アリシア国
開いて頂きありがとうございました!
ジャルド国、マヒロ。
その街は、呪われた土地と呼ばれていた。
まず、作物を植えても、育たない。作物が無いから動物が寄り付かないし、家畜も育てられない。
周りは岩山に囲われており、整備された道は無く、商人が来る事もほとんどない。
「さあ、アリシア。ここが私達の新しい国ですわ、アリシア国とでも名付けようかしら?」
楽しそうに、岩山を登るエレンに、アリシアは息を切らせながら付いて行く。
「く、国って。エレン、ここはジャルドだよ」
「割譲っていうのは領土主権の全てですわ。だからここは私達の国であってますわ」
エレンとアリシアの始まりの国は、ここマヒロからとなる。
「まったく、とんでもないことをしてくれたわ!なんで相談無しにマヒロを割譲したのよ!」
そう言って、ミサは部屋で頭を抱え込んでいた。
マヒロの開拓は、まず高ステータスの魅力を持つキャラが必要になる。
まず一年間。高魅力ステータスのキャラを配置して、マヒロの住民に認められる必要がある。
そうしなければ街として機能するようにはならない。
次に高ステータスの武力を持つキャラを一年間入れて治安を改善させる必要がある。
治安が荒れたままだと、街として機能しても問題が積み重なっていくだけだ。
治安がある程度安定すれば、高ステータスの知力を持つキャラを一年配置する。
そこで植物が育たない原因が、その村に大量にある石だと判別する事ができる。
そして鉱石を取り除く際に、それが実は高すぎる純度の、高級資源である魔法石である事が解るのだ。
高い価値の高純度魔法石を大量に保有し、作物も育ち動物も自生できるようになり、自活が可能となる。
ここまでがマヒロ発展のチャートだ。
ゲーム知識を持ったミサは五年前にこの地を訪れている。
その時、魔法石はひとつも見つからなかった。やはり、チャート通りに進めないといけないのだろう。
マヒロがエレンの元で発展すればどうなるか。
貧しい期間が長かったため、安価な労働力に溢れる中で、新たな産業である魔法石の採掘と加工が生まれる。
家電、重電、兵器、工業、研究。魔法石のニーズは高く、優秀な人材が他国から流れてくるだろう。
土地が広く四方を岩山に囲まれている自然の要塞(味方防衛ステ二倍、敵侵攻ステ半減)
兵を率いるのは完ストパラメータの仲間五人の大軍団で囲んでも勝てないあのエレン。
絶対に落とせない城に、優秀な人材、安価な労働力、マヒロはジャルドで、いやリカルドを合わせても一番発展する街になるだろう。
「頭が痛い……」
エレンは配置された街の治安を全てMaxにする能力を持っている。そして知力も、完ステの知力キャラ三人分以上の知力を持つ。単純計算で治安維持で必要な一年は無くなり、知力の累計フラグ管理なら、四ヶ月程度で解析・魔法石の発見までいくかもしれない。
そうなってからでは遅いのだ。
ミサは前世のゲームで敵対プレーをした時の事を思い出す。
そういえば、ステータスは公式非公開だが、エレンの魅力パラメータはやや低めに作られていたはず。
エレンがソロでマヒロを侵略した場合、治安改善と魔法石の発見まではすぐだったが、街の皆から信用を取るのに二年近くかかっていたはず。
序盤は厳しいから、今ならのってくるかもしれない。
今ならまだ間に合う。
『こんな酷い場所に親友のエレンを置いておけないわ!』
とでも言えばエレンから街を取り返す事ができるかもしれない。
ミサが決意して立ち上がった時……。
「ミサ。どうしたの?浮かない顔をしてますわよ?」
「エレン!?」
じっとミサの百面相を眺めているエレン=アークがそこにいた。
「丁度良かった、マヒロを割譲されたんでしょう?水臭いわ、エレン。私達は友達でしょう?その話を無かった事にしてもっといい条件の街に変えてあげるわ!」
そう言ってミサはエレンにリカルドとジャルド国の中堅程度の街のリストを手渡した。
「どれでもいいわ、この街は劇場で有名だし、この街は商売が盛んだし、こっちは技術力が……」
そこまで言って、エレンの手に握られた石に気付き、ミサは絶句した。
「ミサ、これお土産よ。これマヒロで拾った魔法石ですわ。心配しなくても、マヒロはいい街ですわよ?」
遅かったああああああ!!
ミサは悲鳴をあげそうになるのをじっと飲み込み、エレンに余裕をもって、そう?とだけ言った。
高純度の魔法石。魔力が詰まったその石は小指の爪程度の小石でも、高威力の魔法十発分に転換できる兵器だ。
どこの国も喉から手がでる程欲しい資源が大量にある街。
ジャルド全土どころか、その上でリカルド半分を割譲しても交換されない程の価値を持つ街と化けてしまったのだ。
「へ、へえ。よ、よくこんなの見つけたわね……さすがエレンね。よくこんな短期間で街のみんなの信用を取れたわね」
前世のゲームでエレンが二年近くかけていたはずなのに……とミサは呟いた。
「信用を取る?ミサが言っている事がよく解りませんわね」
そう言ってエレンは首を傾げる。
国民に絶対的な人気を誇り、マヒロに支援し続け街を発展させようとしたあの【シャルル=ジャルド】の一人娘であるアリシアが直接、割譲を希望して統治に入ったのだ。
「信用も何も、シャルルのお気に入りの街だったでしょう?最初からみんなフレンドリーでしたわ。中でもアリシアはすごい人気でしたわね」
「……そうね、アリシアは魔王シャル様の一人娘だものね」
ミサはそう言って思い出した。
ゲームの敵対ルートでのエレンはソロだった事を……。
アリシア「何だかみんなすっごく親切」
エレン「そうですわね、魔王シャルルの人気と、その一人娘って事でお祭りになりましたわね」
アリシア「治安も良いし……」
エレン「私は治安が悪いって言われた街に色々いったけど、全部こんなものでしたわよ?」
アリシア「この街って綺麗な石が多いね、エレン、この綺麗な石を削って整えればアクセサリーとして産業にならないかな?」
エレン「石……?あ、これ魔法石ですわね、それも高純度ですわね……。あ、あの岩山、一杯埋まってますわ!」
アリシア「エレン、魔法石が無いところに雑草生えてるわ」
エレン「これが阻害してるみたいですわ、石をのけて成長の魔法をかけたら普通に育ちますもの。つまり地面の下にも大量の高純度魔法石があるってことですわね」
アリシア「凄いわ、エレン!これがジャルド国で一番いい街って言ってた理由?」
エレン「……ええ、そうですわ(ジャルド国内で一番お酒が美味しかっただけなんて言えませんわね)」
高ステパラメータのエレンと、アリシアは四年かかるはずのマヒロ開拓を一日で終わらせたそうです。
読んで頂きありがとうございました!
ユニーク500人突破、PV3000。沢山の人に読んでもらえて嬉しいです\(^o^)/