お役御免
文才なくても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:隕石
「古来から、鉄は武器だったの」
博物館の静寂を邪魔しないくらいの静かな声で、彼女は語り始めた。
「鉄を加工する能力こそが数に次いで軍事力の根幹を担ってたの」
鉄の鎧と鉄の剣から鉄の矢尻へ、時代をさかのぼるにつれて加工できる鉄の量が減っていく。
時代を逆向きで歩いていくかのように、悠然と彼女は歩きつつ目的の場所に近づいた。
「加工を知らなかった時代では、塊として振ってきた隕鉄をそのまま利用してまで」
そういって彼女が足を止めたのは、最古とされる鉄の塊。その由来は、宇宙。
「これ以前にも鉄器はあったんでしょうけれど……」
そう言いつつ、ついとガラスの上で指を滑らせて、
「ありがとうと宇宙に祈ったのはこの時のことなんでしょうね」
そう寂しげに言った。
「感謝が駄目なのかい?」
「鉄が核になる隕石は、地球と同じ様な惑星なのよ」
話が飛んだと思ったが、博物好きの彼女を思えば得心がいった。
「億の単位で先に生まれた地球の兄弟が、最後に地球に逢いに来たのよ?」
物品一つ一つに意味とドラマを見い出す彼女なら、そう思っても不思議じゃない。
「なのに、逢いに来てくれてありがとうとは言わないのよ。神様からのものだと思ってすら、殺し合いの道具としての感謝ばかりで」
「今は、違うんだろう?」
そう聞くと彼女は痛ましそうな表情をやや緩めて、
「そうね」
とガラスケースを撫でた。
「この隕石も本望だろうな。君にそうして優しくされて」
「そうだといいけど」
なかなか俯いた顔を上げない彼女に少し苛立ちを覚えて、皮肉交じりの声音で
「そうに決まってる。古い物好きの君のような人には滅多に逢えるもんじゃないんだし」
と言ってしまった。
だから、
「違うわよ」
と彼女が強い声で窘めてきたときは、それを叱られたのばかり思った。
けれど、彼女は相変わらず、デート中なのに隕石のほうばかりを見て、
「今だから好きなの」
と告白した。
こちらの方などは見ずに、視線にも頓着せずに、それでも思わず見惚れてしまう静やかな挙措を魅せつつ、
「今だから、もう人殺しの道具としての感謝から開放されているのよ」
そう、微笑んだ。
これ、何?
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424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/26(月) 00:04:00.34 ID:UcoWQZ2D0
お題下さいな
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/26(月) 06:27:40.88 ID:S9f2HnsAO
>>424
隕石
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/26(月) 08:50:27.53 ID:UcoWQZ2D0
>>425
了解しました