表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/28

一作目ヒロインと二作目ヒロイン

開いて頂きありがとうございました!

//*** 7 ***//

 リカルド国にはミサの他に、もう一人の転生者が居る。

 最も有力な教会、正史教会から聖女と認定されており、内政チートと戦闘チートを駆使して上りつめた。


「ミサ様、セシル様はどこにいらっしゃいますか?」

「あら、マリア。セシルなら今日は隣国へ外交へ行っているわよ」

 ミサは自分が転生者だと隠している。

 ミサはマリアの事をこちらの世界の住人だと思わせていた。


 どうして?理由は単純だ。

「マリアちゃんは凄いわね、この間の輪作農法だったかしら?すごい効果だそうよ」

「はいっ!」

 内政チートで気分よくさせてあげるだけで、マリアは俺Tueeeと働いてくれるからだ。


 当然、ミサも前世の仕組みを取り入れるという内政チートは可能だが、あえてしなかった。

変な事をすれば、一番のお気に入りだったエルトルートのゆるゆる王妃生活が消えてしまうかもしれないからだ。

 別に内政チートしなくても、王妃という権力を握っているし、リカルドは貧しい国でも無いし、生活で困る事もない。

 ミサには、そうする必要がなかったのだ。

 

 それに、内政チートで新しい仕組みを提案する、という事は……

「ほら、マリアちゃん。モテモテね、十三時から農業大臣。十五時から工業大臣、十八時からは……」

 当然の事ながら、色々な人の面倒を見なければいけなくなる。

 うろ覚えの知識がこの世界で通用するか、検証も必要となる。

 下の者に任せようとしても、その知識はマリアの頭の中だけにある。

 当然の事ながら、マリアはその対応で時間が無くなっていく。

 戦略シミュレーションRPGである以前に、ここは乙女ゲーなのだ。パラメータのお金を増やすよりも、狙ったキャラとのイベントに回す方がいい、それをマリアは解っていなかったのだろう。


「マリアちゃんは可愛いし、いろんな事を知ってるからモテモテね、羨ましいわ」

 昼に仕事の合間を縫ってイベントをこなし、夜は仕事がスムーズに早く終わるよう仕事をする。

働き続けているマリアは引きつった笑顔で、頑張りますと答えた。


「マリア、大変だ」

 勇者達が入ってくる。攻略対象だけあって全員が整った顔立ちをしているが、

(何だかみんなぱっとしないのよね)

二作目のキャラはやっぱり魅力に欠ける。そうミサは思っていた。

(一作目は、シャルとエルトという二大人気キャラがいたけど……)

 天使な魔国の王シャルル=ジャルド。クールな大国の天才王子、エルト=リカルド。

『シャル……お前は下手な女性より可愛いんだから、そんな何でもするから、とか言うなよ』

 顔を赤くして、シャルルから顔を背けるエルト。

『でも、このままだと留年しちゃうから。お願い、エルト。本当に、俺にできる事なら何でもするから教えて』

『近い……顔が近い。解った、数学だったよな、教えるから少し離れろ……』

 こういう絡みがゲーム中、いたるところに大量にあった。

 潤んだ瞳で懇願するシャルに、顔を赤くして、目を逸らすエルト。

『なあ、シャルルは好きな女性は居ないのか?』

『今の所、俺は女性と付き合うよりも、エルトと付き合って遊んでる方がいいよ』

『つ、付き合う、とか。何を言ってるんだ』

 そういう二人のやり取りを見ながらニヤニヤして布団で転げまわった。

 こいつらできてんじゃね?というソフトな会話で、その先を妄想させるポイントを付いたテキストは、腐乙女達に人気であった。

 逆ハーはどんな事になるんだ、二人の絡みが見たい!

 そう思い、涎を垂らしながら逆ハーを狙うとエレンが立ちふさがる訳だか。


 悶えた時間を返せ!とエレンへの苦情は殺到した。

 それに、これでいいんだろ?満足か?

 とでも言いたげな態度で発売された二作目は勇者パーティーのテンプレキャラ祭りであった。

 その会社のエースシナリオライターは、自分の一番のお気に入りキャラであるエレンが消えると、後は任せたと若手の新人ライターへバトンタッチした。

 キャラ達の言い回しも陳腐になり、ミサはがっかりしたが、戦略シミュRPGパートが優れていた事もあり、人気はそこそこあったらしい。

(名前も自分で勝手に付けろっておざなりだったし、難易度は下がったけど、小さくまとまった感じだったし、何が良かったのかしら)


「ミサ様、何をぼんやりしているんですか?」

「あ、ごめんなさい。それで、何かしら?」

「占領したはずのジャルドがマヒロという街を勝手に割譲して独立を宣言したらしいです」

「……」

「勇者様達と私で動いて潰してきましょうか?」

 潰す?誰を……?まさかエレンと敵対する気……?

「リカルドに占領されても、土地を割譲して独立すればいいって悪い前例ができます。許せませんよ」

「ダメよ!!」

 あまりの剣幕にぽかんとするマリア。

「ミサ……様?」

「あ、ごめんなさい。ダメよ、許しません。そんな小さな街なんて、ほっときなさい」

 国の名前を聞いてマリアは焦っていた。

(『アリシア国』って、どう考えてもシャル様の娘、アリシアが建国した国じゃないの。ライバルキャラを残して逆ハーにならなかったらどう責任を取る気なのよ!)

 色々と不満が噴出して来るのを、抑えながら、マリアは笑顔を作った。

「で、ですが……ミサ様。私の預言によれば、早々に侵攻するべきだと」

 何が預言だ、とミサは内心で毒づいた。

 前世で二作目もプレーしていたミサは、逆ハー狙いで早々にライバルキャラ……アリシアを潰そうとしているだけだと解っている。

「ダメよ、これは命令です。絶対に侵攻は許しません。ジャルド国侵攻も、結果が良かっただけで本当なら罰を与えるべきなのよ?」

 そう強く言うミサに、マリアは俯き、

「NPCの癖に……」

 そう呟いて、マリアはミサを睨みつけた。急変したマリアの態度に、ミサは冷たい物が背中を伝う。

 だが引くわけにはいかない、と王妃らしく、強い口調で言い返した。

「あら?マリアちゃん、何か言ったかしら?このリカルド国、王妃の私に対して何か言いたい事でもあるの?」

 その一言で、マリアは……

「うるさい、ババア……。セシル様の母親で王妃だからって遠慮してるけど、アンタみたいなNPCにそんな事を言われる筋合いは無い」

 物でも見るような目で、ミサをババアと嘲笑った。

「……ごめんね、熱くなっちゃって。マリアちゃんも落ち着きましょう」

 やりすぎたかもしれない。ババアと罵るマリアにかちんときたものの、仕方ないとフォローしようとするミサに、マリアは腰に下げたナイフで横なぎに切りかかる。

「っ!?貴方、何をしているかわかっているの?私はリカルドの王妃よ?」

 ミサは一作目のヒロインだ。パラメータもやや高めに割り当てられている。

 マリアは自分のナイフを躱された事に舌打ちしながら笑った。


「NPCの癖にやるじゃない!さすが元ヒロインね!」

 そう叫ぶマリアに、ミサは恐ろしくなった。


 この世界はゲームの世界だとはいえ、人は存在している。

 きちんと感情も持っているし、どんな人にも、その人達の人生がある。


 異世界の人間、というなら、まだ解らない事もない。

 だが彼女は、

 【ノンプレイヤーキャラ】……つまり、【人ではない】と言ったのだ。その傲慢な物言いに、怒りを通り越して、怖気が走った。

(ゲーム感覚で私を殺しにきてるっ!)

 何度目かの斬撃を躱したミサに対して、マリアは後方で立っている勇者に声をかけた。

「勇者様、この王妃様を切りなさい。この王妃は私達にとって災禍です!」

「ああ、マリアが言うなら間違いない!」

「くっ!?」

 勇者が参戦してくる。一作目ヒロインとしてのパラメータを駆使して、躱すミサ。


 しかし……戦略シミュレーションRPGというゲーム上、ヒロインはそこまで強くない。

 仲間を育てて、全員で戦うというコンセプトなのだから。


「聖女、マリア様のためなら、誰だって切ってみせる。どんな汚名でも被ってやるさ!」

 そして、二作目の味方では最強の強キャラ……勇者の横なぎの剣を受け、弾き飛ばされるミサ。

 とどめだ!と剣を振り上げる勇者。


(これで終わりなのね……)ミサは目を固く閉じた。

悪役令嬢、エレン=アーク。彼女の方が、目の前の聖女よりもずっと人間らしかった。

ノンプレイヤーキャラ。転生者でないという定義なら、エレンはノンプレイヤーキャラだ。

親友だという私に構って、私の事を好きだと言ってくれた彼女は、私が死んだ後どうするんだろう。

目の前の聖女なんかより、ずっと人間らしい、逆ハー守護神、エレン=アークは……。

泣いてくれるのかな、と。ミサは剣が振り下ろされるのを見て……。


 勇者の剣が光に包まれ、振り下ろした後は、城の大理石を抉り取る。後には何も残っていなかった。

「これでうるさいのも居なくなったし、アリシア国を攻めるわよ!」

「ああ、勿論だ。愛しい俺のマリア。俺はお前のために、ただ一振りの剣となろう」


 リカルド王妃ミサは、勇者の一振りを受け……消滅した。

それを見て、マリアは人を消した事による罪悪感などみじんにもない、うるさい虫を潰した、というような清々しい笑顔を浮かべていた。

前世の二人のお話を少しだけ。


一作目発売後一週間目。某掲示板にて。

ミサ『本当にこいつはただの令嬢なのか?』

マリア『無理ゲーすぎるwww』


某日の掲示板

会社『逆ハーはけしからん』

ミサ『……F5連打』

マリア『……F5連打』

【Not Found】

ミサ『……やった(グッ)』

マリア『……ユーザー舐めんな!(中指立て)』


攻略情報が出た時

ミサ『各キャラ最低20回ずつパラメータ持ち越しで攻略。全てのアイテム、スキル、能力フルコンプ

バトルでは、スタン技【成功率十パーセント】を使い、十連続でスタンを成功させる。

一度でも攻撃を喰らったらリセット推奨。逆ハーいけたわ(^-^;』


マリア『……はぁ!? 何よその無理ゲは!DVD叩き割って掲示板に晒してやるぅぅぅぅ!』


その後の掲示板

マリア『逆ハーエンドの守護神が最強すぎるわ(チラ)』

ミサ『……』

マリア『逆ハーエンド見れねえよ、見てえよ……(チラ)』

ミサ『……』

マリア『(うpしろよ!攻略したんだから動画うpしろよ!!)』


実はこの二人、ネットで繋がっていました。

ミサ・マリア『あんただったんかい!!!』


読んで頂きありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ