「ならん!」


 そう言いだしたマットをクレイグがしかるよりも早く、突然、村長の辛辣しんらつな声が響いた。


「この世に存在を許されぬ者の力を、あなどってはならぬ。」


 声は静かだったが、おごそかな表情を崩さない村長はそれを全員に対して言い、その場を圧倒した。


「その通りです。そんなことじゃあ呪いは解けない。ちゃんと儀式をしなくちゃあ。誤った判断で処理されてしまった呪いも実際にあるけど、必ず問題が起こってる。結局は、僕たちのような正式な術使いが解決しなきゃならなくなる。」


 カイルが言ってこの場はまとまり、クレイグがその場を引き受けて話を戻した。


「それで手立ては。」


 そうきかれて、カイルは手短てみじかに儀式の段取りを説明した。


 それにより、執行しっこうは予定通り夜明け前ということになった。








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