黒ヒョウ見つかる
「運命か・・・で、レッド、あなたはこれをどう思ったわけ?」
シャナイアのその質問には、レッドは肩をすくってみせただけだ。それでじゅうぶん答えになった。
「でも、こうしてここまで一緒に旅をしてきたってことは、それなりに納得できるものがあるんでしょう?」
「いや、俺はただ・・・。」
そう答えたレッドと、そのほか三人の男が視線を交わして、複雑な表情を浮かべた。
代わって、ギルがそれに答えた。
「俺たちは、あても目的も無い旅を楽しんでいただけだったから、特に困ることが無かったんだ。そこへ気のいい旅仲間ができて、喜んでいたところさ。」
「俺たちって?」
シャナイアは軽い気持ちで問うた。
「ああ・・・このエミリオと。」
ギルの方では、まずい話に及びはしないかと少しハッとした。隣にいるエミリオも同様、様子をうかがっている。
彼女が鋭く見抜いて、そういう質問を切り出すことはないと確信していた二人ではあったが、ただ、彼女は思ったことをすぐに口にしそうな感じがある。他愛ない会話の流れで、知らずと核心をつきそうな・・・。
「じゃあ二人は同じ国に住んでいて、もともと友達だったわけ?」
「・・・になれるかなって。」
やはりと思うとともに、ギルは不都合な点はさりげなく躱してそう答えた。
「俺たちもたまたま出会ったんだ。」
「運命だってば。」と、カイル。
「シャナイア、お前・・・エルファラムとアルバドルの皇子を・・・」
ついそこまで口に出していたレッドは、なぜか自分でも分からないままに言い淀んだ。しかしそれは、見たことないのか? と言いかけたことが、再会したその時から、何ら驚きもせずに一緒にいたシャナイアに対して、単に愚問であると気付いたわけではなかった。
「は? なによいきなり関係ない話して。」
ギルとエミリオは顔が強張らないよう意識していた。
「ああいや・・・なんでもない。ちょっと興味があってな、あの帝国の英雄たちに。だから、何か面白い武勇伝でも知らないかと思っただけだ。」
エミリオとギルは、そう答えたレッドの不自然さに、勘付き始めている・・・? と、察知した。二人は密かに目を見合った。
「私も興味あるけど、武勇伝と言えば、あの有名なヘルクトロイの戦いくらいかしら。」
「ああいい。それよりお前、俺たちに付き合う気あるのか? ないのか?」
「私は大歓迎よ、あなた達が大いに気に入ったもの。こうして旅資金もできたことだし。」
満悦の笑みでそう答えたシャナイアの目の前には、賞金の詰まった袋三つと、エミリオと組んで稼いだ硬貨の山がある。
カイルは、ほっと吐息をついた。
「よかった。」
「じゃあ、新しい仲間に乾杯ってことで。」
ギルがソファーから背中を起こして音頭をとり、シャナイアによってふるまわれていた珈琲カップを、ジョッキやワイングラスの代わりに掲げてみせた。
それに倣い、一同笑顔で、珈琲カップを手にした腕を軽く上げる。
バタンッ —―!
突然開いた玄関の音が、上手く話がついてイイ感じになっていたその場の空気を、とたんに張り詰めさせた。
驚いて一斉に目を向ける一同。
血相を変えてあわただしく駆け込んできたのは、シャナイアの親戚であるこの家の主人だ。
「やあ、客人たちよ、ようこそ。」
機械弓を手にした物騒な姿で、まずはにこやかに挨拶をしてみせた主人。だが、すぐにものものしい表情に戻って言った。
「シャナイア、黒ヒョウが見つかった。すぐ近くだ。」
「殺すの?」
「仕方ないだろう、相手は猛獣なんだ。」
「何もしていないのに、可愛そうだわ。」
「飢えていれば、そのうち誰かがやられる。とにかく、家から出るんじゃ ―― 」
まだ言いおおせないうちに、主人はいきなり客人の青年に押しどけられてよろめいた。その金髪の青年が突然、外へ飛び出して行ったからだ。
仲間たちは驚いた。今のリューイの行動は、明らかにその話に反応してのこと。だがレッドだけはハッと気付いて、誰よりも早く驚きから覚めていた。すぐに、リューイと出会った日のことが頭に浮かんだからである。
猛獣? けど、友達だ。
リューイは確かにそう言った。あの時はどうかしてると思ったものだが、今となっては頷ける。
「友達・・・。」
レッドはそう呟いて、やにわに腰を上げた。
「あいつの友達だ!」
剣帯を引っつかんだかと思うと、続いてレッドも出て行ってしまった。一方の仲間たちはレッドが残していった言葉に唖然と顔を見合った・・・そして —― 。
ギルが立ち上がり、大剣を手に取った。シャナイアがすぐあとを追い、足を痛めているエミリオとカイルまでもが次々と同じ行動をとったのである。
「今言ったところなのに・・・。」
玄関に立ち尽くしたまま、主人はそんな彼らの後ろ姿を呆然と見送ることになった。ふと顧みれば、ソファーに小さな女の子が取り残されている。置いてきぼりにされて、ふくれているミーアが。
「お嬢ちゃんは、ここでいい子にしてるんだよ。」
そう言い聞かせて玄関を閉めると、主人も再び森へ入って行った。




