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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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軒先の友情2 ― リューイとカイル


 今夜もまた、食卓にうかない顔がそろっていた。


 カイルの姿はない。


 いたわるような視線が、玄関のドアに集中している。


「カイルは依然いぜん・・・あのままか。」

 ギルは背凭せもたれに寄りかかって、腕を組んだ。


「ちょっとあなた、夕べ何しに行ったのよ役立たず。」

 シャナイアがつっけんどんにレッドを責める。


 レッドは深々とため息をついた。

「ダメだったか・・・。」


「カイルのあのような姿を見るのは、辛いな。」

 エミリオも食卓に目を戻したものの、その端麗な顔を曇らせていた。


 沈黙に覆われる食堂。


 やがて、リューイが静かに席を立った。

「今夜は俺に行かせてくれ。」


 それから玄関へ向かったリューイは、ドアに手をかける前に一度振り返った。仲間たちの視線を浴びているのに気付いていたからだ。リューイはただ微笑で応えて、外へ出た。


 ギルやレッドは、あまり言葉(たく)みでなさそうなうえ率直すぎるリューイに、あいつで大丈夫か・・・? という思いもあったが、その笑みには妙に頼もしさを感じた。


 リューイが外へ出てみると、いつの間にか雲が晴れて、みきった夜空に星がまたたいていた。そしてその下には、玄関ポーチの階段のところで、やはり昨夜と同じように悄然しょうぜんとしているカイルがいる。


 リューイもまた、初めに大きなため息をついた。

「上手くいかなかったのか。」


 カイルはうな垂れたまま、リューイの顔を見ようともせずに首を振った。

「分かってもらえたんだけど・・・。」


 カイルがそう答えている間に、リューイは隣にきて静かに腰を下ろした。カイルは素直に今日あったことを話し始めたが、その間ずっと顔を向けてくれているリューイの目を見ることはなく、うつむいたまま喋り続けた。


 そして、最後にこう言った。


「僕は医者だって言ったら、また逃げられちゃったんだ。」


「なに? どういうこった、そりゃあ。」


「分かんない。それに、泣きながらもう来ないでって。」


「具合・・・悪そうなのか。」


「ちょっと様子を見ただけだから・・・よくは分からない。でも、胸痛や呼吸困難を起こして血を吐いたから、軽くはない。むしろ危険である可能性の方が・・・。」


 二人は、しばらく無言でいた。


 リューイはふと視線を上げた。目の前には延々と広がる草原があり、遠くに見える牧場のさくの向こうには、こんもりとしげった森がある。


「で・・・。」と、リューイは言った。目は遠方へ向けたまま動かさなかった。「お前は言われた通り、その子をそのままにしておくのか。できるのか。」


「できない・・・。でも、会いに行ったらまた・・・。」


「逃げられるってか。ならやっぱりあきらめるのか? 見捨てるつもりか。」


 カイルは言い返さなかった。黙って、ずっと足元の野草を見つめている。


 リューイがそっとうかがうと、下を向いているカイルはぎゅっと口をみしめていた。


 不意に強い風が吹いて、リューイのさらさらの金髪が掻き乱された。


「風が出てきたな。」


 前髪を無造作に後ろへ流しながら腰を上げたリューイは、カイルの肩に置いた手に少し力を込めた。


「分かってるなら、余計なこと考えて臆病になるな。晩飯、片付けられる前に入ってこいよ。」


 リューイは、カイルを残して背中を向けた。そしてドアノブに手をかけたが、カチャリといわせただけで引きはせず、「カイル・・・。」と、いつになく真剣な声で呼びかけた。


 カイルも振り向かなかったので、お互い背中で向き合ったまま、リューイは最後に言った。


「きっとお前だけだぜ。その子を助けてやれるのは。」


 蝶番ちょうつがいきしむ音とドアの閉じる音がして、あとには吹き抜ける風と、ひしめき合う木々の葉擦はずれの音が残るばかりになった。


 カイルは振り向いた。ドアを見ていた。風が夜気やきをますます冷やしたが、その冷たさが感じられなかった。








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