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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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村娘たちからの評価


 シャナイアは目をきょろきょろさせ、首をかしげる思いで確かめてみる。

「え・・・何を言っているの。あの方って?」


「ほら、あなたの恋人の、背が高くてとても美しい殿方よ。」


「エミリオのこと? 私の恋人ですって?」

 それが誰であるかはすぐに分かったが、シャナイアはまったく呆れ返る思いだ。


「あら、じゃあ違うの?」


「そうよ。どうしてそう思ったの?」


 シャナイアが逆にたずねると、隣の者同士、娘たちは互いに目を見合った。そうして、しばらくは誰も何も言わなかったが、少しすると、ここでは一番シャナイアと親しくなっていたレイラがこう言った。


「だって、あなたがあまりにも綺麗だから、お似合いだと思って。皆そう思っているわよ。」


 シャナイアは、ポカンと口を開けた。

「お似合いってだけで? 呆れた。」


「じゃあ・・・あの紫の瞳の方?」

「いいえ、違うわ。」

「いったい、どなたが恋人なの?」


 おかしなことを考えるものだと、シャナイアは呆気にとられた。

「誰も。みんな友達よ。」


 乙女たちはまた、信じられないといった顔を互いに見交わした。


 シャナイアが聞くところによると、エミリオはそのあまりの美しさと物静か過ぎる感じから、恐れ多くて近寄りがたい印象があるという。そのため、引けを取らない二枚目でも気さくなギルが、最も人気を得ていた。彼はこの数日間、そこかしこに《《あの》》笑顔を振りいていたらしい。それでシャナイアは、彼はホントのところは好色漢こうしょくかんで、出会う以前は、数多くの女性を手玉にとっていたのかしら・・・と何となく思い、なぜか不愉快になった。ギルの方では何も下心などなく、好奇心旺盛なためにしきりに出歩いて、あちこちで声をかけまくっていただけに過ぎなかったが。


 そうして、シャナイアと同じ年頃の娘たちが、ギルについてお喋りしていると、シャナイアよりもずいぶん若いように見えるアイリーンという娘が、やや気後きおくれしながら、リューイについてきいてきた。


 たちまち、話題はリューイに移転した。だがシャナイアには、彼は外見のその品の良さとは裏腹な内面を持っている、としか答えてやれなかった。彼は金髪で、空のように青く澄んだ瞳をしていて、貴族や宮廷淑女たちがいかにも好みそうな容姿をしている。ところが、その情熱は、彼に触れてみたとたんに、たちどころに冷めてしまうだろう。どれほどけがれなくても、見た目に合わない無知と無垢むくさは、そんな高貴な女性たちにとっては、たちまちがっかりしてしまうことだろうから。


 カイルは・・・ここに集まったのは、シャナイアと違ってもせいぜい一、二才という大人が大半だったので、恋愛の対象にはならなかった。弟になって欲しいという声があがった程度。


 そしてレッド。第一印象はたいていそうだろうとシャナイアも予想していたが、やはり彼は誤解されていた。ここではその目つきの鋭さだけが目立ってしまい、素朴な村の乙女たちを少しおびえさせてしまったよう。笑うとそうでもないのに、少々目尻の吊り上がった切れ長の瞳が、初め冷たい印象を与えてしまったらしい。それでシャナイアの、唯一それなりに答えてやれると思っていたレッドに関しての知識は、ほとんど彼をたてるために使うことになった。


 それで、シャナイアはこう教えてやった。彼を知れば知るほど見えてくるその魅力は、一度気付くと、知らないうちにどんどん引きこまれてしまうものだと。


 実際、シャナイアは経験者だ。レトラビア帝国での任務では、隊長に任命されたレッドは初め、アイアスであることを隠していたため、若すぎるというだけで隊員たちの不信感を買っていた。


 ところが、最後には誰もが彼を認め、チームとしていい関係を築いていたのである。レッドが知らずとまとめ上げた最高のチームだった。※


 それらのエピソードを交えて、ついでにシャナイアは、レッドの剣闘士としての強さのほども大いに飾り立てて教えてやった。おかげで本当の彼を知った乙女たちは、たちまち興味をもったようだった。


 人一倍敏感(びんかん)なくせに、密かな女心おんなごころなどにはてんで鈍感どんかんで、見られることが苦手のレッド。悪戯いたずら好きのシャナイアは、くすりと笑った。これは面白くなりそうだわ。






 ※ 『アルタクティスzero』 ― 「外伝 レトラビアの傭兵」  参照







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