表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第5章 風になった少女 〈 Ⅱ〉
111/587

軒先の友情1 ― レッドとカイル


「さて・・・。」と、ほかの者たちの注意をひいて、ギルは食卓に視線を戻した。「カイルのことはレッドに任せて、俺たちもいただこうか。せっかくのグラタンが冷めちまう。」


 ウッドデッキが張り出している玄関ポーチには、三段の階段が設けられている。そこに座っている少年の背中は、思わず支えてやりたくなるほど弱々しく、情けの無いものに見えた。


「こらガキ、どうした。」


 そのすっかり意気消沈いきしょうちんしきった姿に、声をかけ始めは思わずにくまれ口になってしまった。だがレッドは、それをまずいとは思わなかったし、むしろ変に優しい声をかけるよりは、こうして切り出す方がいいような気がした。


 カイルにはドアのきしむ音が聞こえていたし、気配も感じたが、振り向いて確かめることはなかった。声がして呼ばれたが、それも無視した。その声に誰かもたちどころに分かったが、どうでもよいことだった。


 レッドは腰に両手を当てて、わざと派手なため息をついてみせる。

「調子狂うんだよ。お前がそんなふうに落ち込んでると。」


 カイルの肩が震えたのが分かった。そして、やっと向けてくれた片目にレッドは瞬間ドキッとし、みるみる顔を曇らせた。


「カイル・・・。」レッドは静かに歩いて、カイルの隣に腰を下ろした。「何があった。」


 軒先のきさきの階段がある狭い場所に、二人は並んで座っていた。目の前には緩やかに起伏きふくする草原が広がっていて、遠くに、牧場の柵が影絵のように浮かんで見える。雲を透かして、まだ丸い月が辛うじてうかがえる夜空のもと、今日の出来事をぽつりぽつりと語り始めたカイルは、いつの間にか、レッドに気の休まる何かを求めるようになっていた。吹きつける風が心にまで沁みてきたが、隣にいてくれている者の存在感には、確かに安らぎを覚えることができた。


「彼女こう言ったんだ。また同じ目・・・もうたくさんだって・・・。きっと・・・どういう思いであれ、ずっと違う目で見られてきて、それが悲しかったんだと思う。」


「それが分かっていながら、絶句しちまったわけか?」


 カイルは下を向いて黙ったが、一つうなずいた。


「なら、今もまだ思ってるわけじゃないんだろ。そっとしておいた方がよかった・・・なんて。その子のために本当はどうしたいか・・・お前なら。」 

 

 レッドはカイルの顔をずっと見つめて話していたが、カイルの方はずっと自分の足元を見つめている。


 その子がカイルに冷たくあたった理由。今聞いた話から推測する限り、人に構われたくない・・・と、本気で思っているとは、レッドには思えなかった。伝わってきたのは人に対する恐怖心だ。不安や劣等感、それに、孤独感。むしろ救い手が必要な子だろう。それには、この少年こそふさわしい。


 しかし、そのカイルからの返事がなかなか返ってはこない。


「もしそこで言うことができていたら、何て言ってやるべきだったと思う。」


 すぐには何も浮かばず黙ったままのカイルだったが、やがて素直な声で、「思いつかない・・・。」と答えた。 


「何も言わなくていいんだよ。」


 とても静かな声で、レッドは言葉を続けた。


「分からないなら、ただ抱きしめてやるだけでもよかったんじゃないか? 彼女に何て言われたかを考えてみれば・・・。だったら、きっと、それが一番伝わる。何も言えなくたっていいが、お前はそこで、絶句するより先に両手を伸ばしてやるべきだったろう。その子の目を見て、ためらわずに正面からしっかりとな。」


 レッドは落ち込んでいるカイルの頭に手を置いて、ほほんだ。


「行ってこいよ。」


 カイルは、レッドの目を見た。その容貌ようぼうの険しさを、そうは思わせない優しい笑みが浮かんでいる。


 だがカイルは、自信なさげに、ひざの間で組んでいる自分の手元にまた視線を落とした。


「・・・分かってもらえるかな。」


「ああ。それができさえすれば、きっと・・・。」


 カイルの肩に手を回して、レッドは力強く言った。


「きっと友達になれるさ。」


 カイルは少し滅入めいった気持ちがふっきれて、その分自信に変わりゆくのを感じた。


 カイルもほほ笑み返した。


 夜空は、また少し雲が濃くなったようだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ