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歴史好きな生徒会役員  作者: 夏月
第一章「生徒会」
4/10

一日の終わり

 下校時間が過ぎ、生徒会の仕事も一段落したので、いつもの様に優姉と一緒に帰路に就く。


「今日は何が食べたい?」


 帰路の途中にあるスーパーに着く前に、優姉が俺に夕飯のリクエストを聞いてきた。

そろそろ聞かれる頃合いだと思っていたので、予め考えていたメニューを優姉に申し出る。


「カレーがいいな」

 俺のその言葉を聞き、またぁ? と優姉は少し呆れた。

 週一回ぐらいのペースでカレーを所望すればまあ、そう言われるのも仕方が無い。


「もう、仕様が無いなぁ」

 そう言って笑いながら了解してくれるのもまた毎度の事であり、いつものやり取りだった。


 俺の両親は、共働きだ。

 父親は俗に言う出張族で家に帰ってくるのは数週間おきだし、母親は母親で昼から夜にかけての仕事をしている。

そしてまた優姉も俺と同じ様な境遇で、お互いに一人っ子。

 俺の両親と優姉の両親が、隣同士で協力して俺達の面倒を見出したのは、ある意味必然だったのかもしれない。


 俺の両親が家を空ける時は、俺は優姉ファミリーと共に飯を食う。

 優姉の両親が家を空ける時は、優姉はマイファミリーと共に飯を食う。

 共に両親不在の時は、どちらかの家で作り置きの飯を二人で食う。

 いつしかこれが当たり前の事となった。


 しかし小さい頃からのこの体制は、俺達が中学に上がり、優姉が料理をし始めてから若干の変貌を遂げる。

 作り置きの料理は優姉の手料理に替わり、お互いの両親は仕事が忙しくなった事もあって、更に家を空ける事が多くなった。

 勿論の事、優姉と二人きりの時間は増えた。

 両親に会う時間が更に少なくなるというのは多少の寂しさを招いたが、既に俺達は中学生だったので、ある程度は割り切る事が出来た。


 それに何より、俺には優姉がいるし、優姉には俺がいる。だから、大丈夫だった。


「どうかした?」

 そんな俺の思考と若干のシリアスアンニュイオーラを感じ取ったのか、優姉が僅かに心配そうにしながら俺の顔を覗き込んできた。


「いや。もしかしたら俺と優姉って、お互いの両親よりも一緒にいる時間が長いのかもって思って、ただそれだけだよ」


「……う~ん? どうしたの、急に。寂しくなっちゃった?」

 優姉はそう言い、少し困った顔をした。


 全然大丈夫だよ、と俺が言う前に、優姉はまるで子供の時の様に俺の手を握ってきた。

 もうお互い、寂しくてこうする必要は無いというのに、優姉からすれば俺はまだ寂しくて泣くガキなのかもしれない。

 さりとて手を放す理由も無かったので、俺は開きかけた口を閉ざす。

 そしてそのままスーパーに着くまでずっと手を繋いだままでいた。




「毎度の事ながらこの態勢って、必要なの?」

「当然、必要なの」

 俺の顎の辺りから発せられたその声が六畳の部屋に響き渡る。

 そうか、当然必要なのか。


 食事と洗い物を済ませた後、俺は優姉と自分の部屋でおしゃべりに興じていたのだが、優姉の今日の授業に日本史があったので、恒例のレクチャータイムに移る事にした。


 確かこれは優姉が中学一年生前後の時から始まった事なのだが、優姉は歴史の授業があった日は必ず俺の部屋に来て、その日の歴史の授業の復習をする様になった。

 と言うのも優姉は歴史に苦手意識があるらしく、どうにも一人で勉強するには飲み込みが悪いらしい。

 そこで歴史が得意な俺に何かと聞きながら勉強をする方が分かり易いという事で、まあ要するに全ては優姉の一存だった。


 最初の内は机の上で教科書を広げて勉強をする優姉の隣で勉強を教えていたのだが、ながら作業でも教えられそうな遅々とした勉強スピードだったので、その内俺はベッドで本を読みながら口頭のみで教える様になった。

 それが優姉的にはお気に召さなかったらしく、ある時ベッドで寝転ぶ俺の腹を机にして教科書を広げ、勉強し出した。

 その後も勉強方法が様々な化学反応を起こし、一年の歳月を経て最終的にベッドに腰掛けた俺が優姉を後ろから抱え、授業内容の問答で勉強するという形に落ち着く事となった。

 どうしてこうなったのかはどんな名探偵でも解けない謎だろう。

 何しろ本人すら分からないのだから。


 とまあこの時間は中学を卒業して高校生となった今でも継続しており、即ち俺は今、優姉を後ろからお腹の辺りに手をやって抱き締めている。

 時々、教えている最中に眠ってしまう優姉のおっぱいを揉んでいるのは内緒の話だ。

 まあ倫理的に言えばブラの上からだからオッケーだとは思うのだが、一応ね。


「で、今日はどこまでいったの?」

「えーっとね、安土桃山時代までかな。織田なんとかが今川 義元を倒して云々ってところ。後はよく分からなかった」

 優姉よ、何故織田 信長よりも今川 義元をフルネームで覚えているんだ。まあいいけど。


「じゃあ、そうだね。この前説明した応仁の乱以後の流れは覚えている?」

「うん。室町幕府が後継者争いで求心力が無くなって、もう頼りにならなくなっちゃったから、自分達の領地は自分達で治めよう、何だったら戦争をしてもっと自分達の領地を拡げよう。それが全国的に広がったのが戦国時代だったよね」

「その通り。よく覚えていたね、優姉」

 俺がそう言うと優姉は、えへへっ、と笑った。


「で、その割拠した領国を治める代表者が大名という名称で呼ばれるんだけど、さっき優姉が言った織田 信長と今川 義元も大名なんだ」

「うん、うん」

「一五六〇年。今の静岡県一帯を支配していた、当時強大な勢力を誇っていた大名の今川 義元が、当時の首都だった京都に軍を率いて行こうとする」

「京都へ? 何で?」

「ブランド力を高めようとしたんだよ。当時の京都は公家とか征夷大将軍、武家のトップだね、とかがいたんだけど、その人達に自分の力をアピールする。で、公家とか征夷大将軍が今川 義元を認めたら、部下も周囲の大名もより一目を置くでしょ? つまりは他の大名は手を出し難くなるし、部下の信頼度も増す。或いは他の大名はビビッて傘下に入るかもしれない。箔が付くって事だね」

「あー、成程。だから京都に行くんだ。えっと、上洛って言うんだっけ?」

「そう。でも今川 義元は京都に行く途中、当時それ程強大じゃ無かった織田 信長と戦って敗けるんだ。それが一五六〇年に起きた、桶狭間の戦いだよ」

「あ、そうそう。桶狭間の戦い」

 思い出した、と言って優姉が両手を鳴らした。

「多分ここはテストに出るんじゃないかな? 覚えておいた方がいいよ」

「うん、分かった」


 その後も話を続ける。

 優姉が分かり易い様に、テストに出るだろう事象も交えてゆっくりと時間を過ごす。

 どれぐらい経ったか、玄関からドアが開く音がした。

 それは俺の母親が帰って来た合図であり、時間的に優姉が帰る合図でもあった。


「さて、じゃあ今日はこれぐらいにしようか。続きはまた今度」

「りょーかーい」

 そう言って優姉はくるりと俺の方に振り向き、軽くハグをした後にベッドから降りた。

 この時間、優姉はまるで年下であるかの様に俺に甘えてくる。

 いつも世話をされる俺としては、それが少し嬉しかったりする。


「よし。じゃあ秀介。私は帰るけど、このまま寝ちゃ駄目だからね。お風呂に入って、歯を磨いてから寝るんだよ。あ、温かくなってきたからって、掛け布団を剥いで寝ちゃ駄目だよ。風邪引いちゃうからね」

 いつもの母親の様な、姉の様な優姉に戻り、テキパキと指示を出してくる。

 その素早い切り替えに思わず苦笑いしながらも、分かったよ、と頷きながら言った。


「ん。じゃあまた明日ね、秀介」

 手を振り、優姉が俺の部屋から出て行く。

 よし、じゃあ仄かに聞こえてくる優姉と母親の談話が終了を迎えたら、着替えを持って風呂に入るとするか。


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