王妃転移
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アリシアが泣きそうな顔をして、部屋で正座させられていた。
エレンはそんなアリシアを見て苦笑いしている。
「アリシア、お前は自分の役目も果たせないのに、お前みたいな居候をさらに増やせと言うのか!」
アリシアの叔父は、アリシアを恫喝するように怒鳴りつける。
アリシアは怒鳴られたショックで震えているが、エレンは退屈そうに自分の髪を指先で弄っていた。
「おい、貴様もだ。儂が怒っているのはお前の事だぞ、何を他人事のような顔をしている!」
怒鳴れば言う事を聞く、と思っているのか、顔を真っ赤にしてエレンにまで噛みつく。エレンは頬
を引きつらせたが、アリシアの方を見る。
「お願いします、ご主人様。その、昨日は気分が悪く嘔吐してしまいましたが……」
お役目の方も果たしますから、エレンをこの家でお世話する事を認めて下さい。
アリシアは頭を下げ続ける。
エレンは、犬猫の扱いなの?とアリシアを見やるが、アリシアの必死の説得へ口を出さず成り行きを見守っていた。
コンプレックスを抱いていた兄に似た整ったアリシアの顔が、悲しそうに懇願している。
その姿ににアリシアの叔父は暗い興奮を覚えていた。
自分よりも優秀だった兄、見下されていた兄と似た顔が、自分へお願いしてくる事に対して。
「旦那様、お願いします、エレンは私にとって、この国にとって大事な人なんです」
「ふん、こんな子供に何ができる。どこの子供かは知らないが、これ以上厄介な事はできん」
先程から怒鳴り散らしているアリシアの叔父を不思議そうに見つめている。
「……旦那様、彼女は王家に伝わる召喚術で召喚しました。お願いします、彼女を残してあげてください」
「まだ言うか!」
手を振り上げるアリシアの叔父。
アリシアはぎゅっと目を閉じて、身体をこわばらせる。そこへ、エレンが間に入ってエレンを引き寄せる。
空振りした叔父は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「ねえ、アリシア。聞いていいかしら?ここは貴方の国ですわよね?どうして、こんな扱いを受けているのかしら?」
「エレン、その……ごめんなさい。私はもう王族ではなく、ただの叔父の家に居る居候なんです」
落ち込んだ様子で言うアリシアを優しく抱きしめ、
「馬鹿ですわね、王族にしか使えない召喚をしておいて王族じゃない、だなんて」
クスクスと笑いながら、エレンはアリシアの頭を撫でた。
その芝居臭い台詞に、アリシアの叔父は激怒した。
「こんなどこにでも居る小娘を連れ込んで召喚だと?馬鹿馬鹿しいにも程がある!」
アリシアの叔父は、適当にそこらにいる小娘と仲良くなり、浅知恵で王族と思わせる小芝居をうっている、と考えていた。
「どこにでもいる小娘……?私はエレンですわ、エレン=アーク。私の顔に見覚えがありませんの?」
そして叔父はエレン=アークとぼそりと呟き、何かに思い当たったかのように身体を震わせた。
十五年前、隣国の学園へ留学し、帰って来たシャルルが連れてきていた女性だ。
『彼女には決して敵対してはいけない。私の恩人であり、私は妃として迎えたいと思っている』
そして、いつの間にか姿を消した王妃候補だった。
アリシアの叔父は、その時の顔を思い出し、ひっ、と小さく悲鳴を上げた。
似ている、どころではない。
記憶と全く同じなのだ。十五年前の彼女と、全く同じ容姿だったのだ。
顔色が悪くなる叔父に、アリシアはエレンが叔父を怒らせていると勘違いして、ただ謝り続ける。
「……で、出鱈目を言うな、エレン=アークだと?何を証拠に……それに貴様が本物だとしても、元王妃候補であっただけの貴様に何ができる」
懐からエレンは手紙を出す。簡素な封筒に包まれたその手紙には、こう書かれていた。
『シャルル=ジャルドは、私の愛するエレン=アークが求めれば、街一つの全権利を割譲する。 シャルル』
サインだけではなく国印が押されていた。
そして、丁寧に証明魔術がかけられていた。
証明魔術の内容は、彼女がエレン=アークである事。
そして、この文章の内容が本物であり、シャルル本人が記載した事。
無効だ、偽物だ、と叫びたくても叫べない。
「し、しかし私にはその権限が無い。私は王とはいえ属国なのだ」
「おかしいですわね、自治権があるはずでしょう?それとも自治権すら認めて貰ってないお飾りな王様なのかしら?」
お飾り、という所を強調して、嘲笑うように口元に手を当てる。
反感を覚えつつも、証明魔術に国印入りの文章をみつつ、歯ぎしりしながらアリシアの叔父は肯定した。
「あ、ああ、だからこの文章は無効だ。支配国のリカルド国が認めでもしない限り、前代の王の契約など守れるはずがない!」
そして、エレンは意地悪く笑って言った。
「リカルドが認めれば良いわけですわね。それなら話は簡単ですわ」
そう言ってエレンは転移魔術を唱え……
「あれ、ここは……」
リカルドの王妃を呼び寄せた。
そこには、属国の王として一度だけ謁見した事があるリカルドの王妃が現れた。
アリシアとその叔父の二人は、ただ呆然としていた。
リカルド王妃は上品な様子でキョロキョロ、と辺りを見回し、エレンと目が合う。
「久しぶりですわね、ミサ。あら、今はリカルドの王妃様だから、ミサ様って呼んだ方がいいかしら?ミササマって語呂が悪いですわね」
「ひっ、ひぃぃぃ!?エ、エ……エレン=アーク!?」
エレンを見て驚愕の声を上げるリカルドの王妃。
「どうしてここに!?退場したでしょう?貴方にはシャルル様を譲ったでしょう!?どうして今更私の前に出てくるのよ!!」
一国の王族を呼び寄せる魔術。そんな物はない。
もしそんな事が出来れば、一瞬で戦争が終わってしまうだろう。
そもそも、そのような魔術はこの世界に存在しないし、あったとしても国では魔術を防ぐ結界が何重にも施されてある。
それが出来たのは、簡単な理由からである。
「私が国を出る時に、いつでも呼んでね、友達でしょうって言ってくれたじゃない。ほら、貴方をいつでも呼び出せる魔術印よ?」
本人の魔術印を預けた場合は、本人が望んで転移しようとしていると解釈されるのだ。
「そ、それは……イベントだし、本当に呼ばれるなんて。それにもう十五年経ってるじゃない……」
文句を言うリカルド王妃に、エレンは冷たい口調で笑いながら言った。
「嘘ですの?友達じゃないって事ですの?敵対するって事でいいのかしら?」
エレン=アークを敵に回してはいけない。
敵に回した時はリセット推奨。
リセット?この世界で?現実世界のリセットスイッチはどこ?
虚ろな目をしながら、王妃様は引きつった笑顔を浮かべ……
「な、なにを言ってるの?私達は親友じゃない!久しぶりに会えて嬉しいわ!」
「私も嬉しいですわ!ミサ、胸大きくなりましたわね。触っていいかしら?」
そして、リカルドの王妃様の胸を揉みはじめるエレン。
「エレン、貴方は変わらないわね。あ、ち、違うわ、胸じゃないわ怒らないで。いつまでも若くていいなって事だから……」
アリシアと、その叔父は呆然と急な状況についていけずフリーズしていた。
エレン「あの王子と仲良くやってますの?」
ミサ「もう王位を継いだから王子じゃないわ。私も年を取ったし」
アリシア「お茶は如何ですか?」
ミサ「どこかであったような……」
エレン「この娘は私を召喚した子で、昔一緒に国から出たフェリスとシャルルの娘ですわよ?」
ミサ「……あ、そう。シャルル様をサポートキャラに渡すなら私を逆ハーにしてくれても……」
エレン「…………ねえ、ミサ。もしかして貴方は私の敵なのかしら?」
ミサ「冗談よ!?私達は友達じゃない!友達は冗談を言い合う物なの!」
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