マリアの選択肢
アリシア「開いて頂きありがとうございました!」
(出番が少ないと愚痴ったら、ここを貰いました!)
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「ミサが……ミサが消えただと?」
「私の預言では、これはアリシア国の仕業です、エルト王」
エルト王は整った顔を歪め、マリアと勇者達を、胡散臭そうに見ていた。
「ここは王城。簡単に他国の者が入り込める訳がない」
エルトはミサを失った動揺を隠しながら、マリアに詰問する。
ミサは人気のある王妃であった。それも自国だけではなく、他国に対しても。
その明るく、誰とでも仲良くなれる性格は、リカルド国の外交になくてはならないものだ。
国にとっては優れた王妃であり、エルト王にとっては愛している大事な妻であった。
「答えろ、マリア。ミサはお前達とあった後に消えたのだ!」
「アリシア国の仕業。そうとしか言えません」
マリアは、ただそう答えるだけであった。
明快な回答がなく、ただ預言と言い続けるマリアに、エルトは話にならないと諦めた。
セシル……第一王子のお気に入りであるため、激しい詰問がしづらい。
「もういい、セシル。後はお前に任せる。ミサを、頼む……」
第一王子のセシルに全てを任せ、エルトはその場を離れた。
「セシル王子、王妃様の事は残念です。私には解るのです、おそらくもう生きてはいないでしょう」
「聖女マリア、エルト王……父上のマリアを疑うような態度は済まなかった」
リカルド王子として、ではなく、エルトの子として。公の立場ではなく、私の立場から謝罪をマリアに入れるセシル。
賢王賢妃の第一王子は、優秀な人物ではあった。ミサの消失に不自然さを感じながらも、セシルはそれ以上にマリアの事を信用していた。
マリアが積み重ねて来た好感度は伊達ではないのだ。
「しかし、アリシア国か。ジャルドの国から独立した小国だったな……」
セシルは文章をマリアに手渡し、告げた。
「ジャルドに対して、明確に立場を決めさせてくれ。敵対、もしくは中立を取ろうとするならジャルドを潰す」
「解りました、セシル様」
味方だと言うならば、アリシア国に対しての捨て駒ができる。
前線でジャルドの兵をすり潰し、消失した王妃が居なければ、そのままジャルドを攻めればいい。
敵だと言うならば、今度は属国ではなく、完全にリカルドの物とする理由がたつ。
一度恭順をしておきながら、王妃を浚い敵対する、という行為に、他の国も黙ってはいないだろう。
どちらにせよ、軍を動かす事には変わりない、と勇者達一行は軍を編成準備を行う。。
勇者達五人、マリア、セシル。七人を旗印として、各二十万人。
合計、百四十万人の大規模な軍の編成と準備をしながら、ジャルドからの返答を待つ。
「ジャルドは敵か、味方か」
アリシア国、元ジャルドの辺境の地で、割譲した姪の国だ。
攻めればすぐにでも落ちるような、国と言うのも烏滸がましい、自治権があるただの街。
姪を守るというアリシアの叔父らしくない考えも浮かんだが、
育ててやった恩を仇で返すような姪に対してそこまでする必要はない、とアリシアの叔父は首を振った。
どちらにせよ、本気の編成をして進軍するリカルドに抗う戦力も無く、選択肢は無いに等しい。
アリシアの叔父はすぐに答えを出した。
百四十万の軍隊に、アリシアの叔父が出した五千の軍隊でを率い、アリシア国へと降伏の使者を送る。
「証拠はすでに集まっている。降伏しないと無駄にアリシア国の民を苦しめる事になるぞ」
その使者の強気な発言に、アリシアは震えながら、違いますと繰り返すだけであった。
涙を浮かべるアリシアにそそられたのか良からぬ事を考え、手を伸ばそうとした所へ
「私の召喚者に何をしていらっしゃいますの?」
使者はエレンにも現在のアリシア国の状況を説明する。
リカルド国の王妃を殺害した疑いがある事。
そして、預言の力を持った聖女が犯人だと断定した事。
百四十万の軍隊が攻める事。
アリシアの祖父。ジャルド国も攻撃に参加する事。
リカルド国の使者は、こういう場に慣れているのだろう。抑揚を付け、アリシアとエレンを責め立てる。
全く負い目が無くても、実は自分が悪いのでは?と考えさせられてしまう程度に、口が上手かった。
「アリシア国の代表者である、アリシア=ジャルドの首で、アリシア国の民の命は助ける方針です」
そういう使者の言葉に、アリシアが解りました、といいかけた所をエレンが遮った。
「アリシア、こういう場では何が大事か解るかしら?」
「そ、その誠意?」
エレンは顔を険しくして、アリシアの顔を挟み込んだ。
「貴方が犯人ですの?」
「ち、違うよ……でも」
そして使者はたたみかけるように言う。
「本当にアリシア国全ての人間が、やっていないと断言なさるのですか?今まで一度も預言を外した事の無い聖女様と、自分の叔父から土地をかすめ取ったばかりの、民を把握すらしていないような人間がやってないと?アリシア殿が部外者の立場でもそう言えるのですか?」
エレンはため息を付いて、アリシアの頭を撫でる。
「お手本を見せますわ」
そして、エレンはアリシアと使者の間に入る。
「部外者は黙っていろ。いくらアリシア殿の友達と言えど、それは正式な使者として来ている私に失礼ではないか?」
アリシアがジカルドの使者に謝ろうとするのを遮り、エレンは腕を振りかぶり……使者を殴りつけ、昏倒させた。
「え、エレン!?な、何を……?」
「ついかっとしてやってしまいましたわ……」
「エレン!?」
「冗談ですわよ?こういう交渉で大事なのは、相手の話をじっくり聞いてはダメなんですのよ?」
「それって悪い事なんじゃ……」
アリシアは馬鹿ですわね、とエレンは呆れる。
「証拠はないけど聖女とやらが犯人だと言っているから、百四十万の軍で襲ってやる。人質……民を助けたかったら、死ね。死んでなかったら殺す。そんな事を言ってる人の話をじっくり聞いても、疲れて嫌な気分になるだけですわよ?」
エレンの飾らない言葉を聞いたアリシアは、青くなった。
心配しなくてもアリシアは私が守りますわよ、と口にしてアリシアを優しく抱きしめた。
「ひゃ、エレン……なんで胸を……」
「抱きしめついでですわ!」
殺すのも面倒ですわ、とエレンは一通の手紙を持たせ、使者を追い返した。
ジャルド国内に滞在するリカルド軍へ、その使者が手紙を持ち帰ったのは数日後であった。
『言いがかりをつけた代償として、近隣の街を二つ支払うなら、今ならまだ許して差し上げますわ。 アリシア、エレン』
その手紙を受け取った勇者達は、聖女マリアに報告する。
「愚かだね。言いがかりだと言って近隣の街を要求しているよ」
「そう、使者からの報告は?」
「普通の民のみ。徴兵するとしても、すぐ動けるのは四千人という所らしいぜ」
槍を弄びながら、槍士は答える。
「そう……わかったわ。反省の色が全く見えないわね。アリシア国を攻め滅ぼすわよ」
そして、百四十万の軍は隊列を組み動き始める。
もしマリアが手紙を勇者達からきちんと受け取り、目を通していたら違う未来があったかもしれない。
その手紙には前世でマリアをトラウマにしたエレンの名前が入っているのだ。
『・謝って二つの街を差し出す。
・アリシア国を攻め滅ぼす ※エレンと敵対します』
ロードが無いこの世界では……
マリアが選んだ選択肢は、もう覆らない。
エレン「アリシア、落ち込んでいますわね。どうしたんですの?」
ポリポリとお菓子を食べながらエレンがアリシアの側へ来る。。
アリシア「エレン、私達のせいで、みんなが殺されてしまうかもしれないんですよね?」
エレン「……馬鹿ね、みんなが殺されるのは、リカルドのせいですわよ?私達のせいではないわ。(ポリポリ)」
アリシア「そのお菓子美味しいですよね、私も今日食べようって楽しみにしまってるんです」
エレン「……馬鹿ね、お菓子がなくなるのは、アリシアのせいですわよ。私のせいではないわ。(ポリポリ)」
アリシア「やっぱりそれ私のお菓子ですよね!?」
エレン「……馬鹿ね、契約だからアリシアの身も心もお菓子も私の物ですわよ(ポリポリ)」
アリシア「お菓子はなかったはずですよ……?」