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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
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秘密の会話



 ひんやりとした空気がこもる居間のすみに、即席ベッドが二つ並んである。昨夜は、窓のカーテンの隙間すきまからひと筋の月光が斜めに射し込んでいたが、今夜は自身の手のひらも分からないほど真っ暗だった。


 その闇の中で、ギルは頭の下に手を組んで仰向あおむけになっていた。

「いつまで隠し通せるかな・・・。」


 不意に、ギルは呟いた。だが、反応が得られると思った。少なくとも、相手にその気があれば何かしら返してくるはずだ。


「レッドは、うすうす感づき始めているようだが。」


 少ししたのち、そう声がした。ギルはため息をついた。それから枕元に手を伸ばして、小型の点火装置を探った。


 この時代の主な照明は蝋燭ろうそく、ランプ、そしてかがり火と松明たいまつで、ランプの開発は大陸全土で意欲的に進められ、種類も様々ながら、そのおかげで簡単に点灯させることや、明るさが自在に調節できるようになった。またそれに伴い、火打ち石と火打ち金などで頑張らなくても、燃料さえあれば一瞬で火を点けられる小型の装置いわゆるライターも発明され、今では少しも珍しい物ではなかった。


「そうなんだ、あいつは・・・。」


 ギルは言いながら、芯の長さで明るさを調節していたオイルランプに火を点けた。エミリオがこちらに顔を向けていた。ギルは二人の間にランプを置いて、同じようにエミリオと向かい合った。


「レドリー・カーフェイという男は、さすがに鋭くて抜け目がなくて、どうもひやひやさせられる。」ギルはそう言ったあと、「上手くやっているか。」と、ふときいた。


「言葉遣いの方か。」

 エミリオは苦笑した。

「今朝、母上・・・と、言いかけた。レッドといる時に。」


 ギルも苦笑にがわらいを返した。それをしかる気はなかった。自分も、イオの村で弓を誰に教わったかときかれて、思わず「父上に。」と答えていたからだ。


「それに、昔の話を少しした。私は、母上とよく町へ出掛けていたことなど、努めて皇族とは思わせない話をしたつもりだが・・・。」


「そうか。」

 それを聞いて、ギル自身エミリオのことを知りたくなったが、思い直して代わりにこう言った。

「だが、俺の方にだって気になることがある・・・。」


「それは・・・?」


「リューイだ。」


 エミリオは思わず笑い声をもらしていた。

「確かに。彼は親のことを何一つ知らず、子供の頃からアースリーヴェ ※ で暮らしていたらしいから。というより、もはや彼の全てが謎に包まれている。」


「ああ。ディオマルク・・・幼馴染おさななじみが言っていた話では、珍しい植物の調査と採取が目的でその密林に入ったものの、危険すぎて、あえなく断念したらしい。つまり、きっと親の顔も覚えられない幼児期に、獰猛どうもうな野獣が生息するその危険極まりない土地に連れ込まれたわけだろう? いくらなんでも、常識では考えられない。まさかとは思うが、あんなふうに化け物じみて強くするためだけに・・・だとしたら、そんな無謀むぼうな信念はとうてい理解できないだろう。あいつを育てたという師匠のじいさん一人の手で保護しきれるとも思えないし、その理由や事情も気になれば、なぜ生き抜けたのかも不思議だ。」


「彼は、非常に強くたくましく成長しただけでなく、そのうえ汚れなく天真爛漫に育ったことだけは確かだ。そういう信念のもとにだとすれば、実際、うまくいっている。彼については、不思議に思いだしたらきりがない。」


「生い立ちからもう謎だらけだからな・・・。」


 意外と神経質な一面も見せた相棒に、エミリオは呆れたように微笑した。

「もう眠ろう。」


 エミリオは上掛けを肩の線まで引き上げて、静かに目を閉じた。


 ギルも腕を伸ばして、ランプを消した。

「いずれ、その秘境へも俺たちは行く予定でいるわけだが。」


 そんな独り言を口にしたギルは、もう何の物音もしない暗闇の中で、しばらく隣に意識を向けていた。そこに横になっている者の呼吸を密かに聞き取ろうと・・・。 


 実は、エミリオが毎晩のように寝つきが悪く、何か延々と思い悩んでいるようであるのには、ギルは気付いていた。そして気にはなりながらも先に寝てしまうギルは、翌朝いつも思うのだった。こいつは、眠ることができたのか・・・?






※ アースリーヴェ・・・大陸最南端のジャングルの名称







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