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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
オーバーロードナイトと行商人連合
89/112

89話

 今や要塞は活力に溢れている。

 オーバーロードナイトの総長である船前がファクトリーに侵攻することを宣言したからだ。


 オーバーロードナイト達は訓練と武器の整備に明け暮れ、都市部の民間人はそんなオーバーロードナイトへ物資を売ったり、傭兵として自分達も作戦に参加させるように請願したりと様々である。

 勿論、中には逃げ出す者もいた。


「作戦そのものは前々から考えていた。だが万全とは言えない」

 船前は不満気に呟く。

 その横で副長の中村が微笑を顔に浮かべて答える。

「古来より万全の状態で始まった戦争などはありませんよ」

 その態度は祭りを前に高揚しているそれとよく似ていた。


「4番隊は?」

「元より治安維持が任務です。戦力としては少ないので留守番ですよ。残念がってましたがね」

「お祭り気分か……」


 副長だけでは無い。

 オーバーロードナイト全員が浮かれた気分に支配されていたのだ。


「度し難いな」

 そんな者達を見て船前は思う。

 もっとも悲壮な雰囲気よりかはマシではあることも理解していた。



/*/



 一方その頃。

 船前の宣言よりも2日程前に要塞から密かに出撃した部隊があった。


 廃墟の探索担当である3番隊、偵察と工作活動が担当の5番隊、新兵器のテスト及び戦術研究担当の6番隊の3つの部隊である。その数は3隊合わせて57人。

 それにケン、ユリ、先生の3人が加わる。

 この部隊はファクトリーの廃墟側の侵入口へ攻撃を行う部隊である。


 船前は正式にファクトリー攻略を決定する前に彼らに出撃を指示したのだ。

 理由は今回のファクトリー攻略戦は二正面作戦を予定としているからである。

 中継地点側から攻める1番隊、2番隊、7番隊と足並みを揃える為には廃墟を突破する時間を考慮する必要があるのだ。


 ファクトリーの廃墟側の侵入口は守備の人員が少ない事が5番隊の調べで判明している。

 その理由はそこまでに辿り着くのが非常に困難であり、侵入される恐れがほとんど無いからだ。


 侵入口へ向かうには廃墟を抜ける必要があるが、そのエリアは特に損壊が激しく、倒壊した建物や瓦礫で道が塞がれている箇所が多い為に迂回をする必要があり、それに加えて大量のマンハンターとブルタンクが存在している。


 倒壊した建物を乗り越え瓦礫の隙間をくぐるなどをして迂回しながら進む事と、マンハンターを相手にするのは大した問題では無いが、ブルタンクばかりは簡単に片付けられる問題では無い。


 ビルをも破壊する火力と既存の銃火器を全く受け付けない防御力を持つ4本脚の巨大な鉄の牛。

 そんなものが何体もいるのだ。


 これらを突破するには最低でも5日はかかるというのが船前と中村の予想である。


 本来、ブルタンクに対抗するには射突槍という鋼鉄の槍を飛ばす武器を使うのがスタンダードだったが、槍が中々手に入らない事と、ハンドメイドの武器である為に粗悪な作りで本来の威力を発揮出来ない物が多々あるというデメリットがあった。


「そこで、このレーザーバズーカですよ!」

 何処ぞの通販番組のナレーターのようなテンションで先生が言う。


「元々、オーバーロードナイトで設計されて計画倒れになっていたものを私が完成。更にオーバーロードナイトの要塞の施設で量産に成功した新兵器です」


 それは4つの銃口を持つ大きな筒の様な形であった。

 真ん中の機関部には筒を囲い込むようにバッテリーパックが5つ取り付けられている。


「これはブルタンクの装甲を飴細工のように溶かすレーザーを約3秒の照射することが可能です」

 これは大げさな話では無く、既に試作型で実証済みである。

「まぁ、1発撃つのにバッテリーパック5つ使用することと、3発までしか砲身が持たないのでそれの交換が必要なことですけどね」

 テンションを下げて先生が言った。


「それでもマンハンターのバッテリーパックが流用出来るだけ射突槍よりかは弾の補充が簡単だ」

 3番隊隊長の高橋が感心して言う。

 威力は保証済みで弾の補充が簡単な分、まだ射突槍よりとアテになるからだ。


 今回、この部隊は時間が無いながらも何とか数が揃ったレーザーバズーカを装備していた。

 それを使うのは6番隊であり、調整や整備の為に先生が同行したのだ。


「でも、基本的には使い捨てで良いと思いますよ。レーザーバズーカはライフルなどと比べても重いですし、砲身も持ち合わせがそこまで無いですからね」


 もっと時間があれば本体の数も補充用の砲身も揃えられたのだがと先生は内心で歯噛みした。

 現在、稼働しているレーザーバズーカの3分の2が6番隊の物となっており、残りは全て1番隊に回っている。それもテスト段階で作られた試作品も含めてである。


「しかし、それなら俺達3番隊に寄越してくれても良くないか?」

 高橋が長い顎を動かしながら言う。

「この武器を使ったことがある奴が3番隊にいるならそうしますよ。でも現状ではこれを使ったことがあるのはウチら6番隊だけですからね」

 6番隊の隊長である中井が軽い笑顔で言う。

 6番隊は他の部隊が中継地点の防衛に当たっている間にも廃墟のブルタンクを相手にレーザーバズーカの実戦テストを行ってきたのだ。


「要は間に合わせで数を揃えたから、確実な動作が保証出来ないということか?」

 そう言ったのは5番隊の隊長である加藤だった。

「それを言われると痛いなぁ……」

 中井は笑いながら頭をかく。

 この2人はオーバーロードナイトの隊長でも若かったが、雰囲気は正反対であった。


 5番隊の隊長である加藤は落ち着いた人物であるのに対して6番隊の隊長である中井は軽い雰囲気の男である。

 2人を並べれば、まさしく不良と真面目の対比図という言葉が浮かぶだろう。


 そんな正反対の2人だが、意外なことに関係は良好であり、仕事が無い時は2人でカードゲームやボードゲームなどに興じている姿が見られた。


「それでも威力だけなら射突槍よりかは確実にブルタンクを仕留められるのは間違いありませんよ」

 先生が言った。

「なら良いけどな」

 加藤は言葉ではそう言いつつも疑いの眼差しを向けている。


「5番隊2班から報告! この先の右手に曲がった先の大通りにブルタンク3、マンハンター約30!」

 若い装甲服の男が駆けてハッキリとした声で言う。


「フン、テストには丁度良いんじゃないか?」

 高橋が目を細めて言う。

「そうですね。なら、6番隊は建物を伝ってブルタンクの側面に回り込みます」

 背負っているバックパックに固定されているレーザーバズーカを外して中井が答えた。それに高橋が「任せる」と頷く。


「3班と4班は6番隊の護衛に回れ。副長、指揮を頼む」

 そう指示を出したのは加藤である。


「バレずに側面まで回り込めれば良いけどな」

 肩をすくめながら中井が加藤に言った。

 もしバレてしまえばブルタンクの巨大なレーザー砲で全員が焼き払われるだろう。


「俺達が前に出て囮になるか?」

 そう言い出したのはケンである。

「ブルタンクが3体いる。やるなら1人でやれ」

 高橋が低い声で答えた。

 数の上では確かにオーバーロードナイトが有利であるが、それはマンハンターのみの場合である。ブルタンクの火力の前では普通の人間など物の数では無い。


「昔、似たようなことをして死にかけたことがある。お断りだ」

 即答して引き下がる。

 本気で言った訳では無いからだ。


「似たようなこと?」

 その言葉を聞いて高橋は細い目をケンに向けた。

「旅団と一緒になって間も無い頃だ。仲間を逃がす為にブルタンク連中相手に1人でやり合った事がある。……危うく殺されかけたが」

 そう言ってケンは小恥ずかしくなった。


 確かに仲間を逃がす為であり、あの時はそうするしか無いと思ってのことだが、今になって思えばもう少しやりようがあったのては無いかと思ったからだ。

 それにあと一歩で殺されそうになったところで、逃がしたユリと、彼女が連れてきた仲間に助けられたのである。


 武勇伝か何かのように話してしまったが、自慢出来るような事では無かったと思ったのだ。


「そんなことよりブルタンクを倒した後の準備をしないとな」

 ケンは話題を変える。

「お前に言われるまでも無い。船前さんと中村さんは俺をこの部隊の司令官に任じたんだからな」

 鋭く高橋が言う。

 ケンはその言葉の陰に「若造が!」という声が聞こえたような気がした。


 高橋はオーバーロードナイト創設期からいたメンバーの1人なのだ。

 自分が出そうとした指示を、オーバーロードナイトとは関係の無かった者に指摘されたのに不快感を覚えたのだろう。


 しかし、それも一瞬の感情である。

 高橋はすぐに班の編成を整えさせて、敵と味方の位置を把握してブルタンクを倒した後に残ったマンハンターを処理出来るように部隊を配置させた。

 念の為に、一部の班には射突槍を装備させている。


 全ての準備を整えて数秒後である。

 6番隊からブルタンクが射程に入ったという連絡が高橋の持つ通信用トランシーバーから聞こえた。

「やれ」

 間髪入れずに高橋が攻撃の許可を出す。


 ややあってそれは起きた。

 6番隊のレーザーバズーカから放たれた光が3体で並んで歩いていたブルタンクの胴体の右側面を文字通り焼いたのである。

 装甲が赤熱し、高熱で溶かされたそれが光と熱を発しながら幾つかが汁のようにダラリと下に垂れ落ちた。

 そして次の瞬間、胴体内にある爆薬やバッテリーが内部で爆ぜてブルタンクそのものを四散させる。

 ブルタンクの足下にいたマンハンターの数体が飛び散った破片に押し潰された。


「撃て!」

 高橋の命令は短い。

 しかし、その場はそれだけで充分だった。


 オーバーロードナイトは手に持った得物で次々とマンハンターを倒していく。

 ブルタンクは完全に沈黙。数の差もあるのだろう。それは戦闘というよりも作業であった。


 マンハンターの1体がプラズマグレネードを投げようと振りかぶるが、その前に誰かが撃ったレーザーに胴体を撃たれて機能を停止させる。手に握られていたプラズマグレネードはそのまま発光して、辺りのマンハンターごと焼き払う。


「あ、あ、あ! 勿体無い……」

 隊員の誰かが声を上げる。

 これで倒したマンハンタ武器やバッテリーが回収出来なくなったからだ。


「攻撃止め!」

 高橋が叫ぶ。

 全てのマンハンターが倒れたのだ。


「ブルタンクがいたのにここまで早く片が付くとは……」

「しかも被害は全く無い」


 炎と煙、時折電光をスパークさせて倒れているマンハンターとブルタンクを見ながら隊員達が口々に言う。

 武器1つでここまで戦闘が変わるのかとあう驚きと、これならどんな敵が来ても負けることは無いという喜びが各々に沸いていた。


「今はそれで良いけどな」

 高橋が呟く。

 これが何処まで続くだろうかという危機感である。


 同じ様なことをケンも考えていた。

 確かに威力は高いが、その分バッテリーの消費量が多い。持った来た分とマンハンターから回収した分だけで間に合うのだろうか?

 ましてや、この後には行商人連合との戦いも控えているのだ。


「ファクトリーに辿り着いた時には満身創痍って具合にならなければ良いが……」

 浮かれているオーバーロードナイトを見て、誰にも聞こえないような小声で言った。

 だが、彼らだって何度も修羅場をくぐり抜けてきたのだ。

 それくらいの事は理解しているだろう。

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