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勇者の付き……人?  作者: フタキバ
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仕事を選べる職種なのに選択権が無いってどういう事ですか?

 うーん……なんで俺、朝から正座させられてるの? そもそもなんで……。


「聞いているのかナオ! 全く、夜の夜中に幼気な少女を連れて暢気に散歩とは、何かあったらどうするつもりだったんだ!」

「いやだって、元々あの女神がサリュちゃんの事を元気付ける為に行かせたんだろ? 俺なりにじっくりとサリュちゃんの心を治すにはどうすればいいかを考えた結果であってな」


 なんでレーンはこんなにご立腹なの? そりゃあ出てからちょっと時間は掛かったけどさ、結果的にサリュちゃんの心の負担を少しは減らせたんだからオッケーでしょ。


「それならば! いっそこの部屋に連れて来て話を聞いてやれば良かったじゃないか!」

「そんなの出来る訳ないだろ? あの時、我らが女神様との通信を切ってなかったんだから」

「ぬ、むぅ……」

「レーンさんはきっと、ナオさんの事が心配だったんだよ。パーセルトは知らない町だし、夜だったし」

「え、そうなのか?」

「ぬ!? い、いや、私が心配したのはサリュの事であってだな、お前はついでだ、ついで!」


 ついででも、一応心配してくれてたのね。それは、やっぱり俺が悪かったか。


「まぁ、悪かったよ。よっぽどの事が無ければ、勝手な行動はしないようにするから」

「ふ、ふん! どうだか。お前は少々単独行動をする場合があるからな、しっかり監視していなければならん。そもそもミヨの付き人だという事をだな!」

「あのなぁ、昨日のはそもそもお前達の先行が原因だろ? 俺がトリンを連れて行ったりゴブリンの頭を倒さなかったら、お前やミヨちゃんだってゴブリンに捕まってたかもしれないんだぞ? その点で言えば、俺は十分付き人の役目をしたと言えると思うが」

「確かに昨日はナオさんに助けてもらったって事になるよね。と言うより、昨日やった大体の事はナオさんがやってくれたような気もするんだけど……」

「うっ……」

「うん、俺ってばもっと労われてもいい気がする」

「う、煩い! とにかく、仲間なんだからあまり単独行動はしないこと! いいな!?」


 お、おうふ、勢いで押し切られた。……でも、仲間なんだからって一言を聞けたし、ここは俺が引き下がっておくか。


「あぁ、悪かった。極力は離れないで行動するようにするって」

「えぁ、そ、そう言うならまぁ、いいが」

「……レーンさん、どうかしたの? なんだか変だよ?」

「ん!? いや、そんな事はないよミヨ! 私はいつも通りだ!」


 俺に突っかかるのがデフォルトですかそうですか。勘弁願いたいもんだ。

 でも、レーンのリーダー気質なところは評価出来る。俺がもし動けなくなったとしても、ミヨちゃんを任せられるからな。そうならないのがベストではあるけど。

 昨日のゴブリン騒動でも再確認したが、この世界では何が起こるか分からない。保険のカードは何枚あっても足りないくらいだ。協力出来る存在って言うのは特に大事にしていきたいもんだ。

 それは、あっちの三人にも言える事でもある。今日はお世話になるんだし、あまり待たせる前に合流しようか。


「とりあえず話はついたし、向こうのメンバーと合流しよう。あっちももう起きてるだろうし」

「そうだね。斡旋所ってどんなところなのかな?」

「魔物と戦う事を生業にしている者達だ、相応の力はあるのだろうな……」

「レーン~、腕試しをいきなり仕掛けるのは止めてくれよ」

「!? わ、私だってそんな事をする気は無いぞ」


 する気だったな、これは。このレーンの力試し癖はなんとかしないと、いずれとんでもない問題が起きそうだな。

 その辺りの管理は俺がするしかない、か。女神との通信、メンバー全体の状態把握、やる事が日に日に増えていってる気がするのは気の所為だろうか。

 まぁ、気苦労をするのは俺の日常としてはいつも通りなんだろうけどさ。会社に通ってる間も大体こんなもんだったし。


「はぁ……」

「? 大丈夫、ナオさん?」

「あぁ、平気平気。行こう」


 今は明日の糧を得る為に動き出さないとな。よし、元気出して行こう!

 さて、部屋から出たが、まだロージャさん達は部屋に居るかな? ノックでもしてみようか。


「ロージャさん、トリぶっ!?」

「……ん? 何か居たか?」

「な、ナオさん!? 大丈夫!?」


 ……ロージャさん、扉を開ける時は静かに開けて頂きたい。しかし流石ベアルの腕力、一瞬たりとも抗えなかった。そして俺は今扉と壁に挟まれた状態で居たりするんだな。滅茶苦茶痛い。

 

「ナオ!? す、すまん!」

「お、お構い無く……」

「ふむ、人は扉に挟まれるとそうなるんだな」


 客観的に見ながらも、一応壁から剥がしてくれたレーンには感謝すべきなんだろうな。なんでか素直に喜べないが。


「おいロージャ、部屋の出口で何やって……あん?」

「あれ、皆さん?」

「う~痛たた……とりあえず三人とも、お早う」


 朝っぱらからダメージを受けるのは想定外だが、トリンもサリュちゃんも元気そうだ。どうやらサリュちゃん、あの後眠れたみたいだな。

 んじゃ、六人揃った事だし、チェックアウトして朝飯でも食べに行こうか。

 宿を後にして、開いていた果物屋で朝飯を買って斡旋所に行くところだ。なんだか約一名様子がおかしくて、約一名は目がギラギラしてるが。


「ナ、ナオ~……レーンを止めてくれよぉ。今日模擬戦だったら俺毛を毟られるぞこのままじゃ」

「私が旅に出たのは腕試しも兼ねているからな、強者と手合わせ出来るのは願ったり叶ったりだ。鶏では少々物足りないがな」

「ドラシェルはそこまで好戦的な所属だったか? 穏やかであまり他種族と関わりを持たない種族だと思っていたが」

「好戦的と言うより、自分がどれだけやれるかを試したくて仕方ないんですよ。こいつは」

「お前が言うなお前が。全く憎たらしいウルフェンだ」


 こりゃ、俺との手合わせで勝つまではどうやってもその辺は根に持つみたいだな。手加減をしないように、かつレーンを勝たせるっていうのは骨が折れそうだなぁ。


「そう言えば私、ナオさんと訓練した事無いよね。ねぇ、今度私とも勝負しようよ」

「み、ミヨちゃんと? いや、やった事はないけど、え、え~?」

「えー、ダメ?」

「や、やりたいって言うなら、今度やろうか。今度ね」


 どうしよう、ミヨちゃんからもレーンみたいな反応されたら。二人の相手はきついぞ正直、出来れば避けたい事柄だよ……。

 なんて考えてたら、昨日は入る事の無かった斡旋所が見えてきた。今日は無事に扉をくぐれそうだな。

 斡旋所の中に入ると、何やら自分の得物を携えてる皆々様が何人か居た。そこまで常に人が居るって訳じゃないみたいだな。


「へぇ~、ここが斡旋所なんだ」

「そう、ハンターって呼ばれる奴等が集う場所。世の中の危険な魔物なんかはここに情報が集まってくるのさ!」


 なるほど、壁の一部なんかに、確かに手配書らしきものが貼られてる。これが指名手配魔物か……。


「でも、その魔物の情報が必要なのはハンターのみ。今お前達が行くべき場所はあっちだ」

「あそこが斡旋所の窓口です。その斡旋所に寄せられてる仕事は、あそこで受ける事になります」

「へぇ、ガラス張りか。……ガラスを生み出す技術はあるんだな」


 斡旋所の奥には、ガラスの向こうでせっせと書類を纏めている人達が見える場所があった。あれが斡旋所の事務室なんだろうな。

 で、そのガラスの一ヶ所にはこちら側とのやり取りをする為に窓口がある、と。設備としてはかなりシンプルなんだなぁ。

 あそこでハンターになると申請すれば、普通なら試験とやらを受けた後に仕事を請け負って、それを完了させれば晴れて正式なハンターって訳だ。が、俺達はその試験を免除なんだけどさ。

 それじゃあ早速申請しようか。それが目的だし、さっくり終わればいいんだけどな。


「すいません、あー」

「はい、ようこそ。仕事のご依頼で?」

「いえ、ハンターになりたいと言えば分かって頂けるでしょうか?」


 え? 何? なんでハンターの皆さんがこっちを向いたの? 俺、なんか変な事言った?

 明らかに見られてるけど、別に敵意を向けられてる訳じゃないみたいだな。驚かれてるみたいだ。


「ハンター試験を……ご希望で?」

「ちょい待ち、試験は免除さ。俺達がこの三人をハンターに推薦する」

「あなた達は……シルバーハンターの」

「シルバー……ハンター?」

「ハンターには、そのランクを示す為に称号のようなものがあるんだ。フリントから始まり、評価が上がる度にその称号が変わるのだ」


 へぇ、なるほど。まぁ、俺達と違ってトリン達はハンターとして四年も生活してるんだから、それ相応のランクには居るだろうさ。

 にしても、そういう鉱石の呼び方は英語と一緒なんだな。何か、向こうと繋がりがあるのか? いや、女神が一緒なんだから繋がりはあるのか。

 ふむ、推薦をされてからますます他のハンター達から見られてるな。やっぱり、これは何かあると見ていいだろう。


「少々お待ち下さい……」

「あ、あれ?」

「どうしたんだよ?」

「いや、こういう時って推薦は受理されて、すぐに仕事を斡旋される筈なんだけど……なんかあったかな?」

「まぁ待てと言われたんだ。待つしかないだろう」


 こういう時、レーンはやけに冷静だよな。確かにそれ以外の選択は出来ないんだし、待つとしようか。

 あ、でもそう待たずに受付の人が戻って来た。しかし……猫だなぁ。


「お待たせ致しました。推薦は承認させて頂きますので、推薦をなさるハンターの方はこちらに証明書きをお願いします」

「あ、あぁ。……ハンターの推薦にそんな証明書きなんて必要だったっけ?」

「……必要無いんだろうな。だってそれ、依頼受諾書って書いてあるし」


 悪いね、仕事柄そういう書類にはきちんと目を通すようにしてるんだ。だから、今出された書類も見させてもらったさ。

 でもなんで嘘まで吐いて、そんなものにサインをさせようとした? なんか妙だな。


「おいなんだよ!? なんのつもりだ!」

「も、申し訳ありません。ですが、その……こちらの依頼を受けて頂くわけにはいかないでしょうか?」

「あなた、交渉下手でしょ? なんの説明も無しに訳も分からない依頼を受けてくれって言われて、はいそうですかやりますよなんて言う奴、居ると思う?」


 俺とトリンで凄みを効かせたら、受付の猫の子半泣きになっちゃったよ。ちょっと可哀そうだったかな? でもそうしないと、裏でふんぞり返ってる黒幕が出てこないんでね。

 さて、どう出る? ハンターを志す若者がこんな事を言ってきたら……使えないって判断するかな? それとも見込みありだと判断されるか。この際はどっちでもいいけど。

 おっと出てきたか。そりゃ、受付でもめるのは運営としても避けたい事だろうし、必ず出てくるとは思ってたけどな。

 へぇ、上等そうな背広着てるじゃないか。衣類の生産も結構良いのが出来てるみたいだな。


「大変失礼致しました。ここのマスターを務めます、ドークスのケイビンと申します」

「マスターが直接お出ましか。ったく、仕事を押し付けてくる斡旋所なんて初めてだぞここが。ナオが気が付いてなかったらひと暴れしてるところだ」

「も、申し訳ありません。ですが、現在ここの斡旋所では一つトラブルが起きてまして……」

「ふーん、洞窟の奥に住み着いた魔物を退治して、その奥にある水晶を採取して来い、か。これがそのトラブルって事ですか」


 そのまま置かれてた依頼受諾書とやらを読むと、そんな事が書かれてた。……ドークスって事は、この人は完全な犬獣人、犬種は柴犬か……。一応俺、犬じゃなくて狼ってカテゴリーだったね、そう言えば。


「ん、この辺りの水晶という事は、ハンターの証の水晶か?」

「はい、その通りでございます」

「ハンターの証? ロージャさん、それってなぁに?」

「うむ、その者がハンターであるという証明だ。……そら、これだ」


 へぇ、指輪なのか。ふむ、確かに水晶が付いてる。これを取ってこいって依頼だったみたいだな、これ。


「その石は水晶の中でも聖晶石というのですが、ここパーセルト近郊に多くが埋蔵されており、この町の大事な収入源となっているのですが……」

「主な採掘場所であるその洞窟に魔物が出て、取れなくなったからその魔物を退治してまた採掘が出来るようにしてくれ、って事かな?」

「仰る通りでございます。ですが、この町に居るハンターはブロンズやフリントが殆どでして、向かわせたハンターも半数以上が帰ってきていないというのが現状なのです」

「だからシルバーの俺達を行かせる為に、こんな事をしたってか? 随分荒っぽいやり方だなぁ」

「申し訳ありません! ですが、我々も追い詰められての事なのです! どうか、お受け頂けませんか!?」


 ……一応五人の顔を見てみたが、行くんですね、分かってますよ。やれやれ、他のハンターが帰って来れなくなるような仕事が初仕事になるのね……。

 なら、ここからはちょっと俺が交渉しようか。ただで働くのも馬鹿らしいし、きちんと貰える物は貰えるようにしとかなきゃな。


「……その依頼、俺達がハンターになる為の仕事にして頂く事は可能ですか?」

「え? あの……あなたは?」

「ナオ・シュヴァリスと申します。実は今日はこのトリン達の推薦でハンターになる為にここを訪れさせて頂いたんですよ。そちらの問題は解決するし、俺達もハンターになれる。で、推薦をしたトリン達はこの仕事に俺達と同行する事になる。悪くない話だと思いますが?」

「おぉ、そりゃあいいや。あ、同行って言っても貰うもんはもちろん貰うからな?」

「いえ、しかしハンターではない者に行かせるには荷が重い仕事かと……」

「私達の腕に疑問があると言うのならそれは杞憂だ。現に私達は、この二人を倒せる程度の腕はある」


 ロージャさんとトリンは苦笑いしてるが、レーンの言う通りだしな。これだけ言えば、流石に折れるだろ。


「……分かりました。この依頼を成功して頂ければハンターと認め、証をお渡し致しますし、報酬もお支払い致します」

「交渉成立ですね。良い結果を報告出来るよう尽力させて頂きます」

「よろしくお願いします! 洞窟の場所はこちらに記載しておりますので、ご確認下さい」


 よし、話は取り付けた。後は俺達がこの仕事を終わらせるだけで報酬とハンターの証をゲット出来るって訳だ。

 それじゃあ依頼受諾書に俺の名前と、あ、トリンも書くって言うから二人分の名前を書いて渡した。これで向こうも変な言い逃れは出来ないだろ。そこまでする事も無いかもしれないけどな。

 よーし、それなら早速お仕事だ。斡旋所を出て、さっき渡された紙を……おぉ、仕事の詳細も書かれてるのか。これは分かりやすくていいな。


「本当に頭の回るウルフェンだな、お前は。あんな約束まで取り付けるとは」

「貰える物を貰うのに悪い事は無いだろ。賢く生きてかなきゃ、旅なんて続けられないぞ」

「元々お金を貰う為にハンターになるんだもんね。よし、頑張って洞窟の魔物をやっつけよう!」


 ミヨちゃん張り切ってるなー。ま、模擬戦よりはずっと気が楽な相手ではあるがね。

 でも気になるな、俺達の前に退治に向かったハンターが帰ってきてないってところ。油断はしないで行くべきなのは確かだろう。


「それだ、ナオがその顔をしている時! それは相当大事な事を考えてる時の顔だ!」

「ん? 俺、変な顔してたか?」

「変ではないが、周りの空気をひやりとさせるような鋭い眼差しではあったぞ」

「怖くないけど、凄く集中してるなって思ったよ」

「ようは難しい顔してたのね……大した事じゃないんだ。帰ってきてないハンター達はどうなったのかと思ってな」

「確かに気になる事柄ではあるな。ハンター達を返り討ちにした者が居ると仮定するならば、相応の覚悟をして挑むべきだろう」


 うん、レーンの一言で皆の顔も引き締まった。油断せずに事に及んだ方がいいのは皆に伝わっただろう。

 えーっとこの依頼の詳細書きによると? 洞窟はこの町の東の方にあるみたいだな。名前は聖晶窟、んじゃ、行ってみるとしますか。


 道中で何回かホーンドックとスライムを退治しながら歩いて、約1時間ってところかな? いやー、結構距離あったわ。


「ここが聖晶窟か……なんか割とただの洞窟だなー」

「多分表層の水晶はもう取り尽くしてるんだろうな。奥は……暗いのは当たり前か」

「む、灯りになるような物を持ってきていたか? 無いのなら一旦引き返す事になるぞ?」

「灯り? なら大丈夫。私に任せてよ!」


 おぉ、ミヨちゃんが自信満々だな。まぁ、俺もそれを当てにしてここに来たって裏はあるんだけど。買い物するにも先立つ物がねぇ……。

 俺とレーンを除いた三人は不思議そうな顔をしてるが、とにかく今は洞窟に進入しよう。仕事開始だ。

 うん、洞窟に入ったらやっぱり空気が違うな。ヒヤリとして、少し湿っぽい感じを受ける。奥に水場でもあるのかもしれないな。


「うわっ、入って早々暗っ! ほ、ほんとにこのまま進むのか? 松明とか用意してきた方がいいんじゃねぇの?」

「大丈夫だよ~。よいしょっ、と」

「ミヨちゃん? 剣なんか抜いて、魔物は居ないよ?」

「まぁ、ちょっとミヨちゃんに任せてあげて」


 自分の剣を目の前に掲げるような形にして、ミヨちゃんは目を閉じた。集中するような感じでね。

 しばらくすると、ミヨちゃんの剣が明らかに白い光を纏い始める。そう、これがミヨちゃんの魔法だ。


「道を照らして……光の、球!」

「おぉ!? ミヨの剣からなんか出た!」

「魔力で出来た光球のようだな……確かに、これならば先まで見通せるな」

「光の魔法!? それって、世界でもあまり使える術者が居ない希少な素質ですよ!? ミヨちゃん凄い!」

「えへへ、でも私のは、こうやって剣を使わないと上手く出来ないの。だから、魔法を使う時は剣を持ってないとならないんだ」

「父上の付けた呼び名は、光剣術だったな。ナオの魔法と一緒で、かなり特殊な魔法である事は確かだ」


 俺の場合は水と氷、その二つの属性の魔法が使えるから特殊なんであって、特殊さのベクトルは違うけどな。まぁ、今はどうでもいいか。

 ミヨちゃんの魔法のお陰で奥にも進めるし、このまま進んでいくとしようか。寧ろはぐれたりしたら真っ暗な中を彷徨う事になるし、それは勘弁願いたい。

 にしても、なんかやけに空気がしっとりしてるなぁ……まとわりついてくるみたいで気持ちが悪い。皆何事も無いように歩いてるし、そう感じてるのは俺だけなのか?


「ん、奥から何か来るぞ」


 うぉ、レーンの一言で全員が一斉に身構えてるよ。皆がっちり警戒はしてるんだな。

 さて、光の下に出てきたのは……スライムが三匹か。なんかこうして見てると、割とこの軟体生物の事も見慣れてくるもんだな。


「なんだ、スライムかよぉ。びっくりさせるなよ」

「まぁ、この辺りには普通に出る魔物だから、ここに居てもおかしくはないか」

「……そう、かなぁ? だって、ここって、えっと……」

「聖晶石。それを採掘してた場所なんだ。多分、ミヨちゃんの考えてる事は合ってると思う」

「どういう事ですか? ミヨちゃんも、ナオさんも、一体何を?」


 ミヨちゃんの勘も悪くないね。そう、ここには少し前まで、正確にはここで起きた騒動までは人が働いてたんだ。そこがそんなにすぐに魔物の巣窟になるだろうか?

 スライムはレーンとロージャさん、それにトリンの三人に退治された。なら、もう少しこの謎について考えてみようか。


「サリュちゃん、魔物っていうのは、人が頻繁に出入りしている、またはしていた場所にもすぐに巣のような物を作るのかな?」

「え? それは……考え難いんじゃないでしょうか。だって、そんなところに魔物が居れば、すぐに退治されてしまいますし……」

「だよね? でも、今この洞窟にはスライムさんが居たよ?」

「それは……人が居なくなってから入り込んだんじゃないんですか?」

「確かにその可能性はある。けど、この洞窟に魔物が出たのはどうやら昨日の夕方辺りかららしいんだよね。この詳細書きが正しいとすればだけど」

「え、そ、そうなんですか!?」


 うん、確かにそう書かれてる。仮にもっと前に洞窟に魔物が出ていたとしても、最低でも四日前、それ以降になる。トリン達がゴブリン退治の仕事を受けたのがそれくらいの日時らしいからね。

 更に、俺達がここに来る前にも別のハンターがここには来ているんだ。もちろん目的は魔物の討伐、なのにスライムとはいえ魔物を倒さないでいるだろうか? 答えはノーだろう。


「なのに今のスライムは奥から来た。そうすると、俺達の前に来たハンターはあのスライムに遭遇しなかったか見逃したってことになるんだけど」

「退治の依頼なのに魔物を見逃す訳無いですよね。前者は進んでみないと分かりませんけど、考えてみると確かに変ですよ、これ」

「おーい、三人とも何やってんだー。ミヨちゃんが来てくれないと先に進めないぜー」

「……とにかく、この事は気に留めておこう。二人共、周囲への警戒は切らさないように」

「う、うん」

「分かりました」


 特に気にしてないフォワード気質な三人はずんずん進んで行こうとするなぁ。まぁ、何かあれば俺達がフォローに入ればいいだけか。

 それから洞窟の先へ先へと歩を進めてるんだけど、枝道も結構あるんだよね。ま、採掘なんてやってたんだから当然と言えば当然なんだけど。

 でも、やっぱり何かがおかしい。行く先々でスライムが進行を邪魔する。それも大抵三匹以上で襲ってくる。どう考えても多すぎるし、他の魔物が入り込んでてもおかしくないのに、スライムばかり出てくるのも妙だ。


「ったく、聖晶窟からスライム窟に名前変えた方がいいんじゃねぇのかここ? スライム居過ぎだろ」

「……いや、明らかにこれは異常だ。まさか、ここでスライムが大量発生し始めているのか?」

「考えたくはないですけど、ロージャさんの予感は合ってると思います。スライム達は……」

「あ、ナオさん右!」

「おっと。ここで、生まれてるんでしょうね。ミヨちゃんありがとう」


 俺に飛び掛かってきたスライムに手を当てて、狼氷掌で氷に変わってもらった。殴る蹴るで戦う俺には、スライムへの有効な攻撃方法ってこれくらいしかないんだよなぁ。

 今言った通り、俺の推理はほぼ確定したものに変わった。スライムが向かってくるのは、枝道の終点以外だと決まって奥からこっちへ向かってくる。まるで、これ以上奥へ入ってくるのを阻害する為に来たように。

 しかも洞窟の湿気が奥へ行く度に粘度の高い物に変わっていく。……あるな、奥に、スライム達を生み出しているであろう何かが。


「ん? 何か……奥が明るくなっているぞ」

「あ、本当だ。誰か居るのかな?」

「先発のハンターか? いや、この明かりは……恐らく聖晶石だろう」

「聖晶石が? 聖晶石って、光るんですか?」

「前に聞いた話ではあるが、聖晶石は埋蔵されている時、周囲に魔力を発していると聞いた。恐らくそれが光に変換されているのだろう」


 へぇ~、つまり自力発光する石なのか、面白い鉱石だな。っていうか、魔力って鉱石にも宿るのね。

 その明るくなってるって方に足を運ぶと、開けた場所に出た。おぉ、これはまた……凄いところに出たな。上にも横にもかなり開けた場所に出た。


「わぁ~! 壁いっぱいに光る水晶があるよ!」

「これはまた、凄い数だな」

「聖晶石の大鉱脈って感じだな。入ってきたところの感じからして、洞窟を掘ってたら偶然ここに繋がったんだろ」

「すっげー、これだけの聖晶石があれば、かなり儲かるんじゃないか、これ」

「うむ、数十万ウォルにはなるかもしれんな」


 そりゃ、必死になってハンターを派遣するのも頷ける。聖晶石がどのくらいの価値で取引されてるかは知らないけど、これを手放すのは相当に惜しいだろうしね。

 しかし……1番可能性のありそうなここに、聖晶石以外が無いって言うのは肩透かしだな。スライム達が近付かせたくなかったのは、この鉱脈だったのか?


「でも……多分ここが1番奥なのに、何もいませんね?」

「ふむ、魔物も先発のハンターも居ないか。何処か違う道でもあったか?」

「いや、枝道は大体行ったと思います。わざわざ気配の無い方を確認しながら来ましたし」

「そうだったのかよ!? なんだぁ、だったら魔物ってあのスライム達の事だったのかよ。別に俺達が来る必要まで無かったんじゃねぇの? もう帰ろうぜ」


 いやトリン、それはどう考えても違うだろ。そもそもハンターになるには魔物を退治しなきゃならないんだろ? あのスライム程度が倒せない奴がなれるとは思えないぞ。

 だとすると、ここには必ずスライム以上の何かが居る筈なんだ。それに、先にここに来ているであろうハンター達の痕跡が無いのも気になる。まだ、何かある筈だ。


「ん? あれ? なんだこれ?」

「どうかしたのか、トリン」

「いやなんか、ぷにゅっとしたもんで入ってきたところが塞がれてるんだよ。透明なんだけど……おわぁ!?」


 叫び声? それを聞いて振り返ったら、トリンが透明なゼリー状の何かに囚われてた。あれは、まさか!?


「な、なんだこれ!? うわっ、ちょ、ふ、服の中に入ってくる!?」

「トリン! ……!?」

「なんだ、地震か!?」

「違う……皆、足元だ!」

「むっ!?」


 俺の声に反応出来たのは……くそっ、ロージャさんだけだったか。揺れを感じて俺の傍に来てたミヨちゃんはなんとか出来るが、レーンとサリュちゃんは……ダメだ、どうにも出来ん。

 急いでミヨちゃんを抱えて、大きく後方に跳んだ。ふぅ、俺も間一髪だったか。


「な、うわぁ!?」

「きゃああ!?」

「サリュ! レーン! ナオ、これは!?」

「……どうやら、こいつの巣に俺達はまんまと入り込んじゃったって事か」

「! ナオさん、上から何か来るよ!」


 脇に抱えたミヨちゃんが上を指差した。それを続いて見上げると、ちょっとばかし見なかった事にしたい物が降ってきたところだった……。

 地響きと共に降りてきたこいつは……スライム。だが、その大きさが尋常じゃない、大き過ぎる!


「な、なんだと……」

「こ、こんなの、大き過ぎるよぉ……」

「こいつが、ここのボスって事だろうなぁ、これ」


 俺の身の桁のゆうに三倍はあるであろうスライムが、ジュルジュルと音を立てながらそこに居る。……逃げたい、全力で逃げたい。

 この大鉱脈が広いからまだいいものの、こんなのが通路に出てきてたら一発でアウトだった。埋め尽くされて終わりだぞ。

 ん……あ! こいつの体から、首だけを出すような形で人が捕まってる! やっぱりこいつが、ハンター達をやった犯人か!


「あ、ナオさんあそこ!」

「分かってる、なんとかしてあのハンター達も助けないとな」

「だがその前に、サリュ達を開放せねば!」

「もちろん!」


 ミヨちゃんを下ろし、戦闘態勢に入る。だが、状況は少々厄介だな。


「くそ、引き寄せられる……」

「い、嫌……入ってこないで!」

「足元から出てきたのはスライムの集合体か!?」

「だったら……ミヨちゃん、ロージャさん、俺に続いて! 奴等を凍らせてから引き剥がす!」

「そっか、凍らせれば……」

「叩き割れば済むという事か!」


 そういう事! 幸い、まだデカブツは動こうとしてない。ならば先手を打つのがいいだろう。

 まずは手始めに近くに居るサリュちゃんからだ。レーン、ほんの少しだけ待っててくれよ。

 デカブツに警戒はしながらも、一気に距離を詰めてサリュちゃんにまとわりついてるスライムに触れた。よし、一気に……!? なんだ、デカブツが動いた!?

 デカブツの体の一部が伸びて、俺に向かってくる! 不味い!


「ぐぅ!?」

「ナオさん!?」

「今のは……ナオがスライムに触れようとしたのを邪魔したのか?」

「痛ぅ……どうやら、そうみたいですね」


 今のは俺を捕らえるんじゃなく、突き飛ばす為に攻撃してきたみたいだ。腕を交差させて防いだけど、弾力があって衝撃もかなりする。まともには受けたくないもんだ。


「ぎゃー! た、助けてくれー!」

「あ、しまった、トリンの事忘れてた」

「忘れてたって、ナオさん!? あぁ、トリンさんが!」


 そんなに速くはないが、レーン達を捕らえてるスライムはデカブツに寄って行ってる。不味ったな、先にトリンを救出すべきだった。

 デカブツまで到達したスライム達とデカブツが繋がって、そのままトリンが取り込まれた。……客観的に状況分析してる場合じゃないな。


「うぁ、ぁ……や、止め……」

「待ってろトリン、すぐに出してやる!」


 ……? なんだ、取り込まれたトリンが声も出さなくなった? ……早急に助け出さないと不味そうだ。

 が、まだ取り込まれてない二人の事も救い出さないと。近付けないなら……ここから固めるだけだ!

 両手に魔力を集めて、地面に触れてそれを放つ。地面を伝播して、俺の狼氷枷をあのスライム共にお見舞いしてやるのさ。


「喰らいな!」

「! スライムが……」

「凍っ、た?」

「よし、サリュちゃんにはロージャさん、レーンにはミヨちゃんが向かってくれ! 奴の攻撃は……俺が引き付ける!」

「う、うん、分かった!」

「承知した!」


 狼氷枷は相手の地面に接している部分を凍らせるだけの魔法。だが、相手が水なら例外的に全身を凍らせる事も出来るって訳だ。

 でも、それを割りにいけば、割りに行った二人がデカブツに襲われるのは間違いない。ただし、自分を直接狙ってくる奴が居たら、それはどうなるかな?

 二人をそれぞれの救出に向かわせて、俺はデカブツスライムに真っ向から向かっていく。……本当は回れ右して逃げたいんだけどなぁ。

 よし、二人に向かって伸ばそうとしてたデカブツの……触手って表現すればいいのか? それは俺に狙いを変えた。どうやらあれ、無数に出せるって訳じゃないみたいだ。二人を狙ってた二本だけが俺に向かってくる。


「うぉっとと、おわぁ!?」


 うわ、ちょっ、結構速い! あ、あぶ、危なっ! 止まったらやられる!?

 えっ、何!? 元々囮になる為に向かっていったけど、なんか俺を狙いまくってるんですけど!? 俺なんかそんなに狙われる程の事したのか!? ……もしかして、レーン達を捕らえてたスライムを凍らせた事か?

 回避に集中しないと潰されかねない。スライムって大きくなるだけでこんなに強くなるものなのかぁ!?


「うぉぉぉぉ、がぁぁ!」

「きゃあ!?」


 よし、サリュちゃんの救出はロージャさんによって完了! ってか素手で割るロージャさんがすげぇ! レーンは!?


「くっ、かったーい!」

「ミヨ、無茶はダメだ。こんなもの、自力で!」


 難航中か。幾らミヨちゃんの剣の腕が上がっても、凍って硬くなったスライムを斬るのには無茶があったか。腕力の問題にもなるし、なんとかフォローに入るしかないな。

 デカスライムの攻撃を避けながら、方向を変えてレーンとミヨちゃんの方へ。問題は、俺の拳でどうにか出来るかなんだよな。まぁ、やるしかないんだけど。


「うぉぉぉぉ! ミヨちゃん、逃げてー!」

「え? えぇぇ!?」

「は? 馬鹿ナオ、なんでこっちに来る!」

「いいから、レーンも衝撃に備えろー!」


 走った勢いのまま……右拳をスタンバイ。さて、俺の拳は凍ったスライムの強度に耐えられるのかな?

 思い切り振りかぶって、全力でスライムを殴りつける。……ぐっ!? これは、不味いかも。だが、なんとかレーンにまとわりついてたスライムは叩き割ってやったぞ。


「うぉ!?」

「ちょっとじっとしてろ!」


 このまま放っておいたらレーンがデカブツの一撃で潰されかねない。抱えさせてもらう事にはなるが、そのままダッシュだ。


「ば、馬鹿! 下ろせナオ!」

「後ろ見てから言え! 潰されたいのか!?」

「!? 奴は、お前を狙ってるのか!?」

「どうやら、スライムを凍らせたのが気に入らないらしい。そこから察するに奴は」

「……スライムの、母体!?」


 多分な。今までの通路で出てきたスライムはこのデカブツを守る為に、そしてこのデカブツは、自分の子供であるスライムを増やす為に行動してるんだろう。

 つまり、ここで奴を止めないと……パーセルトの町をスライムが襲うような事になる。それをさせる訳にはいかないな。

 でもその為には、俺の拳じゃ少々役不足かもしれない。俺の右拳、しばらく使い物になりそうにない。


「! ナオ、お前の右手……」

「ちょーっと、硬い物を砕こうとしたら一緒に砕けちゃったみたいでな。いやぁ、無理はするもんじゃないよ」

「暢気に言ってる場合か! 早く手当てを!」

「したいけど、このままじゃ出来んだろうが。……レーン、そこから奴の核は見えるか?」

「核? ……居た、あるぞ!」


 よし、そのままレーンには核を捕捉し続けてもらおう。あいつは倒さないとならないが、囚われてるハンターも依然として助けないとならないのは変わらないからな。

 それを出来るのは……ミヨちゃんだ。タイミング的にも一撃で決める。って言うかもう俺が避け続けるのがしんどい。


「ミヨちゃん、ロージャさん! 聞いてくれ!」

「ナオさん!? 危ないよ、逃げて逃げてぇ!」

「今からこいつを凍らせる! でも、そうするとこいつに取り込まれてる皆も一緒に凍らせちまう! だから一瞬でいいんだ、こいつがトリン達を捕らえてる上部を切り離してくれ!」

「なんだと!? こんな巨大なスライムにそんな事は……」

「……ううん、出来るよ。ロージャさん、手伝って!」


 よし、ミヨちゃんには何をして欲しいか伝わったな。後は、こっちでこいつを仕留める準備をするだけだ。


「レーン、確か槍投げも出来るんだったよな?」

「まぁ、多少自信はあるが……それで奴の核を突き刺せと言うのか? ダメだ、目では追えるが、とてもじゃないが槍を投げ刺すのは無理だぞ」

「でもその時に標的が動かないなら狙えるよな? ……正直、凍らせてもこの巨体を叩き割るのは俺じゃもちろん、ロージャさんでも無理だろう。だから、核を破壊するしかない」


 そう、俺がスライムを倒す際、俺は奴等を凍らせて、その後固まった奴らを砕く事によって仕留めてたんだ。そうしないと、解凍されると普通に復活しちゃうんだよこのスライムって。厄介極まりないだろ?

 だから、俺がこいつを凍らせても核を壊さない限りこいつを倒した事にはならない。だから、レーンの力が必要なんだ。


「やれるよな?」

「……まったく、こんな状況でよくそんな策を思いつくものだ。面白い、やってやろうじゃないか」

「オッケー。槍を外せば、奴の中に残ってもう投げる事は出来ないし、一撃で決めてくれよ」

「こんな抱えられた状態で無茶を言うな。……一回でいい、その手で私を上に放り上げる事は出来るか?」

「……やってやれない事は無い、かな」

「よし、ならば一回だけでいい、気合を入れろ。動かない標的になら、槍を叩き込んでやる」


 気合を入れろ、か。言ってくれるじゃないか、やってみせるしかないな。

 相変わらず俺をひたすら狙ってくるデカスライムの攻撃を走って避けつつ、ミヨちゃん達の準備が出来るのを待つ。チャンスは一回、それで確実に仕留めるんだ!

 にしても……レーンって鎧着てるから重いかと思ったら、結構こうやって抱えながら走れるんだから軽いんだな。いや、ミヨちゃん程ではないけど。


「ナオさん! こっちはいつでもいいよー!」


 おっと、ミヨちゃんの方の準備も出来たみたいだな。なら後は、こっちのタイミングで仕掛けるだけだな。さぁ、やるか。


「レーン、準備はいいな?」

「お前こそ、情けないような事になるんじゃないぞ」

「了解だ……ミヨちゃん、今だ!」

「ロージャさん!」

「よし来い、ミヨ!」


 俺に奴の触手が迫ってくるのを確認しつつ、ミヨちゃんがロージャさんの重ねた手の平に乗ったのを見た。なるほど、それで高さを稼ぐんならいける!

 ロージャさんの両腕が振り上げられ、ミヨちゃんが空中に投げ出される。なら、俺も!


「うぉぉぉっ、らぁぁ!」


 レーンの打ち上げ……成功! なら、次は俺に向かってくる触手を捕捉しつつ待機だ! ……右手めっちゃ痛いし!


「私の剣になって! 光のぉ……!」

「我が一撃は烈火! 汝を焦がす赤き閃光!」


 !? あれは……レーンの呪文!? っていうかレーン、魔法使えたのか!?

 レーンの槍が……燃えてる! そうか、炎の熱が加われば、凍ったスライムでも絶対に貫けるって事か!


「刃ぁぁぁぁ!」


 叫びと共に、体の捻りを加えたミヨちゃんの横薙ぎの剣閃が走る。その光を纏った剣閃は、振りに合わせて……巨大な刃になる!

 光が走って、スライムを一気に上下に切り裂いた。よし、上手いことスライムの核は触手を伸ばしてる先にある。今度は俺が頑張る番だな!

 俺を潰そうとする太い触手を最低限の動きで避けて、触れる。さぁて、やられる覚悟は出来てるか?


「凍っちまえぇ!」


 狼氷掌、フルパワーだ! よし、氷結が伝わっていく!

 急速冷凍スライムシャーベットの出来上がりってな。絶対に食べたくはないけど。


「レェェェェン! 頼んだぞー!」

「任せろ! イグニス、貫けぇ!」


 固まって動けなくなったデカスライムの核に、炎の塊のようになったレーンの槍が放たれた。正に赤い閃光、だな。

 その槍は、巨大スライムの核を……貫く。勝負有り、だな。

 っと、落ちてくるレーンを受け止めんと! おっとと、こっちで……いよいしょぉっと!


「うっ、いでぇ!?」

「ん? おわぁ!?」


 しまった、レーンを受け止める衝撃に俺の手が耐えられなかった。受け止めきれなくて……俺の体がクッション代わりに使われる事になっちまったよ。


「お、お前、受け止めようとするならちゃんと受け止めてくれ……」

「わ、悪かったって……奴は!?」

「見ろ。決着は着いたさ」


 ! 凍ったスライムは砕けて、ミヨちゃんが切り離した上部は固体を維持出来なくて液状になり始めてる。はぁ……終わったな。


「ナオさーん! 大丈夫!?」

「あぁミヨちゃん、俺は平気だよ。光の刃、上手く出来たみたいだね」

「何が平気だ。右腕、血だらけになってるぞ?」


 ん、うぉぉ!? グローブの隙間から血が滴ってる!? 外してみたら、右手が血だらけだ。まぁ、拳が裂けてりゃこうなりもするか……。


「ナオ!? その右手は!?」

「レーンを捕らえてたスライムを殴りつけた時にちょっと。しばらく握り込むのは無理かなぁ」

「ナオさん!? 大変……少し診せて下さい」

「え?」


 サリュちゃんが俺の右手の状態を診てくれてる。自分の感じ、骨は折れてないかな? ただ、拳の肉が裂けてるからもの凄く痛い。人間の拳って硬い物全力で殴ったらこうなるのか……覚えとこう。


「骨に異常は、あってもヒビくらいみたいですね……良かった、これなら治せます。少しそのままにして下さいね」

「治せるって、これを?」

「……傷付きし者に温かき命の息吹を……」


 !? サリュちゃんの手が添えられてた俺の右手を、淡い緑色の光が包む。これって所謂、回復魔法って奴か?


「サリュの魔法は癒しや解毒だ。自然の息吹を集めて、体を癒せる」

「へぇ、凄いなぁ」

「でもこの裂傷は数箇所出来てますし、ちょっと時間が掛かっちゃうかもしれません……」

「そうだな……ナオはこのままサリュに治療をしてもらっていろ。捕らわれていた者達は俺達で様子を見る」

「あ、そうだった。スライムの体がクッションにはなってると思いますけど、怪我とかしてないか確認して下さい」

「承知だ」


 今までのスライムとの戦闘で、奴等が凍らずに倒された場合、その体はゆっくり液状化するのは知ってたから切り離した上部に捕まってた人達の事は心配してなかったんだ。別に無策で切り離した訳じゃあないんだぞ?


「……まぁ、お前がこうなったのは私の油断からだからな。サリュ、私も手伝わせてもらうぞ。ロージャ、ミヨ、そっちは任せていいか?」

「レーン? 手伝うって?」

「見ていればいい。……汝、命の火を灯す者。かの者の痛みを焼き尽くせ……イリス」


 おぉ!? 俺の右手燃えてる!? あれ、でも痛みが更に引いていくぞ? どうなってるんだ?


「これって……」

「炎は、物を燃やし破壊するだけじゃない。時には温め、活力を与える。これはその面を発現させてる。触れていても問題は無いよ」

「って、そもそもレーン、魔法使えたのかよ。驚いたなぁ」

「え、詠唱が少々恥ずかしくて、あまり好んで使わないだけだ。お前みたいなシンプルな詠唱……というか詠唱せずに使えるような魔法だったら良かったのだがな」


 そ、そうだったのかよ。でも父親であるカンジェンさんがそうだったからか、レーンが使えるのは炎の魔法みたいだな。覚えておこう。


「これなら、そう掛からないで治せそうです。良かった……レーンさん、ありがとうございます」

「い、いや、礼を言われるような事でもないぞ。ただこいつに貸しを作ったままと言うのが嫌だっただけでだな」

「なんだよそれ……でも助かってるし、やっぱりありがとう。サリュちゃんも、レーンも」

「先に私達が助けられてるんだから当然ですよ。ナオさん……」

「全く、あれだけ勝手に無茶をするなと朝に言ったのに……馬鹿な奴だな、お前は」


 な、何よこの空気? 変にこんな甘ったるいような空気になられると反応に困るってば。俺こういうの慣れてないんだから。

 レーンも言ってる事はきついのに、そんな穏やかな表情されたら調子が狂うっての。は、早く治療終わらないかなーっと。


「どうやら捕まってた者は、皆意識を失ってるようだ。うん?」

「ナオさん、なんで照れてるの?」

「え!? いや、照れてなんかいないよ! えっと、そう、治療で血行が良くなってるからそうなってるだけだよ。うん」

「……お前、照れ隠し下手だな」

「う、煩いよ!」

「ふふふ、はい、終わりましたよナオさん」


 おっと、それは良かった。……おぉ、もう出血も裂傷も無い。癒しの魔法って凄いな。

 さて……これで多分、魔物退治の仕事は成功だな。っていうか、あれ以上の魔物が出てくるとかは勘弁して下さいマジで。

 残った問題として、この助けた人達どうしようか? なんでか皆裸なんだよなぁ……あ、トリンも裸になってる。あのスライムが溶かしたのか?


「で、どうするの、この人達とトリンさん?」

「そうだなぁ……多分驚異になってたスライムは倒したんだし、町に戻って救助してもらおうか」

「援軍を呼んでくるという事だな。人数が人数だし、それでいいだろう」

「呼んでくる間、この場を確保しておく者も必要だろう。どう分ける?」


 そうだな……事情説明は俺がした方がいいだろうし、万が一の為にも男手はここに残しておくべきだよな。ロージャさんにはこっちに残ってもらうか。


「ナオ、お前はここで休んでいろ。救助は俺が呼んでくる」

「え、ロージャさん?」

「大方、お前の事だから自分が救助を呼んでくるつもりだろう。だが、さっきまであのデカブツ相手に奔走してたんだ。少しは俺達に頼って休んでも罰は当たらんだろう」

「でも……いや、そうですね。じゃあ、そっちはお願いします」


 確かに疲れてる。まぁ、あれだけやってたら誰だってそう思うよな。ここは、ロージャさんの申し出を素直に受けておこう。

 ならロージャさんの方にもう一人、ロージャさんなら心配は無いだろうけど、転ばぬ先の杖は用意しておいて損は無い。


「レーンとサリュは、倒れてる者達を診てやってくれ。治療出来そうなら早いに越した事はない」

「だな。手分けして行こうか」

「分かりました」

「じゃあ、ロージャさんの手伝いは私が行くよ。道も照らさなきゃならないし、いいよね? ナオさん」

「え? あ、うん……」

「決まりだな。よし、行ってくる」

「あ、ロージャさん、ミヨちゃん、一応これを。退治した印ってことで」


 俺が二人に投げて渡したのは、奴が暴れて砕けた聖晶石の欠片。……まぁ、結晶はそれでも多くあるし、これくらいは許してもらうってことで。

 なーんか俺が指示を出す前に皆動き出しちゃったし、俺は……大人しくしてようか。


 うーん……なんだろこれ? 確かグローブは、手の平の方に妙な模様があったと思うんだけど、手の平の方には何も無くなって、代わりに手の甲の方に模様が描かれてた。

 白い……狼の横顔の模様。絶対に無かったよな、こんなの。それに、俺の血がべったり付いた筈なのに、グローブにはそれらしい跡も無くなってた。どうなってるんだ?


「ずっと気にしてるようだが、そんなに気になるのか? お前の思い違いでは?」

「ない、って言い切れないのが問題なんだよなぁ。でも血の跡も無くなるグローブだぞ? 気になるだろ?」

「まぁ、お前の右手が負傷したのは確かだしな。染みにもならないのは少々気になるが、お前の拳が砕けても破けないグローブだ。付けてて損は無いのではないか?」


 レーンの言う事も一理ある。確かに丈夫だし、付け心地も良い。手に馴染む感じがするんだよなぁ。……トリンに貰ったって恩もあるし、まぁいいか。

 改めてグローブを手に填めて、軽く伸びをした。今日の宿はもう取ったし、これ以上何かする気も無い。第一ミヨちゃんが疲れて寝てるから、勝手に出歩いたりっていうのも悪いし。

 あの後俺達は無事に救助を呼んできたロージャさん達と合流、スライムに捕まったハンター達は全員保護されて、今はこの町の診療所のお世話になってるそうだ。

 トリンは……捕まっていた時間が短かったからか、スライムから開放されて2時間くらいで目を覚ました。今は……まぁまだ落ち込んでるんだろうな。

 起きて意識がはっきりしてきての第一声が、『もう俺お婿に行けない』だったからな。婿に行く気があったのかは謎だが。

 その一言で何があったかは分かっただろう。……あのスライムが求めてた物は、ずばり魔力だ。あの大鉱脈で聖晶石から漏れ出してくる僅かな魔力を啜ってスライム達を生んでたんだが、そこに人間が踏み込んでしまったのが運の尽き。

 聖晶石なんかよりも魔力を持っている人間に目を付け、それからどうすれば多くの魔力を得られるか。あの核で考えた結果が、体内から吸い出すって手段だったようだよ。


「しかし、私もそうなっていたかもしれないと思うと、背筋に冷たい物が走るな」

「本当だよ。もし俺達があいつに負けてたら、全員揃って奴の餌だ。……いや、俺は奴に潰されてもっと酷い事になってたか」

「不吉な事を言うな……まぁ、どの道奴は退治した。私達も無事にハンターに成れたし、資金も手に入った。結果良ければ全て良しだろう」


 うん、その通りだな。今、俺達はそれぞれに装飾品に加工されたハンターの証を所持してる。しかも、自分達が取ってきた聖晶石が付いてるんだから自分専用の証のようで、なんとなくレアな物な気がしてくる。

 レーンがネックレス、これは今身に付けてる。ミヨちゃんは髪留めで、これも今身に付けている。で、俺はブレスレットにしてもらった。まぁ、皆携帯に楽な物をそれぞれ選んだって形だな。

 まぁそれはいい。大事なのは資金が増えたって事だ。その額、なんと2000ウォル。まさかの所持金が10倍になるという嬉しいサプライズがあったんだ。

 お陰で二日目の宿も心配無く取れたし、明日旅の準備を整えて、ついにパーセルトからの一歩を踏み出せるようになるって訳だ。


「やれやれ……旅の始めの町だって言うのに、盛り沢山なくらい色々巻き込まれたなぁ」

「全くだ。いきなりあんな大物と戦りあう事になるなんて思いも寄らなかったぞ。だが、あのメンバーで挑めたのは僥倖だったのやもしれん」

「本当だな。ミヨちゃんが居なかったら捕まった人達を助けるのが難航しただろうし、レーンが居なかったら奴を仕留められなかった。ロージャさんと協力しなかったら二人を助けるのが出来なかったかもしれないし、サリュちゃんが居なかったら俺の右手が使い物にならなくなってたところだ」


 皆で戦ったから、あんな大物でも倒せた。こういうの……なんか、良いよな。


「そうすると、トリンは尊い犠牲、と言ったところか?」

「そう言うなって。トリンがスライムの存在を教えてくれたからこそ、俺やロージャさんは初動が間に合ったんだ。全員に意味があったんだよ」

「なるほど……確かに、誰か一人でも欠けていたなら、結果は変わっていたのかもしれないな」


 間違い無く、な。もしあれが俺達三人だけだったりしたら、ここまで良い結果にはならなかったのは確かだろ。


「……出来ればあの三人にも協力して貰えればいいんだけどなぁ」

「それは流石に無理だろう。私達の相手は、世界を闇に染め上げる大国。そんな相手と戦うのに他者を巻き込むのも気が引ける」

「だよな。が、本当に一国と戦うとなると、俺達三人でなんとか出来ると思うか?」

「無理……だよな」

「だろうさ」


 ファウンド王国についての情報も必要だし、協力者も絶対的に必要だ。既に相手は王国だって分かってるんだからな。

 しかし、相手は最近他国を攻めて領地を広げてる強国。そんな相手と戦りあうのを協力してくれる奴なんて居るんだろうか?

 っていうか、俺達三人で挑む事が無謀なんだよな、そもそも。はぁ……前途多難過ぎてげんなりだよ。


「思えば思うほど、私達がやろうとしてる事って無謀もいいところだな」

「遂行不可能って言っても過言じゃない。……はぁ、俺は死んでまで何をしてるんだろう……」

「死んでるって、生きてるじゃないか。ん? いや、このミナスティアに来る為に一度死んでるんだったか?」

「そ。俺もミヨちゃんも、こことは違う別の世界で生きてきた歳月があるんだ。今ここ、ミナスティアに居るのが夢みたいだよ」

「夢か。昼間に右手を血だらけにして痛いと騒いでたのに、まだそんな事を言うか。……と言っても、無理も無いのやもしれんがな」


 その点が夢じゃないって思わせてくれる点だよな。この世界は夢なんかじゃなく、ここで俺は生きている。つまり、怪我をすれば痛みはあるし、それが悪化すれば命を落とす。……流石に、二回目の転生なんて都合の良い事は起きる訳無いだろうなぁ。

 だから、全力を以てしてこの世界で生きていく。……役目が無ければ、そう難しい事じゃないんだけどな。国落としをしろって無茶……今度は本当に終わるかもな。


「命懸けの国落としかぁ。……レーン、お前も今なら、まだセイラムに帰れるぞ? こんな無茶、付き合わなくても安全に暮らしていける。俺達に付き合うメリットなんて、風が吹いたら飛んでいく程度のものだろ?」

「だろうな。今日だって巨大なモンスターと戦う事になった、これから先何と戦う事になるかも分からん。だが……ここで村に帰れば、絶対に後悔する。それも一生な。そんな事は御免だ」

「全く……物好きな事で」

「ん? ……どうやら、別な物好きが来たようだぞ」


 別な物好き? おっと、部屋の扉をノックする音がする。誰だ?


「俺だ。ナオ、レーン、起きているか?」

「えぇ。鍵は掛けてないんで、どうぞ」


 扉が開いて見えた姿は、ロージャさんだった。あれ、トリンは不貞寝してるだろうけど、サリュちゃんはどうしたのかな?


「うむ、ミヨはやはり眠ってたか。こっちも後の二人は寝ている。……お前達、あれだけ魔法を使ったのにタフなものだな」

「私は、母が魔力の扱いに長けていたからか、元の魔力が多いらしくてな。全力でなければ、魔法をそう使っても負担にならないんだ」

「……そう言えば俺、かなり魔法使ったけどなんともないな。なんでだろ?」


 魔法はもちろん、自分の内にある魔力を消費して発動する。で、魔力を消費すると、体はそれを補う為に自然と体力を使うそうだ。故に、魔法を使うって事は運動をするのとほぼ同じように体が疲労するみたいだ。

 思えば、俺ってば訓練でも魔法教わりたての頃は疲れたけど、ある程度使い方を覚えたら疲れなくなったっけ……。本当になんでだ?


「ふむ、私と同じように魔力の総量が多いか、よっぽど魔力の制御に長けているか……或いは、その両方かもしれんな」

「へぇ、そういうの俺、気にした事無かったな。なんか意識しなくても使えたし」

「聞いてると、世の魔術師達が全員怒り出しそうな一言だな……だが、ナオの魔法は不思議だな。詠唱破棄が出来る魔術師は聞いた事があるが、魔法名すら言わずに発現する魔法など聞いた事が無い」


 詠唱ねぇ……そもそも俺が今の魔法を閃いた時、そんな呪文なんて聞こえてこなかったんだよ。ただ狼氷枷や狼氷掌って言葉が思い浮かんできただけなんだよなぁ。

 あぁ、なんか魔法って、その素質がある者の場合心に響いて来る感じで習得していける物みたいだ。俺とミヨちゃんは、あの女神がそう仕込んだんだろうな。

 それ以外の、自発的に魔法が使えるようになる者以外が魔法を使えるようになるには、魔法の仕組みを知る事はもちろんの事、魔法が秘められている魔道書なる物から魔法を授かるそうだ。まぁ、それも相性によって出来るか出来ないかが決まるらしいけど。


「魔法の素質の無い俺からすれば、羨ましい限りだ」

「あれ、ロージャさんは魔法を?」

「残念ながら、魔法の声が聞こえる事も、合う魔道書も無かった。まぁ、魔法が無い分それ以外の戦い方を極めていくつもりだがな」


 なるほど、そういう道もあるんだろうな。ロージャさんの力なら、武術による戦闘を極めていく事も難しくないだろう。

 ……そう言えばロージャさん、何のためにこっちの部屋に来たんだ? その辺聞くの忘れてたぞ。


「ところでロージャさん、どんな用件で?」

「おっと、そうだった。いやその、お前達の旅の目的を聞かせてくれないか、と思ってな」

「……それ次第では、共に旅をしないか誘いに来た、というところか?」

「隠し事は出来んか。あぁ、その通りだ。今日のスライムとの一戦もそうだが、即席であそこまでの連携も取れた。俺としても、三人が居てくれるのは心強い。……正直なところ、これから先、サリュとトリンの事を俺だけで守りきれるか自信が無いと言うのが本音でな」


 確かに、トリンは危なっかしいところもあるし、サリュちゃんの魔法は戦闘向きじゃない。戦闘に居てくれると助かりはするけどな。

 だけど、俺達と一緒に来るのはお勧め出来ない。旅の終わりに、大一番があるのは確定なんだから。


「ナオ、どうする?」

「……多分、俺達の目的を聞いたら、俺達への見方が180°変わりますけど……聞きます?」

「そう、なのか? ……教えてくれ、お前達は何をする為に旅に出たんだ?」


 これは、話さないと帰らないな。しょうがない、話すとしようか。

 とは言っても、今話せるのは漠然とした事実のみ。策も仲間も無しでファウンド王国と喧嘩しますって言われたら、どう思うかは分かりきったもんだろう。


「神託によって神に選ばれた勇者!? ミヨがか!?」

「そう。そして俺は、まだ若過ぎるミヨちゃんの世話全般をする為に一緒に居る付き人。……ね? 見方が変わるでしょ? でも、俺が今話した事は全て真実。そう、全て」


 もちろん俺とミヨちゃんが異世界からここに来た事も話した。一緒に旅をするならば、隠し事をする訳にはいくまいて。

 流石のロージャさんも唖然としてる。ま、仕方ないだろうな。突拍子のない話ではあるし、信じられなくて当然だ。


「に、にわかには信じられん話だな……だが、納得出来た事もある」

「納得出来た事?」

「ナオの判断の鋭さと、指示の的確さだ。精神が俺よりも年上だと言えば、あの的確さも理解出来る」


 あ、そういう事。一応中間管理職だったから、そういうのは割とやってきた事だからね。得意って程じゃないけど、ある程度自信はある。


「しかし、ファウンド王国か……十年前まではそんな国じゃなかったと言うのに、どうしてあんな国になってしまったのか……」

「え? まさかロージャさん、いや、そう考えるとトリンも?」

「あぁ、俺達の故郷の村は……ファウンド王国領にある」


 ま、マジですか……予想外のところから情報が聞けるようになったな。っていうか、ロージャさん本当に信じてくれたのか?


「ファウンドの出だったのか!? でもそれが、何故フルミレア国領に居るんだ?」

「ここって、フルミレアって国が統治してるのか?」

「父上から習っただろうに。というか、ファウンドと敵対している大国で残っているのはフルミレアだけだろうな」

「へぇ……あ、話の腰を折ってすいません」

「いや、気にしないぞ。俺達がフルミレアに居る理由、だったな……簡単だ、ファウンドからの亡命と言ってもいい。俺達は、ファウンド王国から逃げてきたんだ」


 亡命!? な、なんでそんなリスクの高そうな事を?


「四年前の話にはなるが……俺達が、というかトリンがハンターになる事を決意した時だな。その頃のファウンド王国は、もうおかしくなっていた」

「おかしく?」

「……王国からの命令で、各地の若い者が全て兵として徴兵された。それ自体はもっと前から起こっていた事なんだが、そうすると何が起こると思う?」

「そんな事をすれば、村は働き手を失って、やがて村を維持出来なくなる、か?」

「それだけならいい。問題は……」

「……魔物ですか?」


 ロージャさんは頷いた。なるほど、若者が居なければ、働けなくなるだけでなく村の自衛を行う者も居なくなる。魔物に襲われたらアウトって事か。

 そして、ロージャさんの居た村でもそれは同じ。というか、ロージャさんが徴兵される寸前だったらしい。


「ただ、徴兵される前に行動を起こした馬鹿が居てだな……」

「まぁ、誰と言わずとも分かるんだけどな」

「俺達が村を離れる前から、トリンからハンターにならないかという話は誘われてたんだ。だが、俺はそれを止めていた」

「また、どうして?」

「……国が、ハンターなど不要としてハンターである者は国外追放、なろうとする者は……その場で処刑するという声明を出したんだ。だがあの馬鹿は俺の話を聞かずにな……」


 な、なんだその声明……無茶にも程があるだろ。独裁政治ってこんな感じなのか……。


「あの日、俺は最後まで止めていたんだが……トリンはそれを押し切って村を出た。まさか、それが王国に漏れてて、国属の兵士達が村の前で見張ってるとは思わなかったけどな」

「な!?」

「それでトリンを助ける為に兵士と戦りあったのが悪かった。俺もトリンも、今ではファウンド王国の一級犯罪者扱いだろう」

「そ、それでフルミレアに居るのか」

「ここの前には、各国を巡っていたがな。ハンターになるのも大分苦労したものだ」


 そんな事があったのか……ファウンド王国、どうやら国内も相当荒れてるみたいだな。でもその変化が急だって事が気になる。十年前に、一体何があったんだ?

 何にしても、これは大収穫だ。四年前とはいえ、ファウンド王国の国内の事が分かるとはな。……これは、付け入る隙があるかもしれん。

 

「……さ、これでこちらの事情も話した。おあいこだな」

「あ、はい。……おあいこって?」

「俺達に旅の目的は無い。強いて言えば、ハンターとして大成出来れば、程度のものだ。ならば故郷を救う手助けをする、というのも悪くない」

「それって……」

「無理強いをするつもりはない。が、目標が目標だ。協力者は必要じゃないか?」

「やれやれ……世の中には物好きが結構居るものだな」

「何処かのドラシェルも、そうではないのか?」


 参ったな……こんな風に協力者、というか仲間が増えるとは思ってなかった。嬉しいけど……いいのかな?


「あ、でもロージャさん、二人には?」

「そうだな……しばらくは伏せておくつもりだ。王国の事を話すと、厄介な事になりそうなのがこちらに一人居るんでな」

「トリンか。聞いた途端にファウンドへ行くぞ、等と騒ぎ出すんじゃなかろうな?」

「よく分かったな。多分そう騒ぎ出すだろう」


 トリン……無謀って言うか無鉄砲っていうか、とにかくロージャさんからもそんな認識なのね。

 でもこれで話は決まっちゃったようだ。ま、後は流れに任せるしかないか。


「なら、明日からもよろしくお願いします。って事で、いいですかね?」

「あぁ、よろしく頼む」

「やれやれだな……あの喧しい鳥だけ置いていかないか? 安眠妨害だけは勘弁願いたいぞ」

「そう言うなったらさ……じゃあ、俺達は明日にでもこの町を発つつもりなんですけど、ロージャさん達もそれで?」

「構わないが、これから先どうするかは決まっているのか? 何も無いのならば、ある程度目標を決めてから動き出すべきじゃないか?」

「なら明日、全員が揃ってる時に話を進めた方がいいだろう。ナオ、どうせお前の事だ、何か思うところはあるのだろ?」


 なんで分かったし。いやまぁ、さっきまでの話で、目指すべきところはおぼろげにだけど見えたけどさ。また顔に出たかな?

 ファウンドに行く前に、やれる事はやっていかないとならない。ずばりこちらの協力者を募る事だ。今日改めて話を聞いたけど、ファウンドは相当戦力増強に力を入れてる。ほぼ間違い無く俺達三人だけで行ってどうにかなる事は無い。

 ただし、もし国単位の協力者が出来たらどうだろう? ひょっとしたら、活路が見えてくるかもしれない。

 どの道俺達はやらなければならないんだ。小さな可能性だろうとも、一つ一つ増やしていくしかない。それに打って付けなのは……ファウンドに敵対しているという大国、フルミレア。足を伸ばして損は無いだろう。


「その分だと、大丈夫そうだな」

「とりあえずしばらくは、俺達がロージャさんの申し出を受けて一緒に旅をする事にしたって事にしましょう。その方が二人も納得し易いでしょう」

「トリンはともかく、サリュには話してもいいのではないか?」

「いや、サリュちゃんもまだ心に傷を残したままだ。あまり重い話で負担は掛けたくない」

「済まない、ナオ……」

「謝らないで下さい。俺達としてもサリュちゃんの事は気になってたし、伝えなきゃいけない事もありますから」

「そう言えば……我らが女神は、一体どんな反応をするだろうな」


 さぁてね。ま、どうせ水晶の登録メンバーは追加してもらわないとならないし、一緒に旅をするなら知らせなきゃならない事だ。受け入れさせるさ。

 そろそろ日も沈むし、今日の話はこれで終わりにしよう。日ももうすぐ沈みそうだし、今日は俺達も疲れた。ゆっくり休んで、明日の出発に備えようか。


 ……ん? ここは……何処だ?

 雪原? なんで俺はこんなところに?

 っと、あれはなんだ? 吹雪の中で、何かが……佇んでる。

 近づいていってみると、驚いた。身の桁何メートルあるかは分からないが、とんでもなく大きな……狼が、そこに居た。

 背の毛色は深い青で、それ以外の毛は雪のように真っ白だ。こっちを見てるけど、不思議と怖いような感覚は無いな。


『ウォォォォォォォ……』


 あ、上を向いて遠吠えしてる。ん……こっちを向き直して……笑った?


『よぉ、兄弟』

「き、兄弟?」

『よーく見てろ。お前なら、出来る筈だ』


 見てろって? な、なんだ? 四本足で立ち上がったと思ったら、口元が光り始めたぞ?

 あれは……魔力? 魔力が集まってるのか。淡い水色に輝く、冷たいけど、美しいとも言える光……。

 少しだけ、大きく息を吸い込むような溜めがあった後、狼の口からは冷気を放つ光線が放たれた。凄い……あらゆる物を凍らせてしまいそうな冷気だ。

 !? なんだ……狼氷、凍波? 新しい、魔法?


『ここなら周りに気兼ねなく試せる。やってみろよ』

「え、あ、あぁ……」


 えっと、イメージは今の、狼の光線でいいのか? だったら右手は前に出して、左手は右腕に添えて固定する。……よし!


「狼氷……凍波!」


 ! で、出た! 右手に一気に魔力が集まって、手の前に光の珠が出来たかと思ったらそれが真っ直ぐに伸びていく!


『……ん、まぁ今はそんなもんだろ。訓練次第では、俺並のを撃てるようになるぜ』

「はぁ……っていうか、おたくはどちら様で?」

『俺の名は、フェンリル。心配するな、お前に害を与える気は無いし、結構身近に居るんだぜ。お前の名前は?』

「俺? えっと、ナオ。ナオ・シュヴァリス」


 ん? 俺が名前を言ったら、今まで吹いてた風が止んだ。静かに雪が降ってくる。


『よーし契約成立、これでお前は俺の兄弟だ。いつでも力を貸してやれる。……まぁ、それにはもうちょい準備が要るけどな』

「け、契約? 力を貸すって?」

『ま、今は気にするな。また今度、魔法を教えてやるよ。といっても、氷の魔法だけになるけどな。水のはまぁ……その内閃くだろ』

「はぁ……」


 えっと……とりあえず友好的な狼らしい。デカ過ぎるけど。

 っていうか契約ってなんですか!? 俺は何をさせられたんですか!?


『それじゃ、外じゃもうそろそろ朝だ。起きて来い!』

「へ? 朝?」


 うわ、また吹雪が! な、なんにも見えん! どうなってるんだ!?


 ……バッと体を起こすと、そこは宿の、俺達の泊まってる部屋だった。今のは……夢? にしちゃあはっきりと覚えてるし、なんだったんだ今の?

 むぅ……でもはっきりと狼氷凍波の事も覚えてる。出せるのかな? ちょっと弱めに出してみようか?


「えーっと、狼氷……凍波」


 !? うぉ、出た! 危なっ、手の平上に向けてたから自分の顔が凍るところだった! はぁー、本当に新しい魔法として習得されてる……。

 だとするとあれは本当になんだったんだ? 夢だったのかもしれないけど……うーん?

 フェンリル、って名乗ってたよな? あの狼も一体なんだったんだろ。すぐ近くに居るって言ってたけど、どう考えてもあんなデカい狼が居れば目立つし。はて?

 ……あーもう、考えても分からん。とりあえず外の空気でも部屋に入れてリフレッシュしますか。

 窓を開けると、快晴の空に太陽が昇ってくるところだった。良い朝だな。


「ん……ふぁぁ……」

「あ、ミヨちゃん起きた? お早う」

「お早うナオさん……ん~!」


 伸びを一つして、ミヨちゃんもベッドから出た。この分だと、昨日の疲れは無いみたいだね。

 レーンは……まだ寝てるか。まぁまだ日が出たばかりだし、もう少し寝かせておこうか。


「じゃ、顔なんか洗いにいこうか。レーンが寝てるから静かにね」

「はーい」


 ……ミヨちゃんには気付かれてない、かな。いやまさか、狼氷凍波が当たった天井面が白く凍るとは思わなかった。水が凍った訳じゃないし、溶けても水が滴り落ちたりしない……よね? この魔法は、よっぽどの状況以外にはほいほい使わないでおこう……。

 朝の身支度なんかを済ませてる間にレーンも起きてきて、三人揃う頃にはもう太陽も丸くなってた。さて、ちょっと早く目が覚め過ぎたかな? ロージャさん達、まだ流石に寝てるだろ。


「もう少しのんびりしてから宿から出ようか。まだ流石に何処の店も開いてないだろうし」

「えっと、今日はどうするの? もう少しお仕事?」

「いや、今日からはまた次の町を目指し始めようかと思うんだけど、どうかな?」

「そう、なんだ。なら、トリンさん達ともお別れだね……」

「それなんだがな、ミヨ」


 って訳で、昨日ロージャさんと話し合った結果を報告中。ついでに、話を合わせてくれるように言っておかないとならないし。


「じゃあ、これからもロージャさん達と一緒なんだ!」

「うん。あーでも、勝手に決めちゃってごめんね?」

「いいの! 皆と一緒なのは嬉しいもん!」

「ミヨもこう言っているし、決まりだな」

「そもそもロージャさんからの申し出だし、断る理由もあまり無かったし」

「そうなんだ。……でもトリンさん大丈夫なのかな? 昨日凄く落ち込んでたけど……」

「大丈夫じゃないか? ああいうのは、一晩寝たら回復してるだろ」


 いや、それは流石に楽観視し過ぎなんじゃないか? なんであれ異物に体の中を蹂躙されたんだし、体にダメージは無くても心の方にダメージが……。


「おーいナオー! 起きてるかー!」

「……ほらな?」


 いや、うん、トリンが元気そうで何よりだよ。うん。……一瞬でも心配した事を残念に思うがな。

 呼ばれたから部屋の扉を開けると、新しい服に身を包んだトリンがそこに居た。っていうか三人とも居た。この分だと、事情の説明は終わってると見ていいだろう。


「なっ、なっ! 俺達と一緒に旅するって本当かよ!」

「ロージャさんから聞いたんだろ? 俺達としてもハンターに成り立てだしな、経験者と一緒に旅出来るのは悪くないと思って」

「俺達側も、ナオ達程の実力者が居てくれると大いに助かる。双方にとって悪い話じゃなかったという事だ」

「じゃあ本当に、一緒に旅が出来るんですね!」


 どうやらトリンもサリュちゃんも喜んでくれてるみたいだ。この分だと、そう時間を掛けずに俺達の旅の目的も話せそうかな。

 しかし六人旅か……ちょっと大所帯になったけど、旅費は大丈夫かなぁ? 多分ロージャさん達も持ち合わせはあるだろうけど、俺達は俺達、ロージャさん達はロージャさん達で金は持っておくべきかな。もしもの時は2チームに分けたり出来るようになるし、そうしよう。


「とりあえずこれからの算段等も話したいところだし、皆の用意がいいなら宿から出ないか? あまり長居すると宿に迷惑にもなるだろ」

「そうだな。こっちは大体用意出来てますけど、ロージャさん達は?」

「済まんが起きたばかりだ。追って宿を出るから、少し先に出ていてくれ」

「分かりました。んじゃ、外で待ってますか」

「だな」

「うん!」


 目指す場所は、フルミレア王国の王都。後で確認するけど……何処にあるんだろうな? そう言えば。

 まぁ、目指してればその内着くだろ。今は、朝飯に何を食べるかでも考えるとしようか。

「はーい、ついに仲間も増えて勢いがついて来たナオさんと送る……」

「あのぉー……」

「……ワッツ!? なんでミヨちゃんがここに!?」

「えっと、ナオさんから今日は交代してってお願いされて……」

「なんですとぉ!? おのれナオさん、面倒くさくなって逃げましたね」

「だから、今日はよろしくお願いします。イリアンさん」

「むぅ、仕方ないですね。それではよろしくお願いします、ミヨちゃん。(くっ、ミヨちゃんがサブだと真面目にやらざるを得ない!)

「それで、ナオさんから聞いたんですけど……今日は私達の旅の何を説明するんですか?」

「そうですねぇ……それじゃあミヨちゃんについて説明しましょうか。折角ですし」

「あ、はい! えっと、坂崎美代……じゃなくて、ミヨ・リュミエーレです。12歳で、ナオさん達と一緒に旅をしています」

「……ナオさんならここで、『俺が旅の同行者なんだけどね』とか言いそうなところですね」

「あそっか、ナオさんは私の旅を手伝ってくれてるんだった」

「そうですねー。ミヨちゃんは元々、ミナスティアで勇者の使命を持って生まれる筈だったんですけど、こちらの手違いで東京に生まれちゃったんですよね」

「でもまだイマイチ勇者って言われてもよく分からないんだけど……」

「まぁそこは、おいおい分かってくると思うんで。今は深く考えないでいきましょう」

「はーい。あ、でも光の魔法が使えるのはその所為なんですか?」

「そうですねー。闇の魔力に1番対抗出来る力が光の魔力なんで、ミヨちゃんにはそれが備わってるんですよー」

「そうだったんだ……でも、なんで剣を使わないと出せないんだろ?」

「それは……さっぱり? 多分ミヨちゃんが無意識に使い易い形を作ったんだと思うんだけど……」

「そ、そうだったんだ」

「まぁ、あまり難しく考えないでいきましょう。まだまだ旅は続きますしね」

「はい! 頑張ります!」

「(くぅぅ、ボケれないから早めに話を切り上げざるを得ない!)」

「? イリアンさん?」

「あ、いえ! なんでもありませんよ! とりあえず、今日はこの辺りにしましょうか」

「分かりました。多分次は、ナオさんが来てくれると思いますよ」

「引っ張ってでも連れてきますよ……では今回はこの辺で」

「皆さん、また見て頂けると嬉しいです!」

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