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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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呪術による治療



 村の明かりがまだ点々としている頃、レッドとリューイは二人でカイルの部屋の前に来ていた。


「カイル、まだ起きてるか。入るぞ。」


 リューイがドア越しにそう声をかけると、カイルの「どうぞ。」という返事がすぐに返ってきた。その声が意外にしっかりしていたので、ほっと笑みを交わし合う。そして、レッドから先に入室した。


 中へ入ってみると、カイルの目の前には、色とりどりの小瓶こびんがズラリと並んでいた。どれも薬草を原料にした薬を入れているものだが、粉末ばかりだ。そして、薬包紙やくほうしと小さじを手にしているカイルは、そばにやってきた二人には目もくれず、量りの前に腰をえて慎重に薬の調合をしている。声をかけると邪魔しそうだったので、黙ってそばに胡坐あぐらをかいた二人は、しばらくは、ただその様子を眺めていた。


「もうすぐ終わるから、ちょっと待ってて。包帯を替えに来たんだよね。」


「いや、そうなんだけどさ・・・。」と、声をかけてくれたことで、レッドはそう返事をしながら、カイルの目をのぞきこむ。「この傷な・・・あの不思議な力で、治したりはできないのか。」


 不思議な力でというのは、呪術による治療のことに違いない。そうと分かって、カイルはすぐに的確な答えを返した。


創傷そうしょうの程度にもよるけど、できないこともないかな。ただ、完治とまでは難しいよ。治る時期を早められるだけ。」


「それなりに使えればいい。やってくれ。」


「いいの?」


「簡単なんだろう?」


 カイルはあきれたというように言葉を失い、さじを置いた。


「簡単なわけないじゃないか。自己再生機能や免疫めんえき細胞なんかの働きを、体に異常を起こさないように促進そくしんさせるんだから。」


 レッドは、イヴと出会った夜のことを思い出していた。あの日の彼女は、毒に侵された自分に一夜付き添い、特殊な力をもってその毒素を浄化してくれた。※ 彼女の、神から授けられたとも言えるその力にかかれば、どのような病魔もおとなしく身を引いていくように思われた。ひたいに手を置いてもらうだけだったが、ただそれだけのことで、薄くて硬い寝台は、春の柔らかい陽光が降り注ぐ丘の上の草原になり、突然感じたそよ風の愛撫あいぶには、全身をまさぐられるような快感さえ覚えた。そのあまりの心地良さに、レッドは思わず、手を引っ込めようとした彼女の手首を引き寄せ、もう少しとせがんだほどだった。※


 そういうように、イヴがやってみせた時は造作も苦痛もなかったが、カイルが言うのとは原理が全く違うのだろうかと、レッドは思っていくらか不安になった。


 レッドの意識が甘い記憶の方へとズレていたその間も、カイルは説明を続けている。


「そこには精霊による神秘の力が働く。奥の奥まで侵入させて、内臓にまではさすがに手を出せないけどね。それができるのは神精術師の中でも限られているし、それでも下手をすると突然死に至らしめてしまうことがあるから、おじいさんでも滅多にやらないよ。あせる必要のないものなら、自然に治した方が安全でいいに決まってる。」


「傷を治すぐらいなら、下手をしても死にはしないだろう? いいから、やってくれ。」


 カイルは少し顔を引いて、レッドをじっと見つめた。上手くいけばそう時間もかからないし、レッドの忍耐力なら急に動くこともないだろう・・・自分の腕に自信はないけど。


「痛いよ。」と、カイルはレッドに目を据えた。


 死ぬほどだろうかと正直恐ろしくもなったが、このあと考えている予定では戦いの予感がするので、念のために準備万端整えておきたかった。それに、何よりもアイアンギルスの名にかけて耐えうる自信がある。 


 レッドは改めて言った。

「やってくれ。」


 ところが、カイルの方は頭を掻きながら、「自信ないんだけどなあ・・・しくじったら、ごめんね。」と、頼りない声。


 レッドは、自分の口元が少し引き攣ったのが分かった。








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