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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
オーバーロードナイトと行商人連合
85/112

85話

 要塞とファクトリーを繋ぐ中継地点。

 そこは各地に塹壕が地面を這い回り、見張り台が設置され、土嚢やマンハンターなどの物と思われる装甲板の盾で囲まれた場所であった。

 その少し先には湖が見え、水面にコンクリート製の橋が渡っている。


 大野率いる1番隊とケンがこの中継地点に辿り着いたのは、戦闘が起こってから1時間後のことである。

 中継地点の半分近くが連合によって制圧されており戦況は膠着状態になっていた。連合とオーバーロードナイトは中継地点の土嚢や塹壕の陰に隠れながら向かい合って撃ち合っている。


「どういう状況だい?」


 大野が尋ねた。


「ああ、大野さんか。見ての通りだ」

 そう言ったのは2番隊の隊長である早見である。

 彫りの深い顔に鋭い目、顎には無精髭を生やし、オールバックの髪の外見は、どう見ても年齢は40過ぎである。

 しかし、実際はまだ20代であり、先生や武器屋旅団の副団長こと高田アキラと年齢はそこまで変わらない。


「あの顔で20代とかそりゃ詐欺だろ」

 とはケンだけでなく、オーバーロードナイトの面々も思っていた。


「奴等、腕の立つ狙撃手を連れて来たらしい」

 早見の示した方向には数人の怪我人が倒れている。

 誰も彼も腕や脚を撃ち抜かれており、命こそ助かったが戦闘には耐えられる状態では無かった。


「怪我人の手当てに人を取られれば、それだけ防御も薄くなる」

 そう言って早見は舌打ちをした。


「1班、2班、5班は怪我人を要塞へ送れ。残りは1番隊と協力して奴等を追い出すぞ!」

 早見が指示を出し、2番隊の面々がそれに従って動き始める。


「1番隊! 2番隊の部隊編成の時間を稼ぐ! 右、左と順番に火力を集中!」

 その大野の指示で1番隊は連合に向けて射撃を開始。

 集中されたレーザーは盾にしていた土嚢や装甲板ごと敵を焼き払う。


 叫び声が聞こえ、連合も反撃のレーザーを撃つ。

 弾幕がオーバーロードナイト側の盾を吹き飛ばす。


「レーザーガトリング!」

 絶え間ない弾幕を見て誰かが叫ぶ。


「厄介な物を……」

 岩陰から覗くレーザーガトリング特有の銃身を見ながら早見が呟く。

「でも、あれだって連射し続ける事は出来ない。何処かで冷却する必要がある」

 大野がレーザーライフルを敵に向かって撃つ。


「無駄弾を撃たせるしか無い」

 そう言ったのはケンだ。


「お前は……?」

 早見はケンを知らない。

 見た目でオーバーロードナイトで無いことはすぐに察したが、それだけである。


「客人、協力者、傭兵、そんなところだ」

 そう言ってケンは愛銃で左右に弾幕を張った。

 突撃してきた敵が1人倒れる。


「1班! 2班! レーザーガトリングの側面に回り込め! 他の班はそれを援護しながら突撃!」

「おいおい、囮作戦は良いけど味方の被害は? それに狙撃手がいるんだろ?」


 大野の指示にケンが驚く。


「ウチの部隊はそこまでヤワじゃないよ」

 大野は微笑むとレーザーライフルを持ちレーザーが飛び交う中に飛び込み、それに1番隊も続く。


 1番隊の隊員それぞれが得物を持って面白いように敵を倒していく。

 大野の言ったことは間違いでは無く、隊員1人1人の実力が非常に高い。精鋭部隊というのは伊達では無かったのだ。


 当然、これに対して敵もレーザーガトリングを使うが、援護に回った班がレーザーガトリングに向かって射撃を行いこれを防ぐ。

 レーザーガトリングの射手は身を伏せてこれを回避。直ぐ様、反撃の弾幕を張る。

 今度は援護部隊が隠れる番である。


 しかし、その部隊に気を取られたガトリングの射手は、次の瞬間、大野の指示で側面に回り込んでいた1班と2班に囲まれ、その身をレーザーで焼かれることになった。


 まさに早業である。

 しかもそれぞれ一分の狂いも無い洗練された連携だった。


「確かに凄いが……」 

 ケンは呟きながらも、ある懸念が浮かぶ。


 勢いは確かにオーバーロードナイトにあるが、数は連合の方が多かったのである。

 連合が態勢を立て直せば1番隊は包囲殲滅されるのがオチだ。

 突撃された連合は前方と左右の3方向に逃げている。もし、これが態勢を立て直して逆に1番隊を囲い込めば全滅は免れないだろう。


「囲い込め!」

 敵の誰かが叫ぶ。

「そうなるか……」

 ケンが呟く。


「2番隊、部隊編成終わりました!」

 ナイスタイミングである。

 隊員の声を聞いて、ケンは思った。あるいはこのタイミングを先読みして1番隊は攻撃したのかとも考える。


「よし! 1番隊と合流して奴等を追い出すぞ!」

 早見の低い声に、「おお!」と隊員達の鬨の声である。


 これでは騎士というより武士とか侍とかでは無いだろうかとケンは埒もない事を考える。

「さて、これに乗じて一仕事するか……」

 走り出した2番隊にケンも着いて行くことにした。


 レーザーの飛び交う中に進んで行くというのは実に危険な行為であり、常に死と隣り合わせである。

 しかし、ケンを含め、ここにいるほとんどの面々はそれに慣れてしまっている。

 やっていることは命の奪い合いだというのに、それに対して高揚感すら覚える自分達の性分は救い難いものだとケンは内心で思う。


 だからこそ、自分の手を他人の血で汚していないユリのような人物は貴重であり、これからもそうあって欲しいと思うのだ。

 これはケンだけでなく、死んでしまったミクや対人戦では後方に彼女を置いていた武器屋旅団の面々もそうである。


 少なくとも彼女がこういった事で手を汚していないということは、自分が彼女を守ったという証にもなるとケンは思う。


「でも、避けようと思えば避けられたかもな……」

 わざわざ自分からオーバーロードナイトと行商人連合との戦闘に加わった自分に呆れる。

 そして、それが自分の性分なのだろうとも思った。


「狙撃兵だ!」

 その声にケンは視線を走らせる。

 右腕を撃たれた隊員が倒れ、更に別の隊員が左脚を撃ち抜かれた。


「速い……!」

 ターゲットを狙い撃ち、次のターゲットを撃つまでの時間である。

 まるで武器屋旅団の加村のような早業だ。


「糞っ! またかっ! うわっ!」

 再び隊員が撃たれる。それも致命傷では無く、戦闘力を奪うのが目的の狙撃だ。


「加村……?」

 まさかとは思う。

 この敵の中に加村雅平がいるのではないか?

 腕や脚のみをこうも素早く正確に狙える者をケンは他に知らない。


 しかし武器屋旅団からすれば、こういう人間同士の戦闘には参加しないのがセオリーである。

 だが、それを考えれば戦闘力を奪うのみの狙撃には納得が出来るし、加村ならそれくらいはやるだろう。


「それにしたって、旅団が手を貸すとは思えないが……?」

 塹壕に身を隠してケンは思う。

 そして考えても仕方無いと狙撃手のいる場所に向かって走り出した。


 障害物や塹壕を乗り越え、時には盾にして、途中の敵を倒しながら進んで行く。

 やはり敵の中に武器屋旅団の姿は見えない。


 一瞬、少し先の高台にあるバリケードに光が見えた。

 途端に後ろにいた隊員が叫び声をあげて倒れる。右腕を撃ち抜かれたのだ。

 それを詳しく確認する間も無くケンはその場から飛び退いて塹壕に身を潜めた。

 バチッという音が、敵のレーザーが何処かに命中した事を知らせる。


「もう少し反応が遅かったら危なかったな……」

 それは間違い無くケンを狙った狙撃である。


 更に2発、ケンのすぐ側にレーザーが命中した。先程とは違い、明らかに命中するはずの無い位置である。

「誘っているのかこいつは?」

 何故かそう思った。

 直感が加村を思い出させる。


 そのままケンは塹壕を飛び出し、先程見えた狙撃の光が見えた位置へ走り出す。

 狙撃のタイミング、次のターゲットに切り替えるまでの時間が加村のそれとよく似ていた。間違い無く武器屋旅団の加村だと確信する。

 ケンは彼と組んで戦闘を行うことが多かったので、彼の癖を身体が覚えていたのだ。


 しかし、そうなると何故加村がこの戦闘に参加しているのかという疑問が浮かぶ。

「チッ……!」

 目の前にライフルを構えた敵がいたので、それに弾幕を浴びせた。

 今は目的地に辿り着くことが先決だなと思う。


 そのまま塹壕を飛び越え、土嚢を陰にして走り抜け、坂道を登る。

 2番隊が合流したことで連合を押し始めたこともあり、そこへ辿り着くのに時間はかからなかった。


「何だお前!」

 連合の男だろう。

 驚きの声に答えることも無くケンは男にレーザーを浴びせてそれを黙らせた。


「やっぱりアンタか……」

 通称“物干し竿”と呼ばれる狙撃銃を持った男にケンは呟いた。

「やぁ、随分遅かったね。やっぱり援護無しじゃキツいのかなぁ……?」

 男は皮肉っぽく笑う。


 無理矢理後ろに流したオールバックの髪型に整ってはいるがツリ目のおかげで鋭い印象の顔立ち。

 間違い無くイケメンの部類なのに頬を歪める様にして笑うので、どう見ても悪人にしか見えない男。

 武器屋旅団1番の狙撃手、加村雅平本人であった。

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