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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
オーバーロードナイトと行商人連合
98/112

98話

「予想外でした」

 ファクトリー中央の広場に集合した武器屋旅団の面々に先生が苦々しく言った。


 武器屋旅団が回収したレーザー発振器はすぐ様に高出力のレーザー砲に改造され、ファクトリー中枢部への扉を撃ち破るはずだったのである。


「まさかバッテリーが駄目だったとは……」


 しかし、ファクトリーや要塞に保管されていたバッテリーでは出力が足りずにレーザー砲は起動すらしなかったのだ。

 それどころか、急ごしらえで作ったために回線のいくつかがショートしてしまい、修理に時間を取られることになってしまったのである。


「バッテリーはオーバーロードナイトの3番隊がブルタンクを動かしている物を回収してくれるみたいですが、修理には時間を取られることになりますね」


 先生は苦々しい顔を浮かべて天を仰ぐように空を見上げた。


「で、その時間は?」

 アキラが両腕を組みながら尋ねる。

 予定なら改造されたレーザー砲の試射を行っている時間である。


「本来なら半月は欲しいですが、5日貰うことになりました」

 嘆息しながら先生が答えた。


「その間に中に篭った連合が戦力を整えてなければ良いけどな」

 そう答えたのはケンだ。冷静な声で言う。


「まぁ、俺達は傭兵じゃないから、今回のオーバーロードナイトと行商人連合との戦闘には参加しないけどな」

 そのアキラの言葉にケンの動きが一瞬止まった。

「ここまで来てそれは無いんじゃないですか?」

 オーバーロードナイトに助けられておいて、ファクトリー内部の制圧を手伝わないのは如何なものかとケンは思う。


「単純にファクトリー内部へ行くだけなら手伝うが、中にいるのは行商人連合で同じ人間だ。人間同士の戦いに介入しないのが武器屋旅団だからな」

 子供を諭すように落ち着いた口調でアキラが言う。

 それをケンは不満に思い、反論しようと口を開こうとするが、その内容を喉の奥に押し留めて黙ることにした。


 アキラの言う通りに武器屋旅団は人間同士の戦いに介入しないというスタンスはケンも知っていたというのに加え、そこまでの余力が旅団に無いことを思い出したのだ。


 仲間が殺されたというのに、その仇である行商人連合と戦わないというのは淡白では無いかとも思うが、仇討ちのために旅団を全滅させる可能性の中に置く訳にもいかないので仕方無いかと自分の感情を納得させる。


「なら俺は別行動を取らせてもらいますよ」

 それならばとケンは口を開く。

 アキラはそら来たと言わんばかりの顔でケンに視線を向けた。


「オーバーロードナイトに付いていくのか?」

「そうです。ファクトリーの中枢部とやらに興味がありますからね」


 答えるケンに対してアキラはどうしたものかと自身の思い浮かんだ選択肢の選別を開始する。

 しかし、結局はどの選択肢を選んでも答えは1つしか無かった。


「何を言っても止まるつもりは無いんだろう?」

 アキラは嘆息して尋ねた。

「申し訳無いですが」

 言葉ではそう言っているが、ケンの顔は申し訳無いと思っている表情では無い。


「やれやれ……、それなら好きにしてくれ」

 呆れ口調でアキラが言った。

 ただ、本音としてはアキラ本人もオーバーロードナイトと共にファクトリー中枢部へ向かいたいと思っているのだ。


 しかし、団長であるユウコは既に動ける状態に無く、副団長である自分が旅団の指揮を執らなければならない。

 団員の数も減り、物資もオーバーロードナイトから支援を受けるという形となった今、これ以上旅団を危険に晒す訳にはいかないのだ。


 もっとも、オーバーロードナイトから連合との戦闘に参加しろと言われれば、団長のユウコが世話になっている以上は手伝わなければならないが、オーバーロードナイトの総長である船前と副長の中村は、そういうことをする様な人物では無いだろうとアキラは思う。


「私も付いていく」

 そしてケンが行くということは、当然ながらユリもそれに付いていく。

「お好きに」

 それを予想していたアキラは短く答えた。


「私も付いていきますよ。どの道、あのレーザー砲を使うなら私の技術は必要ですし、マンハンターの施設にも興味がありますからね」

「先生はそうだろうな。頼むよ」


 扉を開ける高出力レーザー砲は先生とオーバーロードナイトの技術班の指示で扱う事になっている。

 これは当然だ。


「なら、俺も付いていこうかなぁ……?」

 加村である。

 それはアキラにとって意外では無かった。加村はケンからお世辞にも良く思われてはいなかったが、加村自身はケンのことを良く思っていたからである。


「私は残るわ。団長に付いている必要があるでしょうし」

 それは泉である。

 年長者として、彼女は妊婦であるユウコの世話をしているのだ。

「助かります」

 アキラが短い言葉で謝意を示す。


「私も残りますよ。彼らが制圧に成功したなら私達にも中枢部を見せてくれるでしょうし、もし駄目なら私達が手を貸していても同じ事だろうし」


 泉に続くようにエミリが言った。その言い草には、やや毒っ気が含まれていたが、実際その通りであろう。


「俺は行くぞ。仲間の仇は討ちたい」

「私は遠慮します。そこまで旅団に余裕は無いでしょ?」


 残った団員達もそれぞれ自分達の意思を言葉に出し始める。

 結局、ケン達を含めて武器屋旅団からは7人がオーバーロードナイトと共にファクトリー中枢部へ向かう事になった。


「だったら、加村がこいつらの指揮を執れ」

「俺ですか?」

「そうだ。前にもやったことがあるだろう?」


 アキラは以前、マンハンターとの戦いで武器屋旅団を3つの集団に分けて戦ったことがある。

 その時に1つの部隊を加村に任せたことがあったことを思い出してそう言ったのだ。


「そういうのはガラじゃないんですがねぇ……」

 嘆息交じりに加村は言って、周りの団員達に視線を向けた。

「俺はかまわんぞ」

「オーバーロードナイトの隊長に率いられるよりかはマシだ」

 団員達は特に構わないようだ。


 ここで、指揮官が不在ならオーバーロードナイトの1部隊として扱われるだろう。

 しかし、それは武器屋旅団がオーバーロードナイトよりと格下という位置になるのと同義であり、団員達はそのような事態は受け入れ難かった。


「君はどうかなぁ……?」

 ケンなら自分の指揮下に入るのを良しとしないだろうと思い、彼に尋ねてみる。

「……良いんじゃないか?」

 加村の期待を裏切り、ケンは加村が指揮を執ることに文句を言わなかった。


 元々、ケンは加村の性格や態度といった人柄嫌っているのであり、彼の能力までも否定している訳では無かったので、ケンからすれば当然の反応である。


「やるしかないって事かなぁ……」

 流石の加村も顔を引きつらせ、諦めてそれを引き受けることになった。




/*/




 それから数時間後である。

 アキラは要塞内部の狭い部屋で書類と雑貨が散らばる机を挟んで、ある人物と対峙していた。

 オーバーロードナイトの総長、船前である。


「人間同士の戦闘に介入しないんじゃなかったのか?」

 船前は特徴的な丸い目を更に丸くして目の前にいる人物、つまりは武器屋旅団の副団長である高田アキラに尋ねた。


「知的好奇心と血の気が多い連中でして……」

 問題児を抱える教師が浮かべるような苦笑でアキラが答える。

 彼はオーバーロードナイトの総長である船前に武器屋旅団の一部が協力することを告げに来たのだ。


「お互いに個性が強い部下を持つと苦労をするものだ」

 アキラの心情を察した船前も苦笑を浮べると座っている椅子の背もたれに身体の体重を預けた。


「まぁ、俺個人としてもここの行商人連合は気になりますね。なにせ代表の安野優なる奴とは一度も会ったことが無いんですから……。奴が男が女かも分かりませんよ」


 アキラが言った。

 武器屋旅団が行商人連合によってファクトリーに囚われているいた時、連合の意思を伝えたのは杏野優なる人物の代理を名乗る男だったのだ。

 

「以前の戦闘で顔が見えなかったから、彼は最初からファクトリーの地下に篭っていたんだろうな」

「そうなりますね」


 何故、彼は地下に篭ったのだろう。

 2人はお互いに共通の疑問を思い浮かべた。


「……何にせよ、戦力が増えるのは嬉しい限りだよ。オーバーロードナイトは半数以上が戦えない状態で、今度は訓練生や街で志願徴用したのも加えなければならないからね」

「そりゃあまた……」

「出来れば、戦闘にならずに話し合いで解決したいね。その方が楽だ」


 話し合いで解決した方が楽という言葉にアキラは心から同意した。

 そうなれば怪我人も死人も出ないで済むし、物資の浪費も防げる。

 お互いの意見をぶつけるのに暴力を使う事ほど無駄にエネルギーを浪費する事態は無いだろう。


 アキラはその意思をお互いに確認するように表情を浮かべ、そこそこに挨拶を済ませてからその場を立ち去った。




/*/




 船前への報告の後、アキラは団員達と食事を済ませるとユウコの待つ部屋に戻り、事の次第を説明した。


「アンタの言う通り、子供に悪影響を与える団員だらけね」

 憮然と苦笑を交えたような表情でユウコは言った。

「だから言ったろう?」

 アキラも似たような表情で応じる。


「何にせよ、マンハンターの工場とやらを探索するという目的でこんな所まで来たんだから、今更危険だから帰ろうという訳にもいかないわよね」

「同じ、人間同士の戦いになってもか?」

「それこそ今更よ。武器屋旅団の団員のほとんどが昔は何をやっていたか分かったものじゃ無いわ。そういうのが集まったのが、私達の武器屋旅団じゃない」

「まぁな……」


 武器屋旅団で人を殺した事が無い者は白河ユリくらいのものだろう。

 人間同士の戦闘は行わないと言っている当人達のアキラとユウコでさえ、これまでに何人もの人間を殺してきたのだ。


 綺麗事だけで生きていける程、このギジの世界は甘くないのだ。

 だからといって、それを捨ててれば本能だけで生きる動物と変わらなくなってしまう。

 自分達は人間としてこの世界を生きていきたいのだ。

 アキラとユウコはそうした想いから武器屋旅団を立ち上げたのである。


「ファクトリーでの戦いが終われば、マンハンターの技術が手に入るかもしれない。それで世の中が良くなればいいが……」

 呟きながらアキラは埒も無いことだと思う。

 技術を手に入れたとして、それを解析出来るのか、そもそも人間にその技術が使いこなせるかすらも分からないのだ。


「そうね……」

 膨らみ始めた自分の腹を撫でながらユウコも呟く。

 彼女は戦いの終わりよりも、団員達が全員無事で戻ってくることを望んでいた。

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