死んだと思ったら転生させられて、おまけに獣人始めました
こちらの小説を開いて頂きありがとうございます。作者がもう一本書いている小説が行き詰まった時に書いている小説ですので、更新頻度は低めになります。
それでも更新しないという訳ではありませんので、よろしければお読み下さいませ。
俺の名前は『吉沢 直太』。東京都在住のサラリーマン27歳独身彼女募集中、よろしく。
紹介を済ませたのはいいんだが、俺はこれから人生という名のステージから降りなければならなくなりそうだ。その、1番嫌な方法で。
現在俺は一人の女の子を抱えるような状態で、しかもその俺達に大型トラックが突っ込んで来てるんだからさぁ大変。なんで俺も馴れない人助けなんかを出勤中にしようとしたんだろうなぁ。
ただ、女の子が一人で溜め息吐きながら横断歩道をぼんやり渡ろうとしてるのを見つけたんだよ。赤信号をな。それだけなのに、どうして俺は今車道に居るんだ?
引き戻すつもりだったんだ。でも、転けた。躓いたんだ、縁石に。その結果がこの様だよ。女の子は助けられるどころか、俺みたいな奴と心中する羽目になった。
ただのサラリーマンになって、詰まらないながらも平凡とした人生を暮らしてただけなのにこんな死に方をする事になるとは……短い人生だったなぁ。
いや、この子はもっと短いのか。見たところ、小学校高学年ってところか? こんな歳でこんな死に方する事も無いだろうに。なんでこうなるよ。
あぁ、もうぶつかる。絶対に痛いとか重傷じゃ済まないな、これは。葬式代ってどの位掛かるんだろうな?
ごめん母さん、親父。息子は……これから死にます。しかも馴れない人助けをしようとした事が裏目に出るっていう最悪の方法で。
あぁ、トラックのクラクションが聞こえる……さようなら、この世の全てよ……。
……あれ? 痛く……ない? え、どういう事なんだ?
「ハロハロー? そろそろ意識……っていうか微妙だけど、起きてる頃だから話しかけますよー?」
誰だ? 女の声がする。それに、なんだか妙に周りが静かだ。事故は……起きてないのか?
そっと目を開けると……なんだ、眩しい。何処か明かりの近くにでも居るのか?
「あ、目を覚ました。お目覚めは如何ですか? おっちょこちょいの轢死者さん」
「ん、ここ、は? ……!?」
本当に何処だここ!? なんか地面? は白い霧みたいなもので見えないし、周りに何もない! いや、正確には一人女は居るが!
白いドレスを身に纏った白い髪の女……年齢は二十歳くらいだな。いや、そんな事は今どうでもいいんだよ。なんなんだここは?
「うーん、まだ自分がどうなってるかよく分かってないみたいですね」
「どうって……そもそもここは何処なんだ!? トラックは? あの女の子は!?」
「あー、あなたが助けようとした子なら、隣に居ますよ」
「! 本当だ……なら俺達は、助かったのか?」
「いえ、バッチリ死亡してます。だからここに居るんです」
はい? いやえっと、普通に喋れるし一応動けるぞ? とりあえず立ち上って……!?
な、なんだこれ!? 手と足が……透けてる!?
「な、透ける!? どうなってるんだ俺の体!?」
「正確には、あなたは今霊体です。魂って奴ですね。それをここ、神界に呼び寄せて目を覚まさせました」
「魂って、まさか!?」
「だから、あなたはトラックとの接触事故で三分前にお亡くなりになってます。ま、元の世界ではですけどね」
し、死んだ? 俺が? いやでも、あんなトラックに轢かれて無事な訳は無いよな。
いやでも待て、もしそうだとしてこの状況は一体なんなんだ? 神界? 意味が分からないぞ。
「あ、ついでだからあなたの元の姿がどうなってるか見ます? はい」
「ん? !!?」
目の前に広がる凄惨な光景に思わず目を見開いた。見覚えのあるスーツ、だった物を身に纏った表現に困る物体Xになった物を見せられればそうなりもするだろう。
ま、間違いない、あれは……俺だ。正確には、俺だったものだ。じ、じゃあ本当に俺は?
「これで分かりましたか? あなたは死に、今は魂のみの存在なのです。あ、放っておいたらそのまま消滅します」
「消滅!? いや、そもそもどうして俺はこんなところに居るんだ!?」
「まぁその、なんていうか……あ、彼女も起きたようですね」
話をすり替えられた。歯切れの悪さからして、何かあるんだろうな。そもそもこの女はなんなんだ?
っと、でも女の子が起きたのは本当だったようだ。俺の横で目を擦りながら体を起こしてる。
「……あれ? ここ……どこ?」
「お目覚めですね、勇者となる定めを受けし者よ」
「勇……者? 私が?」
「えぇ。あなたは私が定めし勇者。ある世界を救う為に生まれ……」
「待て待て、何かは知らないが俺達が居たところにそんなファンタジーな要素が必要な出来事なんて一つも起きてなかったぞ?」
「ちょ、私が折角それっぽく語ろうとしてるんだから話の腰を折らないでください! ご静聴願います!」
「ぬ……」
そう言われると、邪魔をするのも忍びない気もするし、仕方ないからとりあえず話だけでも聞くか。
「こほん、ある世界に生まれる……筈だったのですが、手違いから別世界に生まれてしまったのです」
「なんだそれ……」
「はい、ボソッと言わない! そこで、別世界で物事の分別が分かるまで成長し、改めて転生という形でその世界に生まれてもらうという事が、我々神々の間で取り決められました」
「転、生……って?」
「んー、俺もよく分からないが、状況からして一度死んで、その別の世界とやらで生まれ変わらせるって事、なんだろうな」
「え……じゃあ私、死んじゃった、の?」
うわぁ、露骨にショック受けた顔してるぞこの子。どうするんだよ、この状況。
今にも泣き出しそうだ。ほら、早くフォロー入れるなら入れろ、えっと……白髪女。
「ま、待って下さい! 亡くなったと言っても、あなたは別世界で新たな生を受けられますから!」
「いやそういう事じゃないだろ。そもそもだ、両親や仲の良かった友達ともう会えないって言われてるのと同じなんだぞ? それが辛くない訳ないだろ」
「お、父さん、お母、さん……っう、うあぁぁぁぁぁ!」
「ノォー! あ、あの、うぅー、どうするんですかこの状況を! あなたの所為ですよ!」
「なんでだよ! っていうか、状況的には俺も同じなんですけど!? 泣きたいのは俺もだっての!」
「ぐぬぬ……だから嫌だったんですよ、ある程度育ってから転生させるなんて。こうなるって分かってたんだし」
はぁー、なんだよこれ。女はイジけるし、この子は泣きっ放しだし。俺か? 俺が悪いのか?
とにかく話が出来る状況に戻さなくてわ。頑張れ、頑張れ俺! 挫けるな!
「とにかくお前はいじけてないで立ち直れ! それでえっと、君の名前は?」
「ぐすっ、名前? ……坂崎、坂崎美代」
「オーケー、美代ちゃんね。俺は吉沢直太。よろしく」
「吉沢さん……吉沢さんも、死んじゃったの?」
「どうやら、ね。っていうか、多分一緒に死んじゃったんだと思うんだけど、俺の声聞いてないかな?」
「……あ、『危ない!』って言ってくれたお兄さん」
おぉ、覚えててくれたか。そしておじさんじゃなくお兄さんって言った事は俺的にかなり好印象である。地味に嬉しい。
さて、こっちはとりあえず泣き止ませたぞ。仕事しろ白髪女め。
「とにかくまずは、この人の話を聞いてみよう。な?」
「う、うん……」
「良い子だ。おい、こっちはなんとかしたぞ。話を続けろぃ」
「どーせ私は新米の成り立て神ですよー。天使上がりだから肩身も狭くて、それでも必死に神様やってるんですよーだ」
「いい加減立ち直らんかい! 話が進まんだろうが!」
「え? あ、これは失礼。えっと、何処まで話しましたっけ?」
「覚えてろよ。この子が転生してどこぞの世界で勇者になるとかいう話だ」
うぉ、急にシャキっとしたかと思ったら咳払いなんかしてる。続きを話す気にはなったようだな。
「そう、あなたは勇者となるべくして生まれたのです。その運命を、これからあなたに返しましょう」
「普通の人としての運命を奪っておいてよく言うな」
「でも私、そんな怖そうな事、ヤダ……」
「むぬ、確かにあなた一人ではとても危険で命を落としかねない。ですから、勇者の付き人をあなたに授けましょう」
「付き人、ねぇ……」
……ちょっと待て、そこで何故俺を見る? 俺か? まさかその付き人って俺なのか!?
冗談じゃないぞ! いきなり死んでよくも分からない状況に陥って挙句に子守をしろと!? 納得出来る奴が居たら俺をさせてくれ!
「巫山戯るな! そんな事をさせる為に俺は死んだって言うのか!?」
「いやそれがですね、あなたの死は手違いなんですよ」
「て、手違い?」
「本来ならあの事故で亡くなるのはその子だけだったのですが、その運命に何故かあなたが引き寄せられてしまったんですよ。あなたの運命プランとしては、95歳くらいまで生きて、それなりに裕福になるよう組まれた運命があったんですがね」
「……戻せー! 俺を元の世界に!」
「いや無理なんですよー。戻すにしても魂の宿ってない肉体がその世界に無いですしぃ、死亡確定っていう事実があるのにあなたをあの世界に戻したら色々な歪みが出来ちゃいますから」
な、何てこったい……じゃあ俺、死に損じゃないですか……お、俺の人生って。
「だから、特例としてその子と共に救う予定になってる世界、ミナスティアへ転生させてあげようって事になったんですよ。もちろんそっちでは肉体もありますしぃ、普通に生活する事も可能ですよ」
「なんだよそれ、理不尽にも程があるだろ」
「いやホント、運命担当の天使にはきつーくお仕置きしておくんで、どうかそれで納得して頂けませんか? あ、ほら、その子だっていきなり見知らぬ世界に放り出されるより、元の世界を知ってるあなたが居てくれた方が心強いでしょ?」
「俺達、面識ゼロなんですけど」
「いやほら、こうして一緒に亡くなってここに居ますし、犬に噛まれたと思って!」
「犬に噛まれた程度でこんな事になって堪るか!」
が、そんな事を言ってもどうする事も出来ないのもまた事実……こうやってるとどうやら消滅とやらをしてしまうようだし、別の世界とは言え生き返れるんならそうするしか無いのか。
背に腹は変えられない、か。とんでもなく理不尽だが、拒否権はほぼゼロなんだろうな、これ。
「……今の俺の記憶とかはどうなるんだ?」
「お望みなら引き継ぐ事も可能ですよ。じゃあ……」
「行くよ、行けばいいんだろ? っていうか、どっちみちそうしないと俺って存在は消滅するんだろ」
「! わ、私もそうしないと、消えちゃうの?」
「まぁその……はい、すいません、ごめんなさい、その通りです」
美代ちゃんは俯いちゃったし、俺は溜め息しか出てこない。選択肢は一択、ならそれを選ぶしかないじゃないか。
「美代ちゃん、多分学校とかで知らない人について行っちゃいけないって教わってるだろうけど、事情が事情だから、俺でも我慢してね?」
「う、うん……吉沢さんと一緒に、その世界ってところに行くんだよね?」
「そうするしかないようだしね。分かった、引き受けるよ」
「勇者なんて、私成れるのかな?」
「それはもちろん! 元々そう生まれるようになってますから! あ、あなたについても多少おまけをして転生して頂けますんでご安心を!」
っていうか、こいつ話の流れからして神様って奴なんだよな? こんなに軽いノリで大丈夫なのか? 心配になってきたぞ。
でももうそうするしか無し。スパッとやってもらうとするか。
「で、その転生とやらはどうやるんだ? これからされるのか?」
「はいはい、その辺はこちらにお任せ下さい。あ、転生後の体についての要望ってあります?」
「わ、私は……このままがいい」
「俺は別に。強いて言えば、出来れば19ぐらいに若返ってると嬉しいくらいか?」
「ほむほむ、なるべく要望に答えられるようには致しましょう! あ、向こうの服なんかはサービスで着た状態で転生させますのでご安心を!」
いや、そんな微妙なサービスは……あってもいいが、そもそもミナスティアとかいうそこの情報が欲しいんだがな。今聞くか。
「じゃあ張り切って参りましょう! 目指せ、魔王を倒して世界平和!」
「は? いや待て!」
「ではではー……ミナスティアを頼みますよ、お二人とも!」
「待て! 話を聞けぇぇぇぇぇ!」
「うわわ、ひゃぁぁぁ!」
「グッドラーック♪」
巫山戯たサムズアップを見ながら、俺の視界は真っ白になった。……よし、もし今度あいつに会う機会があるとしたら、とりあえずラリアットでも喰らわせてやろうそうしよう。
視界が更に白くなって、意識が遠くなっていく……。本当に、転生なんて出来る、のか……?
うっ……真っ暗だ……ここは、何処だ?
風が吹いてる……草や地面の感触もある。今俺は、地面に仰向けで倒れてるみたいだな。
! 風を感じて、匂いが分かる! つまり俺……生きてる!?
「うぉぉぉ!?」
体を起こして目を開く。やった、声も出せるし周りも見えるぞ! いや、それはあの妙な場所でもそうだったか。
……で、ここは……何処だ? 草原? 天気は晴れてるし、過ごし易い気候ではあるみたいだな。
「ここが、ミナスティアとかいう場所、なのか? ……あ」
俺の隣に見覚えのある顔があった。美代ちゃん、だな。服装はなんか違うが、見た限りではそう変わらないみたいだ。
黒髪の長髪で、顔立ちなんかは将来確実に美人になるであろう整ってる。死ななきゃ、将来モデルとかになってただろうな、これだけ美形だと。
とりあえず美代ちゃんを起こそう。そうじゃないと如何ともし難い。
「美代ちゃん、美代ちゃん! 大丈夫かい?」
「ぅん……吉沢、さん?」
「あぁ。どうやら、さっきまでと違う場所には居るみたいだ。体、起こせる?」
「はい……ん? きゃぁぁ!?」
え? なんぞ? 美代ちゃんが体を起こして目を開けた途端、悲鳴をあげたぞ?
「い、犬! 狼! 喋ったぁ!」
「へ? 犬!? 狼!? ……いや、そんなの近くに居ないみたいだけど」
「え? その声って……吉沢、さん?」
「そう、だけど……え? ちょっと待って、俺を見てそう言った?」
美代ちゃんがコクリと頷く。よし、一つ深呼吸をしよう。吸ってー、吐いてー……。よし。
意を決して、自分の顔に触れてみた。……なにこれ、なんで顔がこんなに毛深いの? それに、なんか妙に口元と鼻先が長い。長いっていうかマズルだこれ。犬とかそういう動物の。
って言うかもう手、手が毛深い。毛深いって言うかこれ毛皮だし。……毛皮!?
「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!」
「吉沢さん……シベリアンハスキーみたい……」
「犬!? 俺、犬になってる!?」
「で、でも、手とか足は人みたい……あ、でも尻尾があるよ」
そ、そうだ、思えば体を動かすイメージに変わりはない。うわでも本当に尻尾まである。これは一体どういう事なんだ?
「な、なん、なんでこんな事に?」
『お答えしましょう!』
「何!? 声!?」
『こっちでーすこっちー』
声の出処を美代ちゃんと探すと、その声はまた俺達の近くの草の影からだった。
そこにはポツンと、赤い水晶玉のような物が落ちてる。大きさは、野球ボールくらいだな。
「これは?」
『あー、出来れば拾って頂きたいですぅ。よく周りが見えないんで』
「その声は……さっきの女か?」
『そうでーす。清く正しく美しく! 女神イリアンと申します!』
「女神、様?」
『オフコース。どうやら転生は無事出来たようですね。そこがあなた達が救う世界、ミナスティアです!』
ま、マジで神様だったのか……で、ここがそのミナスティアとかいう世界なのは間違いないみたいだな。それは分かった。
が、現在の俺の問題はそこじゃない。なんだこの体は!? なんで犬人間なの俺!?
「それは分かった。色々聞く前にとりあえず教えてくれ」
『はい? なんでしょう?』
「俺の体はどうなってるんだ! 人間じゃないだろこれ!」
『あ、それはですね、ミナスティアに居る獣人族の一つでウルフェンと言う狼の獣人族の体です。狼って言っても、モデルはシベリアンハスキーですけど。可愛いでしょ♪』
「確かに吉沢さん、ちょっと可愛い……」
「あぁ、ありがとう。じゃなくて! なんで美代ちゃんは普通に人で俺は獣人なんだよ!」
『いやだって、あなたは年齢以外の要望無かったみたいですし? どーせ異世界に行くならそれっぽい雰囲気がするものがいいかなーって』
そんな理由でかよ! 適当過ぎるだろうが!
『でもでも、そのウルフェンは普通の人間よりも身体能力はかなり高いですし、これからの冒険では人よりもかなり楽だと思いますよ? あ、肉体年齢は19じゃちょっと中途半端なんで、18にしてます。1番パワフルかつワイルドな時期ですよー』
「ワイルドって……ん? 冒険?」
『えぇ。あなた達には、この世界を支配しかけてる者、魔王と呼ばれているグラファスという者を打ち倒して頂きたいんです』
「はい!? な、なんでそんな」
「ゲームのお話みたい……」
『そうですね。あなた達の世界で言うファンタジーな世界がここだと思って頂ければ分かり易いですね。剣も魔法もありの大冒険、よくないですか?』
うん、非常に帰らせて頂きたい話だ。なんだそれ、どうしてそんなゲームの中みたいな話になってるんだ!
いやもう俺の姿がこれな時点で察するべきなんだろうか。どっちみち、この感覚もこの毛皮の感じもリアルなものだ。間違い無く、俺はこの姿でこの場所で生きてる。残念ながら事実だ。
『まぁでも、こうして水晶で私もサポートしますからご安心を。と言っても、大した事は出来ませんけどね』
「頼りになるんだかならないんだかよく分からない事を……で、これから俺達はどうすればいいんだ?」
『えーっと、とりあえず近くに神の声が聞こえる一族が暮らす村があるんで、そこに行って下さい。そこで神託ってこじつけてあなた方に力を貸してくれるよう言ってみますんで」
「大丈夫なのか、それ?」
「しんたくって、何?」
『あーまぁ、とりあえず向かって下さい。ミナスティアについてはそこで聞いてもらった方が多分分かり易いと思うんで!』
あ、水晶の色が薄くなった。というか、光ってたのが暗くなったみたいだな。全部丸投げしやがったよ。
っと? なんか水晶から一筋の光が。これを追っていけば村があるって事か? 一応ガイドはしてくれるんだな。
「吉沢さん、しんたくって、何?」
「あーえっと、神様からのお告げって言えばいいのかな? あれが神様って言っていいものなのか分からないけど」
「じゃあ、あの女神様が私達の力になってくれるのかな?」
「さ、さぁ? そもそもほぼ何も知らない状態でここに居るんだし……とりあえず行ってみようか」
「うん。えっと、吉沢さん、よろしくお願いします」
「よく言えました。こちらこそよろしくね、美代ちゃん」
「はい!」
あぁ、とりあえず良い子そうでよかった。これで生意気だったり泣き虫だったりしたら相当大変な事になってただろうなぁ。
じゃあ、歩きだそう。あ、靴も革の靴か。デザインは大分違うが、足を包んでくれてるんだから気にしなくてもいいだろうな。
「美代ちゃんは、動き難かったりはしない? 靴は大丈夫?」
「大丈夫です。スニーカーじゃないから、ちょっと馴れないけど」
「んー、ここにスニーカーがあるか分からないし、しばらくはそれで我慢かな。足痛くなったりしたら言うんだよ? おんぶくらいならしてあげるから」
「ありがとうございます。でも、なるべく自分で歩きます」
良い子だねぇ、こんな見知らぬ27にもなるおっさんと急に二人でこんなところに放り出されたのに。あ、肉体年齢は18だっけ? いやでも丸っきり違うものになってるからその辺はよく分からないな。
とにかく村とやらに行こう。神託を受ける村、ねぇ? 本当にそんなのあるのか?
半信半疑ながら、足を動かしていく。まだやっぱり毛皮に覆われた体っていうのに違和感があるな、毛皮の上に服を着てるからなんかゴワゴワしてる感じがする。
と言っても脱いでウロウロしてたらそれこそ違和感があるし、慣れるしかないか。
因みに俺が着てるのは茶色の薄いベストに白いシャツと、ポケットのあるチノパンみたいなクリーム色のズボンと靴だな。まぁ、動き易い服装と言えばそうなるか。
美代ちゃんは風変わりな民族衣装のような模様の入ったワンピースだ。流石に中に何か着てるかなんか聞けないし、俺はロリコンでも変態でもないので悪しからず。後は強いて言えば靴下も履いてるくらいだな。
靴以外は皆布製だ。って事は、布を生み出す技術は最低でもあるって事だよな? この分だと、コンクリートとかそういった物は流石に無いだろうけどなぁ。
とにかく大自然だ。見渡して見えるのは草原、森、空、雲。こんなところだろう。人工物なんて一つたりとも見えない。
「なんだか、ピクニックしてるみたい。良い天気……」
「ピクニックか。確かに東京じゃこんな場所無いし、気分は良いかな」
「……本当に、ここって東京でも何処でもない、違うところなんですよね」
「寧ろこの光景で、ここは東京ですって言われても信じられないかな」
「確かに……もう、帰れないのかな……」
……やっぱりきついよな、いきなり家族とは別れも言えずに離れ離れにされて、こんな何もないところに放り出されたら。正直、俺も勘弁してくれって感じだ。
第一、なんで俺達が死ななきゃならなくなったんだ? この子が云々言ってたが、生きてた者を殺してまでこんな事をしていいとは到底思えない。理不尽過ぎる。
「……あー! 考えれば考えるだけ理不尽だ! なんで俺達はこんなところに来なくちゃならなくなったんだ! 普通の生活を返せ! 俺達を東京に戻せー!」
「よ、吉沢さん?」
「文句くらい言わないと、しんどくなるでしょ? 俺もそう思ってるんだし、美代ちゃんも遠慮なんかしないで大声で言っちゃいな。聞いてるのは、俺くらいだし」
「う、うん……じゃあ……」
そこから俺達は、言えるだけの文句を言いながら歩いた。傍から見れば馬鹿みたいだって言われるかもしれないが、こうでもしないと気持ちが落ち着かないんだ。
帰りたい、どうして死ななきゃならなかった、皆に会いたい……そんな事を大声で、周りなんか気にせずに散々喚く。胸の中のモヤモヤしたものが無くなるように。
「チクショー、俺なんか結婚どころかまともに付き合った事も無いんだぞー! なんでこんな犬畜生にされてんだー!」
「今度佳奈ちゃんと遊ぶって約束してたのに! お母さんと一緒にお菓子作ったり、お父さんと動物園行くって約束だってしてたのにー!」
「大体勇者の付き人ってなんだよ! 折角なら俺も勇者にしやがれ畜生がー!」
「いきなり勇者なんて言われても分かんない、分かんないよー!」
「……はぁ、言えば言う程、文句しか思いつかないな」
「うん……でも、吉沢さんも同じなんだよね。それだけは、ちょっと良かった」
そうだよな……これで本当に一人っきりでこんな事になってたら、まず耐えられないだろ。隣に同じ事情でここに居る誰かが居てくれるのは、確かに励みになる。
「とにかく、二人で頑張ろう。同じ経緯でここに居る事だし」
「はい! ……あ、吉沢さん、あそこ」
ん? 美代ちゃんが指差した先……あれは、村か? 確かに建物っぽい物があるし、煙突らしきものから煙が上がってるのも分かる。
水晶玉の光もそっちを指してるし、宛なんか無いんだ。一先ずあそこへ行こう。
にしても、これからこの犬の姿で生きていかなきゃならないんだよなぁ……あぁ、不安だ、非常に非常に不安だ……。
「えーっと、この後書き枠ではこの作品の世界観、人物紹介を行っていく予定です。次話辺りから始めていく予定ですので、期待はせずにお待ち下さい。……いや、期待させないのかよ」
「だって、私ことイリアンと、直太さんで進めていくコーナーですからね。ぐっだぐだになるのは目に見えてますから」
「……もうちょっと頑張ろうとする姿勢は無いのか」
「ありません! 基本私はフリーダム路線で行きます! 本編でそんなに出番ありませんし、ここでははっちゃけますよー!」
「いや、うん、程々にしてくれ」