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割譲の地

開いて頂きありがとうございました!

//*** 5 ***//


「有効だと認めます……」

 疲れたようにリカルド王妃は頷き、エレンの促すままサインをした。

『この契約に対してリカルドは認めます、リカルド王妃、ミサ』

 そう書き込む王妃に、アリシアの叔父は焦った。

「お、王妃様?属国とはいえ、ここは貴方の国も同然です。これは侵略ですぞ、貴方の国できちんと話し合われては!?」


「いいんです、エレンは、友達!だから……」

 王妃は頭を抱えて言った。

 ここで断ってエレンと敵対した場合、こんな場所に防衛なんて割けない。

 街一つと書いてあるし、今はまだ資源も税収も少ない魔国だ。

 これでエレンが大人しくなるなら安い物だ、と王妃は【友達】という言葉を強調する。

 最初からこの男が契約をゴネず、町一つ渡しておけば嫌な奴の顔を見なくてすんだのに。

 友達を連呼するミサに、エレンは嬉しそうに抱きつく。


 満足そうなエレンに対して


( ´・~・)……

 

ミサは恐ろしい猛獣に懐かれているような微妙な顔をしていた。


「さあ、親友のエレン。私を元の所に帰して。

 親友だからさみしいけど、親友の頼みは聞いてくれるよね?

 あと、もう私は王妃だから呼ばないで。

 親友の貴方に会えなくなるのは残念だけど魔術印を消してくれるかしら?

 親友の頼みだもの、エレンは聞いてくれるわよね?」


 一息に続けるミサに、エレンはこくりと頷いた。

「ええ、勿論ですわ。呼び出してごめんなさい。次は私が遊びに行きますわね!」

 そういって、エレンはミサをリカルド国へと送り返した。


 ミサを送り返した後、どやぁ、という顔をして、エレンはアリシアの耳に吹き込んだ。

「どやぁ……ですわ」

「どやぁ、です旦那様……ごめんなさい」


「……解った、お前達が自由にしていい街を選定する。それでいいんだな?」

「望む街を割譲する、でしたわよね……?まあいいですわ。それで、どこを割譲してくださるのかしら?」


 アリシアの叔父は睨みながら、一番影響が無い場所を考える。


 資源に乏しく

 税収が上がらず

 町として機能していないが、定義上は町となっているような失っても惜しくない街。


「マヒロ、だ。マヒロを割譲する。あそこなら今日から入ってくれても構わない」


 それらの条件を考え、出した叔父の答えにアリシアは顔色を悪くした。


 アリシアの叔父は他の価値のある街を指定される場合の事を考えていた。

 その場合は、割譲の準備があると言い、資源や人を移してしまえばいい、と。


「旦那様、あそこは……治安も資源も。環境もあまり良く……」

 アリシアが意見しようとするのを押しのけ、エレンは嬉しそうに言った。

「そう、マヒロね。では、私達は今日からマヒロに入りますわよ」


 アリシアが止める間もなく、エレンはサインする。

「あと、希望する街の変更や、ジャルドからの支援は一切認めんからな。あと、その証文も破棄するので渡して貰おう、履行済だからな」

「ええ、構いませんわ。きちんと割譲の証明を書いて頂きますわよ?」

 エレンは薄く笑った。


 その割譲の証明書を持ち、ジャルド国の北端にある街。

 エレン達はマヒロに転移してやってきていた。


「エレン、貴方って凄い……。こんなに簡単にどこの街にも転移できるなんて」

 そして、アリシアは目に涙を溜めてごめんなさいと謝った。

「あの叔父様から街を分けて貰えるなんて。でも……」


 マヒロの街は荒廃しているのだ。

 土地は広大で、昔から住み着く人が多い。取柄としてはそれだけであった。

 治安は悪く、街として機能させるのは難しい。

 目立った資源はなく、資源でやりくりする、という事もできない。


 農業は呪いがあり、まともに植物は育たない。

 商業は北端という位置で売買に不利であり

 工業は起こせるだけの技術と教育が足りていない。

 ジャルド王、シャルルの頭を一番悩ませた土地であった。


 今のマヒロは、他の街から支援でのみ成り立つ街というのが、この国の全員の共通認識だ。


「もっと、条件のいい街をお願いすれば……いえ、エレンに伝えられていれば……ごめんなさい」

「アリシアは何を言ってますの?あそこはジャルドで一番いい街ですわよ?」


……そして、その頃のリカルド国

 エレンの転移で、国に戻ったミサはすぐに行動した。

 ジャルド国にエレンが居る事、ジャルドの土地を割譲する話になっている事をすぐに王に告げた。

「あ、ああ。私達が学園に通っていた頃のアーク譲か。そういえばミサと仲が良かったな」

 そして半ば強引に割譲地を決めていい、という言質を取りすぐに悪役令嬢を封じ込める街の選定に入った。

 土地は狭い方がいい。

 人口は少ない方がいい。

 今、主流の資源ををそこそこ保持しており、

 そこそこ豊かでエレンが我慢できる程度の贅沢ができる環境。

 できれば動きをすぐにつかめるように、他の街へ包囲されているような街がいい。


 そして、候補地をジャルド国に送ろうとすると同時に、ジャルドから届いた報告にミサは絶叫する事になる。


『リカルド国のため、最も廃れた街であるマヒロを割譲した事をご報告します』


「なんでマヒロ!?そこは、そこはダメだってばああああ!!」

 よりによって、マヒロ!?なんでエレンに一番渡してはいけない所を渡すの!?


 このゲームをプレーした事のあるプレイヤーは知っていた。


 荒廃しているマヒロという街が、実はジャルド国で一番の価値がある街である事を……。

アリシア「エレン、本当にごめんなさい」

エレン「本当にここは最高の街ですわよ?落ち込まないでくださるかしら」

アリシア「……でも、でも」

エレン「(ゾクゾク)アリシア、貴方のせいでこんな事になったのよ。許せない、責任を取ってもらいますわ!」

アリシア「うぅぅ、ご、ごめんなさい。エレン、本当にごめんなさい。私、私どうすれば……」

エレン「仕方ないから、これにサインして頂きますわね。そうすれば許して差し上げますわ」

アリシア「……私、アリシア=ジャルドは愛するエレンのために、いつでも望まれれば胸を揉ませる事を誓います……?(まさか父様や、リカルド王妃様の割譲書類や召喚魔術印はこういう手口だったの……?)」 


読んで頂きありがとうございました!

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