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【新装版】アルタクティス ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~   作者: 月河未羽
【新装版】 第4章  イオの大祭 〈 Ⅰ -邂逅編〉
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友獣 ―― キース


 松明たいまつの明かりは、一箇所に集中していた。暗い森の中に、赤々と色鮮いろあざやかに燃える炎の数々。まっしぐらに、リューイはそこへ向かっている。明かりに近付くにつれて、人々の緊迫した声も耳に届いてきた。


「こっちだ!」

「いたぞ!」

「気をつけろ!」


 その声を聞きつけたリューイの足は、更にスピードを増していた。リューイは、そいつがどこからやってきた何者かを確信していた。


 頼む、そいつを怒らせるな・・・。


「ダメだ・・・!」


 胸中で祈りながら、リューイは走りに走った。


 そいつはただ者じゃないんだ。やすやすと武器にかかるようなヤツじゃない。俺の親友で・・・特訓相手なんだ。


 リューイの不安は、被害者が出た場合により傾いていた。そうなればかばいようがない。焦りともどかしさで息が詰まりそうになる。


「ダメだ・・・キース!」


 行く手を阻む木の枝を引っ掴み、くぐり抜け、足元にはびこる木の根を飛び越えて、やがて、やっとリューイはそこへたどり着くことができた。


 すると、弓ややりを手にした男たちの後ろ姿が目に飛び込んできた。誰もかれもが、今にもぶっ放してしまいそうな緊迫感とともに、それらを構えている。弓はどれも簡単に発射できる機械弓ばかりだ。


 このまま近付いて行っても、通してもらえないことくらい分かる。リューイは頭上を見渡した。太くて頑丈そうな枝が狭い間隔で続いている。あれを伝って行ける・・・そう考えたリューイは、そばにそびえ立つ大木に手をかけるなり、信じられない身軽さでみるみる登り始めた。


 ものの数秒で、三メートルほどの高さまでいっきによじ登ったリューイは、そこから目をらした。


 すると、男たちが武器を構えているその先に、やはりと思う姿・・・!


 一頭の大きな黒ヒョウがいる。たくましくて、いかにも弱肉強食の世界を堂々と生きてきた力強さがみなぎっていた。よりそう感じさせるのは、そいつがまさに牙を剥きだして、威嚇いかくしているからだろう。完全に相手を敵と認めた・・・あの目つき。


 リューイは眉根を寄せた。その野獣の背中をまともに突き刺している矢が一つ。それを確認したのである。なぜけ切れなかった? とリューイは胸の内で問いかけた。


 その時、男たちのリーダーが叫んだ。


「もう一度だ!」


 リューイは合点がてんがいった。いや、かなりの数を避けたんだ、すでに一斉攻撃がしかけられたあとだ! と。猟師たちにとって、狙いが外れたほかの矢の全ては勢いよく飛び過ぎていき、茂みの中に落ちているに違いなかった。だから、利口なその野獣は無闇に反撃に出ず、慎重にどうすべきかと、どうしてやるべきかと考えているのだ。


 そして、作戦はたった。今、下手に一人に襲いかかろうものなら、格好の標的にされてしまう。飛びかかるふりをして、次の一斉攻撃を避けた直後が、狙い目だ。


 男たちは目配せをし、注意を促しあう。そして、武器の角度を慎重に合わせ、再び野獣に狙いを定めた。


 黒ヒョウは、ますます牙を剥きだした。


 マズい・・・!


 リューイはあわてて、枝から枝へと飛び移っていった。


 頭上の枝葉がいきなり騒々《そうぞう》しい音をたてた。何か大きなものが、上からみるみる近付いてくる・・・!


 男たちは驚いて、思わず引き金をパッと放していた。一瞬の気の緩みも許されないこの状況だ。みな心臓が止まりそうになった。


「無駄だ、俺に任せてくれ!」


 標的から目を放して、顔を上げる猟師たち。その声は上から聞こえてきた。


 すると声の主は、なんと宙を回転しながら、たちまち目の前に降りてきたのである。


 炎の明かりの中に不意に現れたのは、金色に輝く髪と青い瞳の美青年。


 男たちは仰天ぎょうてんして、つい構える手を休めた。


 するとそこへ、あとから次々と加わってきた。一足先に駆けつけたのはギルとレッド、やや遅れてシャナイア、その後ろにはエミリオとカイルの姿もある。


 今にも飛びかかってきそうな野獣の体勢と見幕を見て、レッドはいけない・・・! と感じた。例え慣れ親しんだペットだとしても、まともに言うことを聞ける状態だとは思えない。


 男たちと向かい合ったリューイは、両手を真横に広げた。野獣をかばう格好だ。


「あんた、何をやってる! 背中を向けちゃダメだ!」

 我に返ったリーダーが、厳しい声で怒鳴りつけた。

「さあ、向こうを見ながらゆっくりと後退あとずさりしなさい!」


 リューイは、背中を返した。そしてゆっくりと・・・野獣に向かって行った。


「何をっ⁉ 止まりなさい!」


「バカヤロウッ、戻れ!」

 レッドもたまげて叫んだ。


 だがリューイは、それらの声を無視した。その姿には警戒心のかけらもなく、ほかの者たちの目に、恐れ知らずというよりはあまりにも安易で、浅はかで、大胆に映った。信じられない光景である。


 リューイは、ただ真っ直ぐに相手の心をつかもうとしていた。


 しかし、見ている方は気が気ではない。


 リーダーが手を上げたのを合図に男たちは再び武器を構えだし、エミリオ、ギル、そしてレッドは、さやからスラリと剣を引き抜いた。


 黒ヒョウは依然、頭を低くして牙を剥き出し、鼻のつけ根にくっきりとしわを刻んで、威嚇いかくの姿勢をとり続けている。


 リューイは両腕を少し前へ差し出した。

「キース、落ち着け。俺だ、分かるだろ。」


 しかしその黒ヒョウは、リューイを見てはいなかった。ことごとく向けられているいくつもの槍や機械弓をずっと凄まじい目つきで睨みつけている。


「俺を見ろ!」


 怒鳴り声がとどろいた。


「キース!」







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