82話
「大きいな」
目の前には瓦礫や建材を掻き集めて作られた壁がある。
おそらく15メートルはあるだろう。
それに囲まれたエリアこそがオーバーロードナイトの要塞だった。
目前にある要塞への入り口の扉はリベットが打ち込まれた鉄製であり、左右には装甲服を着た歩哨が立っており、その側の土嚢にはレーザーガトリングが備え付けられていた。
それだけ見れば確かに要塞と言えただろう。
「金田だ。今、戻った」
金田は歩哨にそう言って門を開けさせた。
ケン達はその金田の後ろを着いて行く。
訝し気な視線を送る歩哨の横を通り過ぎて、要塞の中に入る。
その先にあったのは要塞という仰々しい名称に反して、ごく普通の街であった。
といっても廃墟をそのまま利用したものであり、ギジの世界では珍しいタイプともいえる。
「トウの街に似ている」
ユリが言った。
「何処だそこは?」
それに金田が尋ねる。
「街並みだけだろ。同じように廃墟を住める様にしたみたいだしな」
「そういう街もあるのか?」
ケンの言葉に金田が更に尋ねた。彼はこの要塞からあまり外に出たことが無いのだ。
「少なくとも治安はこっちのが良いらしい。まだ絡まれていない」
街のあちこちには装甲服を着た者が歩き回っている。
間違いなくオーバーロードナイトであり、彼らの動きを見れば街の治安を守る役割を果たしているのが分かる。
「君が街で絡まれるのはあちこちに喧嘩を吹っ掛けるからじゃないですか?」
先生がからかうように言った。
「自分から吹っ掛けるようなことはしたことありませんよ」
ケンはフンと鼻を鳴らす。
「競闘のメンバーを煽っていたけどな」
そう突っ込んだのはユリである。
「何でも良いがトラブルだけは起こすなよ」
金田が苦々しく言った。
そんな事を話しながらしばらく歩くと、やがてバリケードに囲まれた建物に突き当たる。
「お前らの言う要塞ってのは本来こっちのことだ」
金田が言った。
つまり、この壁に囲まれた街の中で更に壁に囲まれた建物こそがオーバーロードナイトの本拠地である要塞なのだ。
金田が歩哨と話し、街に入った時と同じ様にケン達を中に率いれる。
囲いの中は広場になっており、マンハンターに似せた的を相手に射撃訓練を行っている者や、2人組になって格闘訓練を行っている者、筋トレに励んでいる者がおり、組織化された軍隊であることを思わせた。
「しかし、実戦ではどうかな?」
ケンはそれらを見て思う。
当然、彼も志村の元で似たような訓練をしたが、彼の戦闘技術は訓練よりもむしろ実戦で身に着けたものと言っていい。
そんな広場の先にある建物、それこそがオーバーロードナイトの本拠地である。
建物の外見はあちこちに銃座が備えられ、瓦礫やら何やらで補強されていた。
それだけでは元が何の建物であったかを伺うことが出来なかったが、金田に連れられ中に入り正面のフロアの装飾を見れば、元がホテルか何かだったことがすくに分かる。
「隊長!」
フロアに入った途端、金田が声をあげた。
「金田か。戻ったのか?」
男が顔を上げる。
縦に長い、馬の様な顔であった。垂れ目である。年齢も40代といったところだろう。
しかし、その顔付き、もしくは全身から出るプレッシャーにも似た雰囲気からこの男が実戦経験が豊富な古強者であることが分かる。
「他の連中はどうした?」
「それが、ブルタンクにやられまして……」
「新米ばかりだったからな。悪い事をした」
隊長と呼ばれた男は目を細める。
「ところで、そこの連れは何だ?」
ギョロリとケン達に視線を向けて尋ねた。
「武器屋旅団とかって行商人みたいです」
畏まって金田が答える。
「ふーん。売り物は何かあるのかい?」
隊長が尋ねた。
口調や顔付きからケン達が行商人であることを疑っていることが伺える。
「レーザーバズーカとか、どうだい?」
隊長の反応は当然だとケンは一度鼻で笑って答えた。
後ろにいた先生が自身で製作した物の名前を出されて、「これです」と背中に背負っていたそれを降ろして見せる。
「これは、興味深いな……」
そう言ったのは隊長と呼ばれた男では無かった。
「これは、中村さん」
隊長と呼ばれた男が言う。
「副長!」
金田が声を上げる。どうやら階級の高い者らしく畏まって立っていた。
「これは少し前にウチの誰かが対ブルタンク用に設計したものだ。欠陥があってお蔵入りになったと思ったが……」
そこには纏まりの悪い髪を持った30代と思われる男が立っていた。
目付きは鋭く引き締まった顔をしている。武器屋旅団の加村から嫌味な性格を抜いて老けさせればこんな顔になるのではないかとケンは思った。
「あぁ、自己紹介がまだだったかな? 私は中村俊郎。オーバーロードナイトの副長をしている。そこの馬面は高橋といって3番隊の隊長だ」
その落ち着いた口調や仕草から、この男もかなりの古強者だということが見て取れた。
この中村という男を見てユリは彼が何故かケンと似たような雰囲気を感じ取る。立ち振る舞いは全く正反対の印象だったのだが、何故かそう感じたのだ。