花咲く茶会
特にすることもない。そう言って一階の明かりを消して回ったシャナイアにとって、今夜はそういうわけでもなかった。
昼間招待された通りに、村の外れにあるこの掘っ立て小屋へとやってきたシャナイアは今、ここリサの村の娘たちのお喋りに囲まれている。
何に招待されたか・・・それは、彼女たちが気まぐれでしばしば開く茶会に。なぜそれだけのことにわざわざ嘘をついたかというと、彼女たちは体よく茶会と言っただけで、夜もそこそこ遅い時間に開くのだから、きっと飲み会というのが本当なのだわと、勝手に思い込んでいたから。
ところが、来てみると、茶会は紛れもなく茶会なのだった。
だが、シャナイアはもう立派な大人。これから何か大事な仕事があるわけでもなく、まだこののどかな村で、のんびりと過ごしている。例え酒を飲もうが、年上のエミリオやギルにもうるさく咎められることはないだろう。
ただ・・・一人厄介な男がいる。レドリー・カーフェイ。彼には、使いようによっては弱みにされかねない、恥ずかしいところを見られていた。
あれは、二人が出会ったレトラビア王国でのある夜のこと。任務遂行を誓い、隊員たちが結束するための懇親会が催されたのだが、シャナイアには、そこで悪酔いしてレッドに介抱してもらったという苦い経験があるのだった。※
そういうことなので、その時の話をむし返されたくなかったシャナイアは、こっそり出かけるために、さっさと明かりを消したがったのである。
大振りの円卓があり、中央に手作りの花瓶が置かれ、黄色い花びらを何枚もつけた野生の花が四、五本さしてある。小屋の中は、可愛らしく飾られた乙女の部屋という感じだった。
シャナイアは、必ず話題になるだろうとは思っていたが、いきなりそれから始まって、ほとんどそれ一つでもちきりだ。それは、彼女を取り巻く ―― ただ身近にいる ―― 男たちの品定めをすること。
おかげでシャナイアは、雨あられという質問攻めにあった。どうも家族も同然の間柄だと思われているらしいが、シャナイアには、これはできれば避けたい話題だった。レッドについては、このおとなしそうな娘たちの中に、いかにも野蛮そうな外見が好みという変わり者がいるとすれば、望むことのある程度は教えることができる。しかし、ほかの者たちはというと困った。なにしろ、知り合ってまだ二週間も経っていないのだから。
そう困惑しているシャナイアだが、彼女の美貌もまたここでは目立っていた。レトラビアでは、王女の用心棒を務めていたシャナイアは、舞踏会などの集まりで、貴族の若い男性からよく口説かれた。そのせいで、同じ来賓の高貴な淑女たちから、あからさまに妬まれたり、嫌味を言われることもあった。
それに比べて、この村の娘たちは、春に咲き誇る花々を褒めるように、素直にシャナイアの美しさを賛美した。シャナイアにとって、それは不思議と異性にそう囁かれる以上によい気分になれたし、嬉しかった。
「ねえ、シャナイア。」
ミントのハーブティーを注いでくれながら、睫の長い凛とした瞳が印象的なレイラが声をかけてきた。
「ポールがすっかりあなたの虜になっちゃって、いつまでも夢うつつなのよ。おかしいでしょ。」
あまりおかしくなかったが、とりあえずシャナイアはほほ笑んで返した。そう言われても、こちらとしては反応に困ってしまう。
「ポールだけじゃないわ。ここの男どもは皆そうよ。」
今度は、隣に座っているリノアが、笑い混じりにそう言って顔を向けてきた。その口調がとても純粋だったので、シャナイアは気分を害されずに済んだ。
「でも可哀想。これほどの違いを見せつけられているんだもの。」
「そうね、あの方の前では手も足も出せないわね。」
続いて、円卓のあちこちからそんな声が飛び交った。