表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
126/587

真相



 それからしばらくは、それ以上言葉もなく互いに夜風に吹かれていただけだった。


 やがて、ギルが、今度はためらいがちにこうきいた。

「お前があの時、相手にしていたのは・・・俺なのか。」と。


 エミリオにとって、それはわけの分からない質問ではなかった。


 エミリオの母親は、もともとアルバドル王国の王女である。エルファラム対アルバドルの戦いは、エミリオにとっては母の故郷を、祖父母の国を攻めたことになる。


 ヘルクトロイで初めてエミリオを見た時、皇太子でありながら自ら参戦し、エルファラム帝国軍を迎え撃ったギルは、エミリオが再三反対を唱えていたとも、命令されてやむを得ずおもむいたとも知らず、迷いを見せないその見事なまでの戦いぶりに、何とも思わないのかとにくらしくも思えたほどだった。※ 1


 だが、そんなエミリオと一対一で対戦し、互いの剣をぶつけ合った時、ギルは直感した。残忍で凶暴な剣ではないと。野心もまるで感じられず、何とも悲しい剣に思えたのである。※ 1


 エミリオの振るう剣には、確かに迷いは無かった。亡き母が愛したエルファラムの民のため、迷いを断ち切り、精一杯苦悩に耐え、力の限り戦った。


 だからエミリオは、ギルを相手にしておきながら、自分自身とも闘っていたのである。それをギルも、そこに渦巻く事情までは想像もできないものの、直感的に感じ取った。さらに、共に旅をするようになって、本当のエミリオ皇子を知ったギルは、あの時の直感は間違いなかったと確信した。それで今、毎晩のように思い悩んでいるその訳を少しは教えてくれないか・・・と思い、こうして話しだした勢いで、つい口に出してしまった。


 しかしその頃の辛い記憶は、関連して、ほかの悲しみまでも全て思い出させた。


 返事に困っているエミリオを見たギルは、ハッとした。


「すまない、今のは忘れてくれ。」


 ギルは、あわてたように風を受けて彼方を眺めた。


 すると、ギルには意外なことに、エミリオが口を開いたのである。


「私は、エルファラムの民を家族のように愛していた母上を、ずっと見てきた。」


 ギルは驚いて、エミリオに視線を戻した。


 その時、エミリオは、ギルの方ではなく下を向いていた。


「そしてあの戦の前に、父上にこう問われた。アルバドルとの約束とエルファラムの民、選ぶとすればどちらを守る・・・と。父上は、目を見張る速さで屈指くっしの強国となっていくアルバドル帝国を、恐れていたようだ。」※ 1


 それを聞いたギルは、ホッとした。ヘルクトロイの戦いは、エルファラムが宣戦布告し、アルバドルが迎え撃ったものであったが、この男はやはり、アルバドルを制圧する野心をもってではなく、ただ母国を守りたかっただけなのだと理解できた。


 しかし、周囲の反対を押し切って自らの意志で出陣していた自分とは違い、命令されていたのだとすると、なぜ帝位継承者がただの一戦士のように扱われていたのか、ギルには理解しかねた。


 だが返事に躊躇されたことを思うと、これ以上はまだきけなかった。それでも少し答えてくれたことに、ギルは、内心満足感を覚えていた。こういう時間を重ねてゆくごとに、気心の知れた仲になれれば・・・。ギルはそう思い、今は一言こう応えた。


「そうだったのか・・・。」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ