1 はじまりの街
一瞬のブラックアウト後、目の前に広がったのは、青空だった。思わずきょどって視線を迷わせば、左右も同じく青空、上は燦々照りの太陽、下はなんだかファンタジーな洋風の街。体の感覚はなく、落ちているわけではなさそうだった。風も吹いているだろうけど感じない。また視線を前に戻すと、文字が浮かんだ。文字というかロゴだ。これがゲームのタイトルなんだろう。兄に聞いたままのものだった。
――セカンドライフクリエイターズ
第二の人生を歩むがごとく、この世界で新たな生を謳歌せよというキャッチコピーに引かれたと兄は言っていたが、名前が凄いな。そのまんまじゃないか。でも第二の人生とか別に惹かれない。俺は俺で生まれてきたし、それで満足してるし。
ま、兄貴と久しぶりにゲーム出来るわけだし、文句は何もないけど。
ところでこのタイトル画面からどうやったら次に進めるんだろうか。そう言えば機械自体の使い方は聞いたけどこれちょっと操作の仕方聞いてないから分からないな。スタートボタンとかないわけだし。
暫く困惑しているとやっと画面、というか視界が変わった。どうして変わったのかは分からなかったがまあ結果オーライってことで。
『あなたの名前を教えてください』
あ、はい。
突然空中に出てきたインフォメーションに驚きつつ、空欄のボックスを見る。あれ、これ名前ってキャラクターの名前ってこと? それとも本名? あ、でもゲームで本名入力することなんてないか。会員登録じゃあるまいし。名前かーどうしようかなー。本名もじろうかな。それとも全く違うのにするか。いっそかっこつけた感じの奴にしてもいいかもしれない。恥ずかしいのは最初のうちだけ、体は正直……なんちゃって。体じゃないしね。
さて、どうしようかな。まあいいか。小難しいのにしたって自分が呼ばれてるって気付かない可能性もあるし。
『あなたの名前は キオ ですね』
そうですよー。そういうことになりました。はい次々。と思うけど決定ボタンとかないからどうすればとか考えてる間に次の画面になりました。種族を選べってどういうこっちゃい。人間で。エルフとかカッコ良さそうだけど俺人間なんで!
次はなんだと思っていると、なんと外見を設定できるらしい。性別は選べないのに。まあどうせ微妙なのしか作れないよな、と思っていると、なんと、なんとだ。驚くなかれ、その見た目は二次元だった!!
どういう意味か分かるだろうか。つまりアニメとか漫画とかそういう系だ。CGっぽくない。リアルじゃない。2.5次元じゃない。わかってくれるだろうか。イラストタイプなのだ。つまりもしかして、もしかしてだけど、これって画面アニメ風なの? アニメみたいな画面でゲームができるの? 最近のCGはアニメ表現ができるようになったの!? うおおおおおおおおおおこれは燃える! 燃えるぞ!! 好みは分かれそうだけど俺としてはばっちこいですね素晴らしいです! あのリアルっぽいタイプはどうやっても微妙な顔しか作れなくてやる気出なかったんすまじで。久しぶりのゲームだし三日坊主にならないか心配だったんだけど、いやあほんと凄いね最近の技術って。絵柄は固定だからそういう意味でも好みは別れると思うけど、これは流行ると思う。どの時代だって二次元に生きたいっていう人は多いし、まさに第二の人生といえるだろう。二次元でのな!
わくわくしながら一度ランダムで作ってみる。どうすればいいのかなと思ったが、これもしかして思うとその通り操作できるのかもしれない。ランダムで作ろうと思ったらランダムで作れた。何をいっているのか……やめよう。
ランダムは通過儀礼。酷い出来! あ、でもこの髪の色はいいな。よし髪の色以外をリセットして、一つ一つ決めて行こうじゃないか。
やだ……イケメン……トゥンク。
というか二次元だしわざとやろうと思わなければ不細工にはならないわけだが、うむうむ、いい感じに好みのキャラクターが出来た。
割と細身のいわゆる普通の細マッチョで、顔は少し童顔め、背は平均ぐらいにして髪の毛は普通に短め。女の子で言うところのショートカットか。ベリーショートでもハゲでもないよ。深緑の髪にそれに少しだけ黄色を足した目。うむ。森の住人のようである。目の色変えた方がいいかな……。いっそ中二に走り赤。でもそうすると髪の色が合わないよなぁ。なら髪の毛も赤? それじゃあ主人公じゃないか。いや主人公なんだけど。目を深緑にして、いや目には微妙だな。ううううん。よし、深緑諦めよう。
引き摺ったくせにあっさり諦めて髪は灰色がかった紺色に、目は赤みの強いピンクにした。中二に走るのである。我ながら綺麗な色が作れたと思うよ。
よしキャラクターはこれでいいとして。お、次はなんだ。おお、キャラがくるくる回りだした。
『あなたの声を聞かせてください』
え、声も選べんの? メーターの意味がわからないんだけど。これいじるとどうなんの。
良くわからないまま表れたチェックボックスとメーター。声の設定をスキップするってのはチェックするとどうなるんだろう。
とりあえず、とメーターを動かすとキャラクターが喋りだした。喋るといってもこんにちはしかいってないわけだけど、メーター動かす度に違う声で言う。面白いけど、ゲームやるときは自分の口から出るわけでしょ。自分の声のままがいいなあ。できないのかな。スキップってやつがそうなのか?
チェックしてみるとキャラクターがこんにちはと俺の声のまま喋りだした。おお、そうそうこれでいいよ。どういうシステムが動いてるのかわからないけどそれはいいってことにしとこう。IT、IT? プログラミングでいいのかな。そういうのよくわからないしね!
『それがあなたの声ですね』
うん、これが俺の声なんだ。見た目に合わないかなとも思ったけど自分の口から違う声でるのは微妙すぎでしょ。仕方ない仕方ない。で、次はー?
『あなたのスキルを選んでください
所持スキルポイント:10』
スキルとな。魔法とかいろいろあるけどこういうの職業じゃなくてスキルで選ぶんだ。へーぇ面白い。てっきり魔法使いとか剣士とか選ぶのかと思った。とりあえず遠距離ってことで魔法ほしいな。1ポイントだしいいんじゃない? 残り9ってすごいいっぱいスキルとれるんじゃないのこれ。剣とか盾とか気になるけど近接はやめた方がいいだろうなあ、どうせ兄貴近接だろうし。
よーしあとはどうしようか。あー、これいいな。必中かあ。魔法とか弓矢の補助スキルっぽい。え、銃もあんの。まじかちょっと興味ある。どうしようかな。あーでもこれポイント高い。全部使うんじゃ魔法もはずさなきゃじゃん。うううううむ。メインスキルより補助スキルの方がポイント高いのそんなのってないよ。でも魔法とか現実にないし、感覚とかもわかんないだろうし、確かに当たんないよな。弓矢だってやったことなければ当たんないだろうし。わざわざ必中ってのがあるってことはロックオン機能もないんだろうし。
悩む。これは悩むなあ。他の補助スキルはこんな高くないっぽいんだよな、せいぜい3くらい。これだけ高いってことはやっぱりそれだけいいスキルってことだよなあ。でもスキルって後からとれるのかな。問題はそこ。スキルポイントって形があるからには何かしらで貰えるんだろうけどそれによっては……。うん、ヘルプ見せてヘルプ!
『<スキルポイント>スキルを取得するためのポイント。ゲーム開始時に10ポイント配布されており初期スキルを選択することができる。残ったスキルポイントはチュートリアル後ボーナスポイントに変換され、ゲーム中はボーナスポイントとして配布される。詳しくはヘルプ<ボーナスポイント>を参照。』
まさかの他見ろ。まあ思うだけで見れるわけだし面倒はないけど。
『<ボーナスポイント>レベルアップ、イベント参加などで配布されるポイント。イベント参加報酬は一定ではない。これにより新たなスキルを取得することや、ボーナスポイントを必要とするイベントに参加することができる。』
レベルアップで貰えるのか。1は確実に貰えるだろうし、それならひとつレベルが上がれば魔法は取得できる。弓矢も銃も、あとちょっと気になってる錬金術も、時間はかかるだろうけどとっていけるだろう。イベントって言うのは良くわからないけどまあそれだって少なくとも1はもらえると思うし。
よし、取ろう。決めた。必中ひとつで決定します! 攻撃手段? スキルが手にはいるまで殴るしかないよね! 石投げたっていいと思うの! 必中ってことは石投げたって多分当たるでしょ! 次々ィ! あ、ヘルプ開いたしついでにスキルのヘルプも見ておこうかな。いちいちこのヘルプどこにあるんだよ! って探さなくていい当たり楽すぎて。ヘルプ巡りはしない。絶対だ。
『<スキル>技能。種族によって自働取得ものもあるが、主にボーナスポイントで取得する。初期スキルで選べるものは共通。行動により取得可能なスキルが増える。』
……種族で、すでに持っているスキルがあるですって……?
ちょっとーもっと先に言って欲しかったんですけどー! これ戻れるのかな。外見保存できる? あ、保存しましたって出た。じゃあちょっと戻ろっか! ここ慎重に選ばなきゃいけなかったってことでしょ。適当に選んだままだったら後悔するところだったかもしれない。
さて何があったっけかな。まずそこから覚えていない件について。
はい、魔人になりました。人だよ。辛うじて人だよ。俺は人間をやめるぞォオ!
何でこれにしたって、種族スキルの問題ですね。人は剣とか色々そういう武器が一つボーナスで選べるんだけど、魔人はなんと魔法が最初から使えます。これ選ばないわけにはいかない。だってこれで魔法を後から取るかと諦めていたのが諦めずに済むんだ。これは、いいと思わないか……? なんてキメ顔。石投げるなんて時代遅れだよねー原始時代って感じーとかとか。人間は欲しかった弓矢最初から取れるけど、スキルだけ持ってたって武器も初期装備に入ってるか分かんないでしょ、職業じゃないあたり。ということはお金を稼いで弓矢を買うところまで行かなければ攻撃手段が素手とかしかないことに。さっき覚悟してたけど今は話が違いますからね!
魔人はステータス見ると防御力紙過ぎて笑えるし幸運低すぎて多分バナナの皮で転ぶレベルだけど魔力回復が微とかついてるけどあるし。うん、いいよね、これ。魔法特化って感じが。エルフも若干そんな感じだったんだけど、いくら幸運が高くったって筋力壊滅的過ぎてやめた。MP切れた後こんなのってないよ状態に陥ってしまう。でもエルフで弓矢が自働取得じゃなかったのはちょっと意外でした。エルフって言ったら弓矢なイメージ。竜は空飛べそうだけど論外。筋力極振り過ぎ。魔力値低すぎて魔法とってもゴミみたいになりそう。どう見ても近接前衛向けだよ。
あと、忘れるところだったんだけど、偽装っていうスキルが付いてるんだよね魔人。なんか種族を人間に見せるためだけのスキルらしいんだけど、確かに魔人ってボスっぽいし、こういうの必要だよね。納得しました。なので俺は人間です! みんなナカマダヨ! ナカヨクシテネ!
で、そっからはさっきの設定でいいのでスキップスキップ。スキルは必中一択ですね。スキルポイントがゼロになりましたありがとうございます!
じゃあこれで大丈夫かな。うし、次、とおもったんだけど?
『魔法スキルの属性を2つ選んでください』
お、おお、これは。火、水、風、土、光、闇、癒の中から選べるらしい。ほほう。ほほおう。
まあ迷うことなく火は選びますね。ファイアーボールとか撃ってみたい。そしたら水とか風もいいけど光と闇も気になる。でも一番使いそうなのは癒? つまるところヒールとかでしょ? その2つにしとこうかなあ。兄貴が近接だろうって予想してるわけだし、回復は欠かせないでしょ。いちいち回復アイテム使ってたら金欠になりそうだし。
よし、火と癒で。ところでこれいやしって読むのかなゆって読むのかな。まあどうでもいいか。
『スキルは決まりましたね』
うん決まったよ。ほれ次は? と思うと画面が突然ブラックアウト。数秒で明るくなったと思うと、タイトル画面の空に浮いている景色ではなくなっていた。足は地面を踏みしめ、肌は風と温度を感じている。不思議なものだった。これがゲームの、作られた感覚だというのだから、本当に現代の技術はすごい。
下に見えていた街の中にいるのだろうか。石造りの建物だらけだ。見ればすぐ近くに何人もの人が立っており、頭上には名前と緑のHPバーが表示されていた。同じ灰色の服を着ているところを見るとなるほど、新しいプレイヤーは共通でここから始めるようだ。初期装備シンプルすぎて逆に面白いんだけど。みんなペアルックとか。
スタート地点から前に一歩進んでみる。ぽん、と軽快な音とともにインフォメーションが現れた。
『ギルドへ向かおう』
これに従うと多分物語が始まったりするんじゃないかな。とりあえず今は無視する。あ、消えない。もしかしてずっと出たままなんかな。
歩いている感覚も現実のようでなんとなく違和感が。なにせ視線を下げればまさにアニメ画の足がアニメ画の地面を歩いているのだ。不思議以外のなんだというのか。無意味に手もにぎにぎしてしまう。ふおお、アニメだ。
感動するのはひとまず置いておいて、兄と合流するにはどうするべきだろう。名前も見た目もそのままではないから探すのは大変かと思われる。一度やめて連絡を取ってみるべきだろうか。でも兄がやり続けてたら連絡したところで気付いてもらえなさそうだ。ううむ。困ったな。とりあえず暫くはここに居てみようかね。先に始めるって言ってたし迎えに来てもらえるかも。俺だと気付いてもらうためにはどうするべきかな。あ、声がまんまなんだしそこで気付いてもらえるかな。
スタート地点は街のはじっこのようで、後ろは塀だった。とりあえず新規プレイヤー達の合間を縫ってそこに背をあずけ、次々と現れてはどこかへ歩いていくプレイヤーたちを観察する。恐らくこの最初のインフォに従っているんだろう。地図もなにもないのに良く進めるなあ。お、なんだあの主人公カラー。やっぱり目立つよなあ、やめといてよかった。
どうしよう。暇だしメニューとか全部浚っておこうかな。オンラインゲームに慣れてるわけでもないし。多分メニュー見たいって思えば……おお、出てくれた。便利だなあ。
インフォみたいに小さなウィンドウが視界に出てきたのを確認し、色々あるので一つずつ確認してみることにした。
なになに、まずステータスか。装備とかスキルとかの管理はこれっぽいな。装備なし一色なんだけど、もしかしてこの灰色の服って全裸にしないための措置。ひえ、笑いそう。ボーナスポイントはゼロです! 必中先輩よろしくお願いします!
当然だけどアイテムもないな。クエスト、マップ、コミュニケーション? なんだそりゃ、と思ったけどオンラインなんですよね。目の前に溢れてるのがプレイヤーだってわかってはいたけど、コミュニケーションとは……ははあ。チャット、メール、フレンドにパーティーにチーム。周囲のキャラクターってなんだろ。ちょっと見終わってから使ってみよ。えーっとシステム。感覚設定ってなんだ。
選択してみると視界にウィンドウが出てきた。聴覚とか触覚、味覚、嗅覚、痛覚がパーセンテージで選べるらしい。なんでここまで感覚小分けにしてるのにわざわざ感覚の選択があるのかよくわからない上に、ほんとどういうこと? とりあえずは今のままでいいや。下手に弄って変なことになっても困るし。
いろんなのあるんだなー。これ全部使いこなす日とか来るんだろうか。無理そう。あらかた見終わって気付いたけど体育座りになってた。なんだかちょっと恥ずかしい気持ちになりながら足を崩し、前を見た。なんだかさっきより人が増えた気がする。何か名前に緑の四角ついてるけど、全員プレイヤーってことかな。凄いことになってるよ人だかり。こけでもしたら踏まれてボロボロになりそう。
ざわざわと賑わっている様子を見ながらもさて、周囲のキャラクターですが、選択してみればなんかたくさん名前が出てきた。すごいことになってる。それも消えたり増えたりしてるんだけど、もしかしてこれってそこら変にいるプレイヤーの名前が見れるのかな。範囲からでて名前が消えるの? ちょっと試しに誰か選択してみよう。ずっといるし、主人公カラーの紅蓮さんって人で。名前かっこいいな。
『名前 紅蓮
種族 人間
Lv 1
装備 なし
称号 なし』
なしなしだしレベル1か。同じく始めたばっかって感じ。謎の親近感を抱いてしまうわ。で、このフレンドとか、チャットとか、メールとかって言うのは? まあ何となく予想はしてるけど、ぽちっとな!
『フレンド申請しますか?』
しません。うむうむ予想通り。ということはチャットっていうのもその通りで、メールもその通りなんだろう。
なんかまだなにもしてないはずなのに紅蓮さんはいろんな人と話しているようだ。忙しそうにしている。その表情は険しいもので、ちょっと近付きがたい。なんで普通にみんな話しかけに行くんだろ。あの表情がデフォなの? みんなもしかして紅蓮さんとリアル友達なのか。紅蓮さん凄すぎだろ何人友達いるんだ。違うわ。その紅蓮さんの何人もの友達がなんとかテストの抽選通ったって方が驚きだわ。
強運の持ち主か、と眺めていると、紅蓮さんがこっち見た。やべ、見すぎたかな、ばれた?
なんでもない風に視線をそらしまた他を観察していると、険しい顔の紅蓮さんがこっちに向かってくる。まだお互い狭いスタート地点にいるので目の前に来るまで時間はかからない。えっ怒ってる? 怒ってる? 怖いんだけど! 目の前にしゃがみ込まれてしまった! 逃げられない!
「君、大丈夫か?」
突然そう聞かれて、びびりながら逸らしていた視線を前へ向ける。紅蓮さんは険しい顔ではあるものの、こちらを気遣うように眉を下げて顔を覗き混んできていた。正直男のアップは嬉しくないです。真っ赤な主人公カラーイケメンめ。というか特に怒っている様子ではない。じ、じろじろ見ててごめんね!
「大丈夫、ですけどぉ」
顔を後ろに引きつつ答えれば紅蓮さんはそうかと顔を離し、それでもまだこっちを見ている。何だろう。え、何だろう。もしかして隅っこで体育座りしてたから心配してくれたのかな。やだ、紅蓮さん、やさしい……!
ときめいてません。つか体育座りはもうやめてたわ。
「こんな状況になって混乱しているとは思うが、気をしっかり持ってくれ」
? こんな状況?
しっかり顔に疑問が出ていたのだろう、紅蓮さんはキリッとしていた顔を不可解そうに崩し、すぐに真面目な顔になった。
「まさかこんなに騒ぎになってんのに気付いてなかったのか」
口調も崩れた気がする。紅蓮さんの俺への気遣いってやつが壊れる音が聞こえた。もちろん幻聴です。
「騒ぎって、何かあったんですかぁ?」
何があったのかさっぱりだ。とりあえず聞いてみることにした。紅蓮さんはまた険しい顔に戻ると静かに説明し出す。表情がコロコロ変わって面白い人だなあ。俺の中の印象もころころ変わってるよ。
「ログアウトできないんだよ。良くあるだろ、漫画とかラノベに。まさにそういう状況になっちまったらしい。最初のクエストを消化しないといけないのかもしれないとこなしてきたやつもいるんだが不発。ここに戻ればあるいはと試してみたがそっちもだめだ」
最悪の状況だな、とぼやくように付け足した紅蓮さんにあらためてその後ろを見てみる。なるほど、向こうから戻ってくる人とか喧嘩してる人とか、なんか確かに騒がしいことになっていた。さっき見てた時は気付きませんでした。紅蓮さんがいろんな人に話しかけられるのはまとめ役かなにかを買って出たのだろう。コミュ障には出来ないお仕事。
ですがここで重要なお知らせです。
「ログアウトってぇの、なんですかねぇ?」
メールのアカウントとか、そういうのにあるやつ? それがないとどう困るの? つかゲームにログアウトって、どういう役割なの?
あれ、なにいってるんだこいつ、みたいな顔されてる。
「オンラインは初めてか? いやそれにしたって」
紅蓮さんがなんかぶつぶついってるよー怖いよー。
ゲームってスタートボタンとセーブしたあとのゲームを終了する選択みたいなそういう……あれ? ジェネレーションギャップ? 今はログアウトっていうの? ど、どの機能を? 名前的にゲーム終了するやつ? そういえばメニューにセーブなかったな。セーブポイント制か。
ところで今更ながらこれ普通に喋れるんですね。あと紅蓮さん声までイケメンですね。表情とかは直結で出ちゃうんですかね。気になります。
「ログアウトっていうのは、あんたのいうところのゲームを終了する選択のことだよ。あとこういうゲームは大抵オートセーブだ」
えっやださっきの口に出してました? 俺。恥ずかしい。
「うん? じゃあゲームやめられねぇんですか?」
それは大変じゃないか。やめられないってことはVRの機械を止められないってことだろ。
「なら、早く運営に連絡しねぇとぉ」
「は?」
え?
紅蓮さんは眉を寄せてまた何言ってんだって顔をした。俺がそれに首を傾げると紅蓮さんの眉間のしわが深くなり、もしかして話通じてないのかなと思った。また俺なにか間違えましたかね。でもとりあえず紅蓮さんは今のところなにか言うわけでもないので、先に俺の言い分聞いてね!
「このなんとかテストって不備を見付けるためのものだって聞きました。驚くほど致命的な不備だし、より早い対応をしてもらうにはそうするべきかとぉ。実装するためにどれだけ時間がかかるか分からないのでなんとも言えませんが、何日もかかるようなら尚更でしょぉ。飲まず食わずで体が耐えられるのってそう長くありませんしぃ。だから、なによりまず連絡すべきだと思うんですけどぉ」
VRだからこそ、体がそんなに丈夫じゃない人もやっているかもしれない。そしたら一刻を争う事態になりかねない。むしろもうなってるのか。
目を丸くして呆けたように俺を見ていた紅蓮さんはそうか、と小さく呟いた。そうです、と頷くとまた険しい表情になる。その顔怖いんだってだから。
「だがどうやって連絡を取るんだ? ログアウトできないんじゃメールも送りようがない」
「メニューに問い合わせがありましたし、そこからできるんじゃねぇですかぁ?」
一度動きを止めた紅蓮さんは表情を緩めると突然黙りだした。メニュー画面を弄っているのかもしれない。頭の上に待機って出た。メニューいじってると表示してくれるのか。ありがたいな。
頭上に浮かぶ待機の白文字はどこ角度から見ても待機に見えるようになっているらしい。横に移動しても斜めになったりはせず、正面から見た時と同じだった。少し観察してからまた周囲を見る。待機になっている人の数が突然増えたのに今気づいて、何があったんだろうかと思いつつ俺も一緒にメニュー画面を開く。これでお揃いになったことだろう。意味はない。
「とりあえず連絡が取れるユーザーにはメールを送っておいた。これからのことは、運営がどう対応してくれるかだな」
あ、もしかしてそこらへんの人たちみんな待機になってたのはメール読んでたからなのか。メールも待機かー。待機中って攻撃できるんだろうか。いや出来てもしないけどね!
ちゅーか紅蓮さん余裕でタメ口ですね。俺もタメ口でいいってことかな!
「ところで聞いてもいいぃ?」
「なんだ?」
「オートセーブってぇやつも、何ですかぁ?」
読んでくださりありがとうございます。
―――――
名前 キオ
種族 人間(魔人)
Lv 1
筋力値 10
魔力値 20
防御力 1
幸運値 1
器用値 1
敏捷値 1
ボーナスポイント 0
装備 なし
スキル 魔力回復(微)(NEW 種族自働取得スキル)
魔法 lv.1(NEW 種族自動取得スキル)
火魔法 lv.1(NEW 付属スキル)
癒魔法 lv.1(NEW 付属スキル)
偽装 lv.1(NEW 種族自働取得スキル)
必中 lv.1(NEW)
称号 なし