魔王を倒す者
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ジャルド国。大きな大陸の南方に位置するこの国は、小国ながらも周辺国からは一目置かれていた。
他国の人間は金髪碧眼がほとんどであるのに、ジャルド国はほぼ全員が黒髪黒目である、という外見的な特徴があり、力であったり、魔力であったり、優れた人材が多くいた。
周辺国では、このジャルド国を魔国と呼んだ。
そして、黒髪黒目の魔術に長けたこの国の住人を……魔族、と呼んだ。
ある日の午後、そんなジャルド国の王都の中心にある、お城の中で。
「た、大変です」
ジャルド国の宰相が焦った様子で王の元へと走り寄ってきた。
「どうしたの?お父さん」
お父さん、と呼ばれた男性は三十代前半。褐色の肌を持ち、しなやかな身体を持つ男だった。やや釣り目がちではあったが整った顔立ちをしており、女性から好かれそうな容姿をしていた。
十歳くらいの年齢の少女は、父親に似た整った顔立ちをしていた。数年後には、とても美しい女性になる事だろう片鱗がうかがえる。
「侵入者です。早くお逃げください。もうすぐそこに……ぐっ」
袈裟切りに宰相の身体が分断される。
「ここに居たか、魔王め……!」
キラキラした剣を持った剣士が、ジャルド王に向かって叫んだ。
「お、お父様……」
庇うように、ジャルド王は娘を自分の背後へとまわした。
「お前達は、何者だ!」
「俺達か?俺達は勇者だ!」
そして、ジャルド王へと切りかかる。
「勇者がなぜ俺を狙う!」
「何故狙う、とはおかしな事を言う。勇者は魔王を倒す者だからだ!」
そう言って勇者と名乗った男はジャルド王へと切りかかる。ジャルド王はそれを躱して、剣先を止める。
「くっ」
ジャルド王は世界で指折りの剣の腕前である。目の前の勇者を名乗る男の技量よりも遥かに勝る実力で、剣を受け流して切り合った。
しかし、勇者のパーティーは五人居る。これが試合であり、一対一であれば早々にジャルド王の勝利で終わった事だろう。
「炎の矢を喰らえ!」
魔術師の一人が魔術を使い、ジャルド王の手を焦がす。
「弓を味わうがいい」
遠距離から、正確に急所を狙う矢。躱すにしても、弾くにしても、目の前の相手に集中できない。
「俺の槍を喰らいやがれ!」
死角からの槍を受け、ジャルド王が痛みに顔を顰める。
「回復します!」
そして回復をしてくる僧侶。少しずつ傷を負うジャルド王に対して、勇者側は傷を負っても回復してくるのだ。
「くっ、まずは回復役を潰すしか手が無いか」
ジャルド王が手を伸ばそうとした所で、勇者パーティーの騎士が槍の刃先でジャルド王の腕を切り落とす。
「卑怯だぞ魔王め!戦う能力が無い物を狙うとは!」
そして、勇者が剣を振る。剣から激しい一撃が放たれ……、
「お父さん!」
「……ア、アリシア」
ジャルド国の国王シャルル=ジャルドの最後の言葉は自分の娘、アリシア=ジャルドへ向けた物であった。
その一撃は、躱す訳にはいかなかった。
後ろに庇ったアリシアを守るため、衝撃を正面から受けたのだ。
「魔王の子か。まだ幼いな、こいつも禍根を無くすために殺すか?」
「魔力を封じて、償わせるために好事家へ売り飛ばしちまうか?数年後は美人になりそうだしな」
そう言って下卑た事を言う勇者達の手が近づき、アリシアは失禁し座り込む。
「汚ねえな」
そう言って蹴り飛ばされ、父親が傍に倒れている事に気づき、這って近寄る。
「お父さん、お父さん……」
そしてアリシアは、倒れたジャルド王に縋りついて……
「チッ、まだ転移魔法を使えるくらいの力が残ってたか。あのガキをどこにや
りやがった……」
そう言う勇者に、ジャルド王は血が混じった唾を吐きつけて。
「このっ野郎……!」
動けないジャルド王へ何度も剣が振られる。
ジャルド王が人の形を保てない程続けられた後、勇者達は王城にある金品を馬車の中へと運び出し、去っていった。
「お父様が……お父様が……」
元魔国騎士団長の叔父の元へと転移させられたアリシアは……
「お父様……」
ただ泣く事しかできなかった。
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