苛めと反撃
いじめは犯罪です。
絶対にしないようにしましょう。
「や〜い、トンマ!!」
そう言われ、頭から水を被せられた。
「うわ!汚!!」
「こっちに近寄らないでよ!」
「こっちを見るなよ。気持ち悪いな。」
そんな風に言われるのは日常茶飯事になっていた。
「はっ!」
そう吐き捨てるように言う。
所詮頭の悪い馬鹿餓鬼どもの戯れにいちいち悔しがったりなどしていられない。
「それがどうした?頭の悪いゴミクズ共の言葉なんて俺の心に一ミクロンも届きはしない。」
そう言い捨ててやった。
「なんだよ生意気だな。」
そう言われ、座っていた椅子を蹴られた。
絶妙に椅子が俺の尻の下からずれ、俺はドスンと尻餅を突く。
「アッハッハッハ!」
それも見てクラス中から大爆笑が起こる。
俺はそちらには一瞥もせずに椅子を拾い、元の場所に戻す。
大概のいじめをする輩というのは苛められている人間が悔しがったりするのを見て喜ぶ。
ならば、どんな苛めに対しても無反応を突き通せば、苛めの楽しさは半減する。
そう考えて、今までやってきた。
苛めが緩くなる気配は無いが、今更そのスタイルを変えるつもりは無い。
「フゥ。」
一つ溜息をつき、事の発端を思い出す。
あれは一年前の事。
本当に真面目に頑張っただけだった。
中間テストで全教科満点をとった。
あまり頭が良くなく、今までの成績は赤点スレスレで本当にヤバイと思ったからこその努力だった。
最初は友人は祝福してくれた。
褒め称えてくれた。
でも、大人はそうは思わなかったらしい。
「お前、カンニングしただろう?」
当然していない。
しかし、噂が広がるのは速い物だ。
それを聞きつけた一人の男子が学校中に広めた。
それ以来、苛めの対象となり、友人には見捨てられ、いつしか学校で孤立した存在となっていた。
カンニングしたと思い込んでいる教師はそれが当然の報いだとばかりに、苛めに対して何の助けもしてくれなかった。
俺は学校で本当に孤立してしまったのだ。
それだって、別に何ヶ月もすればカンニングした事などどうでもよくなる。
しかし、俺が苛められる空気というのは、俺がいなくならない限り永遠に続く。
苛められっ子には独特の空気があり、それは殆どの場合、一生覆らない。
「フゥ。」
もう一度溜息。
当初こそ泣き叫ぶほどに苦痛だったそれも、今となっては日常の中に溶け込んだ。
俺にとって苛められている状況こそが日常だ。
「何呟いてんだよ気持ち悪いなぁ!!」
こんどは脇腹をゴスッと蹴られた。
「グフッ。」
それが痛くないはずが無く、俺は脇腹を抱えて蹲る。
それを見てゲラゲラと笑うクラスメイト達。
今日はいつもより酷い。
今までの中でも直接的に攻撃されたのは初めてだった。
こうやって、その内苛めが殺人になるようだ。
「ちょうどいいや死んでしまえ!」
「そうだなお前なんか生きてる価値ないもんな!!」
「ゴミ!」
「廃棄物!」
「息をしているだけで不愉快だ!消えろ!!」
そして何人もの人間にドスドスと蹴られる。
「もう駄目だな。」
そう俺は呟いた。
精神的な苛めに対してはどれだけでも我慢できるが、肉体的な苛めに対しては不慣れな分我慢が出来なかった。
「何言ってんだよおまブッ!!」
その男子は顔面で拳を受け、数メートル吹き飛び動かなくなった。
「え?」
動揺する生徒達。
しかしもう俺は赦すつもりは無かった。
「お前らはやり過ぎだよ。」
そう呟くと、すぐ近くにいた男子の首を掴みロッカーに頭から叩きつける。
気絶したのを確認すると、今度は隣にいた女子の右腕を掴み、躊躇い無く骨を折った。
「イヤァァアアア!!私の腕が〜!!」
骨が折れるほどの重症はその瞬間には痛みを殆ど感じない。
故に叫ぶ程度の元気はある。
すぐにその女子を蹴飛ばし、今度はやや離れた場所にいた男子の髪の毛を掴み引き寄せ、やはり躊躇い無くその両目に二本の指を突き刺した。
「このっ!」
流石に呆けていた男子が活力を取り戻し、俺を制圧せんと襲い掛かってくる。
三人同時に襲い掛かってきたが、俺は全く動揺せず、まずは一人殴りかかってくる拳を取り、背負い投げの要領で投げ飛ばし、そのまま巻き込んで腕の骨を折る。
二人目にはまず殴られてしまったが、それで距離を取り、ちょうどよく机の上にあったカッターナイフを取って、二人目の太ももに突き刺しすぐに引き抜いた。
そして三人目、すでに怯んでいたが、それでも俺はそいつの腕を取り小手返し。
地面に寝転がして、首元にカッターナイフの刃を当てる。
「切裂いて欲しいか?」
当然ブンブンと首を振る。
「そうだろうな。まあ俺も退学になるのは御免だからな。これはお前らが喧嘩し合ってこうなりました、って証言しろ。俺はこの事件には一切無関係です。わかったか?」
あまりにも信じれない交換条件に男子は悩んだ素振を見せたが、冷たいカッターの刃が首に押し付けられ、男子は必死に首を縦に振った。
「さて、他の皆さんわかりましたか?」
クラスメイト達は鬼でも見るような目で必死に頷いていた。
「いいでしょう。」
俺は男子を解放した。
「さて、」
そう言って俺はポケットからあるものを取り出す。
「実を言うとですね、俺は苛めの当初から君達の言葉は全て録音してあるんですよ。人格を傷つける暴言ってね。」
そう録音機である。
「当然、俺を殴ったり蹴ったりした音も入ってる。ああ、安心しろよ。俺の声は入っていない。編集したからね。つまり、俺は暴言に無言で堪える健気な男子生徒というわけだ。」
俺はクックと笑う。
「今からこれを校長先生と教育委員会の方へ持って行って直訴する。さて、何人が退学になるかなぁ?」
「そんなことしたら、俺はお前が今やったことを全て話す。」
「俺が何をやったって?証拠でもあるのか?見ての通り俺は手袋をしている。どこにも俺の指紋なんて無い。そしてこの惨状はお前らが喧嘩しただけ。そうだろ?」
俺に歯向かってきた男子以外の全員が首を縦に振った。
「う・・・」
「もし、俺が退学になるなんてことがあったら、その時は何があってもこのクラスの人間を皆殺しにしてやるからそのつもりでな。ハッハッハ!」
そして俺は教室を出る。
俺以外のクラスの人間全員が退学を喰らい、何人かの教師に懲戒免職が渡され、学校が潰れた高二の夏。
苛められる人間は時に信じられない反撃をします。
苛めていた人間が苛められていた人間の反撃によって殺されたなんて事件もザラにあります。
皆さん、苛めはやめましょう。
この物語の人達みたいになりたく無かったらね(ニヤリ