彼等
彼等は死んだ。
誰にも悲しまれずに死んだ。
狭く暗い小道の奥でひっそりと死んだ。
誰に知られる事もなく、決して愛されなかった男達が死んだ。
親は彼等を捨て、友は彼等を裏切り、妻は別の男と消え、子供は帰ってこない。
そんな孤独の男達が死んだ。
そこには何も残らず、何の感慨も無い。
ただそれだけの話。
それ故に無視された。
何故彼等が死んだのか。
−ガサガサ−
何かを漁る様な音は、既に“彼等”の中では目覚ましになっていた。
「今日もご苦労なこったねぇ〜」
「ハッハッハ。もう慣れましたよ。」
彼が“彼等”の前に現れたのは半年ほど前のことだった。
ふと、急に現れ、ゴミを漁り始めた。
“彼等”は自らの陣地を侵されたと憤り、すぐにでも追い出そうとしたが、彼はそこから逃げなかった。
何を思うところがあったか分からないが、とにかく彼はここに現れたのだ。
「毎回訊くけど、何でここに来たんだい?」
「ハハハ・・・」
何度問うても、彼は表情だけで乾いた笑いを返すだけ。
“彼等”も深く問いただしはしなかった。
「それでは、さようなら。」
そして彼は去り際、こんな事を言って去る。
不思議な事に、一切合財何も持ち帰りはしないのだから不思議でしょうがない。
「はて?今日も何も持って帰ってない・・・」
それが“彼等”にとって不思議でしょうがない。
もっとも、彼が何も持って帰らないから、“彼等”も彼を追い出すのをやめたのだが・・・
そして翌日の事
−ガサガサ−
再びあの音。
よくもまあ毎日毎日空きもせずに同じ時間同じ場所でゴソゴソと・・・
「やあおはようさん。」
「どうも、おはようございます。」
その時、“彼等”ふと感じた。
何かが違う・・・と。
「よくもまあ飽きないねぇ。」
「ハハハそうですね。でも、これで最後です。」
これで最後。
その言葉は“彼等”に不思議な感情を起こさせた。
それを明確に『寂しい』と感じる者もいれば、『喜び』だと感じる者もいた。
「フフフ。では、さようなら。」
そして“彼等”は聞いた。
彼が『作戦始動』と呟くのを・・・
「苦・・・しい・・・・・」
息も絶え絶えに呟く男がいた。
もう“彼等”のほとんどは死滅し、残った一人の命の灯火も消えようとしている。
結局、何があったのか分からない。
“彼等”の人生は最後まで悲惨だった。
親には捨てられ、友だった人間には裏切られた。
“彼等”はそんな人間の集まりだった。
妻がいた者もいた。
しかし、あっさりと他の男に取られた。
子供がいた者もいた。
家には帰って来なくなってしまった。
「何で・・・何で・・・」
“彼等”そんな孤独な者たちの集まりだった。
お互い不幸な境遇を嘆き、それでも支え合って前を向いて行ける者達の集まりだったはずだ。
「何でだよ・・・」
そして、最後の男も死んだ。
“彼等”は最後まで報われぬまま、その生涯を閉じたのだった。
「害虫駆除完了。」
「ご苦労だったな。」
薄暗い部屋で何事かを囁く二人の人間がいた。
「奴等こと“彼等”はこの国に巣食う害虫だ。そうだろ?」
「そうですとも。奴等のようがゴミ屑がいるから、我が国の経済は破綻するのです。奴等は国の為に死ねたのですから、今頃天国にでも行っているのではないですかな?」
「愉快の事を言う。それでは我らは地獄に落ちてしまうではないか。」
「ハッハッハ。まこと冗談が上手いですな。」
「「ワッハッハッハ」」
二人は腹の底から笑いあった。
「この調子で害虫駆除を続けてくれたまえ。」
「もちろんです。この調子で続ければ、必ずや我が国はあの輝かしい全盛期を取り戻せるでしょう。」
「それは楽しみだ。」
「はい。全ては我が国“日本国”のために。」