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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
オーバーロードナイトと行商人連合
84/112

84話

 ケン達がオーバーロードナイトに客人として迎えられて1週間が過ぎた。


 先生は当初の話通りにオーバーロードナイトの技術班にレーザーバズーカを提供し、そのついでに彼らの武器開発の手伝いをすることになる。


 一方でケンとユリの2人は退屈になるかといえば、そんな事は無く、ケンは彼らの戦闘訓練を手伝い、ユリはそんな2人の身の回りの世話をしながらオーバーロードナイトのちょっとした雑務を手伝っていた。


 ここでケンが意外だったのはオーバーロードナイトの戦闘の練度である。

 当初、ケンはオーバーロードナイトを要塞に引き篭もって対人の戦闘などロクに出来ない者達だと思っていたが、実際はそうでも無かったらしく、ケンは何度もショックガンで気絶させられる羽目になったのだ。


「してやられたな。競闘やら何やらでそれなりに腕があるつもりだったが……」

 医務室のベッドの上で目を覚ますと、自分のベッドの隣にある丸椅子に座っていたユリに呟く。

 ユリは横目でケンの反対側に並んでいるベッドを見る。

「……の割には相当暴れたみたいだが?」

 ケンと模擬戦を行い、同じ様に気絶させられた者達3人が横になっており1人は唸り声をあげている。

 この唸り声をあげている者はショックガンで無く、延髄に銃床を何度も叩き込まれていた。


「手こずらせてくれたよ。この坊主は」

 扉の影からケンを気絶させた当人である金田が顔を出す。

「流石に班長をやっているだけはある」

 ケンが言う。

 どうやら背中を打ったらしく、鈍い痛みに奥歯を噛む。

「当たり前だ」

 金田が答えた。


 班というのはオーバーロードナイトの戦闘集団における部隊編成の1つであり、1つの班は3人から4人の人員で構成されている。

 オーバーロードナイトは第7番隊まであり、1つの隊におおよそ5つの班があり、それに隊長が直接指揮を執る班を1つ加えたもので構成されているのだ。


 隊にはそれぞれ役割があり、それに合わせて人員が配属されているので隊によって人数や班の数が違う。

 金田が所属している3番隊は主に廃墟の探索及び、セーフティエリアの警戒である。


「これでも連合相手にしてきたんだ」

 とは金田の弁だ。


「アンタらは廃墟の探索がメインだろうに」

「行商人連合だって廃墟には来るさ。探索だったり、外から飛ばされた人間の確保なんかでな」

「あぁ……」


 金田の言葉を聞き、外の世界から何かが飛ばされてくる先は大概が廃墟エリアであることをケンは思い出す。

 オーバーロードナイトは最初からいた人間だけで構成されている訳で無く、外からの行商人や廃墟エリアに飛ばされた外の人間も彼らの一員として加えられているのだ。


「おぅ、ここにいたか」

 低い声が聞こえた。

 声の主は3番隊隊長である高橋である。


「ハッ! 何でしょう?」

 金田が畏まる、


「あぁ、ファクトリーとの中継地点に連合が攻撃をしてきたらしい。班員を集めて警戒態勢だ」

 高橋が言った。

 それと同時にケンはベッドからスルリと降りて履き慣れた靴に脚を突っ込んで愛用の携帯用レーザーマシンガンである“でんでん銃”を引っ掴んで医務室から飛び出す。


「おい!」

 それをユリが追う。

 金田は目を丸くし、高橋は細い目を更に細めてその背中を見つめた。


「そこの! 1番隊だな? 副長の中村さんか総長は何処にいる?」

 肩に1と書かれた装甲服を来た男を捕まえてケンが尋ねる。

「何だお前?」

 キョトンとした顔で男が返答した。


「連合が出てきた。1番隊は出撃だろう?」

 オーバーロードナイトの1番隊は、内部でも特に戦闘経験が豊富な者で構成された、所謂主力部隊である。

 何かあれば、まず初めに1番隊が出撃するのだ。


「私ならここだ」

 通路の曲がり角から中村が姿を現す。


「連合が出てきたらしいな」

「あぁ、今2番隊とやりあっている。非番の班も向かった」


 ケンに中村が答えた。

 2番隊は主に中継地点の防衛を担当する部隊である。


「今、1番隊の部隊編成を行っているところだ」

「丁度良い。俺もそこに加えろ」


 そのケンの言葉に中村の動きが止まり、彼の鋭い視線がケンに突き刺さる。


「どういうつもりだ?」

 低く冷たい声である。


「どうもこうも……、旅団はもしかしたら行商人連合の所にいるかもしれないんだ。だったら連合の奴と接触してその情報を得る」

 ケンが無愛想に答えた。横でユリがハラハラと不安そうににしている。


「奴等の所にいくつもりか?」

「まさか。ここでの生活の借りがある。連合の適当な奴を捕まえるだけさ」

「出来るのか?」

「戦闘のドサクサに紛れればやれるさ」


 ケンはそう言って肩をすくめてみせる。


「ま、疑うのも無理は無いか。ならそこのユリさんと先生を人質にでもすると良い。どの道、戦闘に加わるのは俺だけのつもりだ」


 その言葉に思わず「はぁっ?」とユリが声をあげた。

 長年付き合っていたが、人質に出すとはどういうつもりだと憤慨する。


「おい、ケン!」

 ケンの肩を掴むユリ。

「行商人連合を相手にするんだ」

 その言葉でユリはケンの意図を理解した。

 それと同時に歯噛みする。


「そういうのは私の好むところでは無いが、まぁ、良いだろう」

 2人を見て、何の話だと思ったが身内の事情であることを思い、あえてそこには触れずに中村が答える。

 ケンの意図がどうあれ、人質として彼女らを預れば連合に寝返るとも思えなかったのである。


 一応、人質を差し出すこと自体がこちらの警戒心を解くための罠ということも考えてみたが、この佐原ケンという人物はそういうことをするようには見えなかった。

 中村の直感がそう告げている。


「中村さん、1番隊の編成終わりました」

 中村の背後から声をかける男がいた。

 歳は20代後半だろう。しかし、その割には妙に子供っぽい顔をしている。

「大野か。いい所に」

 中村が返答した。


「この客人も連れて行ってくれ。連合の情報を得る為に働くそうだ」

「例の客人? 大丈夫なんですかね?」


 大野と呼ばれた童顔の男がケンを見る。


「食わせてもらった分は働くさ」

 ケンは“でんでん銃”を振り上げてから自分の肩をそれでポンポンと叩いてみせた。


「誰?」

 そう尋ねたのはユリだ。

 彼女は大野を見たのは初めてだった。


「大野さん、1番隊の隊長だ」

 ケンがその疑問に答える。

 彼は訓練と称して大野と一戦交えたことがあったのだ。

 結果は大野の圧勝である。精鋭揃いの隊長を務めるだけの実力を彼は持ち合わせていたのだ。


「ま、中村さんが良いって言うなら構いませんがね」

 大野は中村とケンの顔を見比べると何か納得したように微笑して言う。

「頼む」

 中村が呟く。


「じゃあ行きますよ」

 大野は頷いてケンの肩を軽く叩いた。着いて来いという意味である。

「それじゃあ」

 ケンは短くユリに言った。

 そして大野の後に続く。


 そんなケンの背中をユリは見つめるしか出来なかった。

 彼女は同じ人間に引き金を引くことが出来ないからである。

 そんなユリを行商人連合、つまりは同じ人間同士の戦闘に連れて行っても足手まといになるだけである事を彼女自身がよく解っていた。

 そんな危険な事に合わせたくない。だからケンは人質という理由でユリを要塞に置いていったのである。

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