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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
オーバーロードナイトと行商人連合
91/112

91話

 作戦決行日の午前10時。

 中継地点を通り、ファクトリーへの進行ルートである橋の前でオーバーロードナイトの1番隊、2番隊、7番隊に加え、行商人の支援部隊が待機していた。

 それぞれ、武器を持ち、マンハンターの装甲を利用して作られたグレーの鎧、つまりは装甲服を着ている。


 その中でも、副長である中村は装甲服の上に黒いジャンパーを羽織り、左腰にレーザーライフルを装備していた。騎士というには無骨な出で立ちというのがオーバーロードナイトの間での評価である。


 その場に集まった人数はオーバーロードナイトと、行商人を合わせて121人。更に中継地点には予備戦力として4番隊の1班から3班の18人が待機している。


 彼らのファクトリー進行ルートである橋は鉄筋のフレームで支えられ、乾いてひび割れたグレーのアスファルトの道、その要所にはバリケードが作られ、レーザーガトリングの銃口が侵入しようとする者達を威嚇していた。


「3番隊の通信はまだか?」

 副長である中村が、アマチュア無線を前にする隊員に尋ねた。


「いえ、応答ありません」

 隊員は上ずった声で答える。


「これは間に合わないと見るべきですね」

 1番隊の隊長である大野が面白そうに言う。

「だが、やられてはいまい」

 廃墟のブルタンク達は脅威だが、全滅するとは思っていない。高橋はそこまで無能では無いということを中村はよく知っている。


「仕方無いさ。本隊だけで先に仕掛けよう。……4番隊にこちらに来るように連絡してくれ」

 こうなることは予想済みだったのか、特に焦る様子も無く船前は淡々と指示を出す。


「なら1番隊はレーザーバズーカを準備しますよ」

 そう言った大野は少年のような笑みを見せる。彼は歳の割に若く見えるのが特徴だ。といっても、隊長の中では若い方ではあるが。


 大野の指示によりまずは1番隊が先行を始める。 

 そしてファクトリー侵攻作戦が開始された。

「撃て!」

「撃て!」

 最初の攻撃がオーバーロードナイト、連合とほぼ同時に始まる。


 行商人連合は3丁のレーザーガトリングで3方向から同時に弾幕を張った。

 それに対応したのはレーザーバズーカである。オーバーロードナイトはこの武器を4つ同時に使い左右に薙ぎ払わせることで、バリケードとガトリング、更に射手を焼き払った。


 行商人連合にとって、その破壊力は予想以上であり、一時的に混乱が起きる。


「今だ!」

 1番隊が突撃を開始する。懐に飛び込んで乱戦に持ち込みむことでレーザーガトリングの使用を阻止する事が目的だ。


 大野がレーザーライフルを持ち、文字通り敵陣に躍り出る。その後ろから1番隊の隊員達がそれぞれ得物を持って連合の者達を蹂躙していく。

 その動きは速く、圧力があった。

 連合はその圧力に飲み込まれ、あるいは圧し潰されていく。


 その様子を後方から双眼鏡で覗いていた船前が呟く。

「脆いな」

「流石は大野、と言ったところですか」

 船前の呟きに答えたのは中村だった。


「いや、あれはこちらのレーザーバズーカに驚いて、一時的に混乱しているだけさ。すぐに体制を立て直す」

「……みたいですね」


 連合を追い立てる1番隊の動きが止まる。

 敵が増援を送ってきたのだ。


「2番隊は前進して1番隊は後退。7番隊は1番隊のいるポイントを確保。……代表、今1番隊のいるポイントを拠点にしたい。物資の搬入と補給を頼めますか?」

 船前は通信機越しに1番隊と2番隊に指示を出すと、味方として着いてきた行商人の代表に依頼する。

 行商人の代表は頷いて、自分の指揮下の者達に指示を出し、その通りに各々が動き始めた。


 そして10分もする頃には橋の3分の1がオーバーロードナイトによって占拠され、そこを境目に行商人連合と銃撃戦が繰り広げられることになる。


「レーザーバズーカを使いますか?」

 前線に出て、戦況を確認している船前に大野が尋ねた。

「いや、あれはなるべく使いたく無い。バッテリーの消耗があまりにも多すぎる」

 顎をさすりながら船前が答えながら思案する。


 希望としては高橋が率いる別働隊が来ることだ。

 彼らがやってくれば本隊は無理して攻め入る必要は無くなるだろう。ここで、敵を釘付けしている間に高橋達がファクトリーに侵入して敵の後方に回り込めば、本隊と挟撃することが出来る。


 次にケンの話にあった武器屋旅団である。

 彼らがこの戦闘に乗じて何か騒ぎを起こしてくれれば、付け入る隙が出来るというものだ。


「ま、現状じゃどちらも無理か……」

 船前はやれやれと頭をかいた。


「中村、確かレーザーガトリングって持って来てたよな?」

 後ろで双眼鏡を覗いていた中村に尋ねる。


「ええ、要塞の防衛用のを4丁外してきました」

「2丁で良い。このポイントのなるべく端の左右に配置させてくれ」

「了解。……他は?」

「前線を後退。……潰走するように見せかけるようにな」

「押して駄目なら引いてみろ、……ですか」

「私が指揮官ならこんな手には乗らないけどね。如何せん、この橋という戦場は狭いから出来る事が限られる。……前にあったように連中が変な薬を使って知性が少なくなっていることを望むよ」

「敵が乗って来なかったら?」

「まぁ、その時は別働隊の到着を待つさ」


 1番隊と2番隊は指示を受けて、潰走に見せかけて後退を始めた。

 その後方ではレーザーガトリングの設置がされ、7番隊の中でもレーザー式のサブマシンガンこと“でんでん銃”を得意とする者が集められ、左右のガトリングに挟まれる位置に、配置される。


 結果的にこの作戦は成功にはならなかった。

 途中で連合は自分達が釣られていることに気付いた為に、後退するオーバーロードナイトに着いてきた連合の部隊はは少なく、ガトリングと“でんでん銃”が弾幕を張る前に、1番隊と2番隊の一転攻勢で少数が殲滅されたのみに終わる。


「さて、どうしたものかな?」

 再び1番隊と2番隊を前に出すか、それとも別働隊が来るまでの時間稼ぎを行うか。

 船前は自身の思考をフル回転させる。


「ん……、まだ3番隊から連絡は無いのか?」

 中村はアマチュア無線機の前で1番隊や3番隊の通信を受けてはメモをとっている通信士に尋ねた。

「いや、来ていませんよ」

 忙しく手を動かして通信士が答える。その直後に無線機から通信が入った。


《狙撃だ! こちら1番隊、狙撃を受けている! 敵の位置は不明!》


 中村はそれを聞いて眉を上げながら船前を見る。


「休ませてはくれないか……。1番隊と2番隊の足の速い隊員で部隊を編成して敵陣に突入。残りはその援護」


 船前は後退の指示をしなかった。

 後退すれば、その背中を敵が狙撃して被害が増えると考えたからである。それならば乱戦に持ち込んで狙い辛くすれば良い。

 その為には足の早い部隊を懐に飛び込ませて内部から掻き回し、残った部隊は外から敵を切り崩すのが良いだろうと思ったのだ。


 しかし、そんな作戦で上手くいくだろうかという不安は船前の心に鎮座する。

「中村」

 不安を少しでも軽くするように副長の名前を呼ぶ。


「突入部隊は君が指揮を執れ」

 その船前の言葉に中村は静かに笑みを浮かべた。

 彼の身体を高揚感が走る。


「ようやく出番ですな」

 中村は腰のホルスターから“でんでん銃”を抜いてみせた。

「頼むよ」

「頼まれましょう」

 船前は前線に向かって歩き出した中村を見送りつつ、4番隊の投入を決意した。




/*/




 同じ頃、ファクトリー内で騒いでいる連合の者達を見て、武器屋旅団の面々は確信する。

 つまりはこれはチャンスであるということだ。


 それぞれは武器を持ち、団長を助け出してここから脱出しようと考えたのである。

 武器といっても銃やグレネードなどの類では無く、何処から拾ってきた細長い鉄パイプだったり、その鉄パイプの先にナイフを取り付けた粗末な槍だったりと、レーザーライフルなどに比べるとあまりにも心許ない物であった。


 唯一の頼りはエミリがケンと接触した時に渡された2つのプラズマグレネードである。

 これだけはエミリが何とか監視の目を誤魔化して手元から離さなくて済んだのだ。


「一体、何があったのかなぁ?」

 忙しなく走り回る行商人連合の男に加村が素知らぬ顔で尋ねた。

「オーバーロードナイトがここに攻撃を仕掛けてきた」

 尋ねられた男は疎ましそうな表情で答える。


「俺達の出番は?」

「知らん。そんなことは聞いてない」

「なら聞いてくれないかなぁ?」

「知らん。それは俺の管轄外だ」


 そう言って走り去る男を見て加村は一度肩を竦めた。

 そして部屋の中にいる団員達に連合の様子を報告する。


「やれやれ、随分いい加減な連中だ」

 管轄外のことはしないという話に対して副団長である高田アキラは苦笑した。

 融通の効かないことに呆れ、その隙を付けば脱出も出来るだろうと思ったのだ。


 加村は「やりますか」と口の端を歪めて人の悪い笑みを浮かべて、懐からナイフを取り出した。

「ここで動かなければ、チャンスは無いだろうな……」

 そう言ったアキラはこれから加村が行うであろう事を思い、苦虫を噛み潰したような顔を見せる。


「ちょっと良いかなぁ?」

 部屋の外を走っていた男に加村が声をかけた。

「あ……?」

 男が立ち止まる。戦闘員らしくレーザーライフルと予備のバッテリーを抱えていた。


「実は、ウチの団員がこの間オーバーロードナイトと戦闘になった時に敵の作戦書みたいのを手に入れたらしいんだが……」

 当然、これは嘘である。加村は涼し気な顔でそれを言ってのけた。

「何? 見せてみろ」

 ややあって男が驚きの表情で答える。

「こっちだ」

 加村はそう言って旅団が集う部屋に男を招き入れて、後ろに立って部屋の扉を閉めた。


「一体誰がそれを持っているんだ?」

 男が加村に向き直って言う。

 警戒心も僅かにあるのかライフルを握っている。

「あれは嘘だ」

 次の瞬間、加村は左手で男の肩を掴むと右手に持ったナイフを喉元に突き立てていた。


「かはっ……!」

 男は空気の拔けるような声をあげつつライフルを加村に向けるが、ライフルを向けられた当人である加村は喉元に突き立てたナイフえぐり込むように押し込み、そのまま左に薙いだ。

 それに合わせて血を溢れさせながら男の体が倒れる。


「何も殺すことはないだろう?」

 一通りを見ていたアキラが言う。不快感を顕にしていた。


「人質をとって殺しをさせる奴らですよ?」

 男の死体からライフルとバッテリーを取り上げながら加村が答える。罪悪感など微塵も感じていないというような涼し気な顔であった。


「この男が仕掛けた訳でも無いだろう」

「そういうことをさせる側に付いた方が悪いんですよ」


 その冷酷な言い方にアキラは不快と恐ろしさの入り混じった思いを感じずにはいられなかった。それでも、この世界のであれば仕方の無いことだとも思う。そうでもなければ生き残ることが出来ないだ。

 このことは団長のユウコには黙っておこうと思う。

 武器屋旅団は極力人殺しをしないという方針を決めたのは彼女なのだ。


「返り血がついたな」

 加村は血で赤く染まった袖を見て呟いた。

「悪いけど、誰か適当な方法でもう2、3人ほどこの部屋に誘いこんでくれないか?」

 似たような方法で連合の者から武器を奪おうという算段である。流石に飛び道具が何も無いのは厳しい。


「分かった。俺がやろう」

 団員の1人が手を挙げた。


 しばらくして旅団の滞在する部屋の前を通りかかった男に声をかけてに誘い込むと、次は加村が男の頭を先程奪ったライフルで撃ち抜いた。

 これでライフルを2つ確保したことになる。


「おい、お前ら……」

 更に何かしらの指示を伝えに連合の男達が3人入ってくる。

 彼らは部屋の惨状を見て驚いて動きを止めた瞬間、頭を撃ち抜かれ、団員達の持つ原始的な武器で頭を碎かれて息の根を止められた。


「ま、これだけ集まれば上等じゃないかなぁ?」

「そうだな……」


 自ら攻撃を仕掛けて殺したという罪悪感の中でアキラは「恨むなよ」と倒れている死体に呟いた。

 そして、次はどう行動するべきかということに思考を向ける。


「とりあえず二手に別れるぞ。俺は何人か連れてユウコと泉さんを助けに向かう。加村も何人か連れて武器庫に向かって、俺達の武器を取り戻してくれ」

「了解」


 そう言った頃には既に罪悪感は消えていた。

 アキラもまた、これまでに何人もの人間を殺してきたのだ。


「プラズマグレネードはどうします?」

 そう尋ねたのはエミリである。

 二手に別れるならこの2つあるプラズマグレネードも分けるべきかと思ったのだ。


「いや、今は戦闘中だ。武器庫に武器を取りに行く奴は何人もいるだろうが、人質に気を回す奴はほとんどいないだろう。武器庫に行く側が2つとも持って行ってくれ」

「じゃあ、私は加村さんに付いて行きます」

「分かった」


 こうして武器屋旅団は半数ずつに別れてそれぞれ行動を開始した。




/*/




「大分遅れたようだな……」

 遠くから聞こえる戦闘音を聞いて高橋が呟く。

 目の前には申し訳程度のバリケードで塞がれた橋があり、バリケードの奥には行商人連合の者が複数人いた。


「敵だ!」

「やれ!」


 連合側の驚愕の入り混じった甲高い声と、冷静な高橋の低い声が同時に響く。


 次の瞬間、レーザーバズーカの放った光が連合のバリケードを焼き尽くした。更に追い打ちをかけるようにレーザーの弾幕。

 廃墟側にあるファクトリー侵入ルートの第1バリケードは一瞬でその機能を失った。


 何とか生き残った連合の男が脱兎の如く走り出す。

「追いますか?」

 レーザーライフルを構えた隊員が尋ねた。


「いや、せいぜい派手に触れ回ってもらおうじゃねぇか。俺達と本隊、どう対処するか見物だ」

 不遜な笑みを浮かべて高橋が言う。

「更に内部でも騒ぎが起きるかもしれないぞ」

 無愛想な顔でケンが呟く。


「どうかな……」

 高橋はケンの言葉を信じなかった。

 むしろ、戦闘の前に旅団が殺されているという可能性の方が大きいと見ていたのだ。


 遠くで爆発音が聞こえる。

 戦闘状況が変わりつつあると、高橋は遠くの音と肌に当たる風で感じていた。

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