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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
81/112

81話

 佐原ケン、白河ユリ、水野ミク。

 この3人の中で大黒柱とも中心点ともいえる人物を上げるなら、それは間違いなく水野ミクだろう。


 彼女はこの中でもっとも長くギジの世界におり、実戦経験も豊富だからである。

 また、ケンに生きていくように言ったのも、ユリと集落を出て彼を追うように決めたのも彼女だ。


 そして彼女の死はケンの方針をある方向に進ませるきっかけとなった。

 それにユリも付いていくことになる。


 彼女が死の間際にケンを頼むと言い残したのを守ろうと決めたからだ。


 何故、ミクがケンを頼むとユリに言い残したのか?

 以前、彼女はユリに言っていたことがある。


「ケンちゃんはキョウと似ているところがあるんだよ」

「あぁ、前にも言っていたな。突っ走るところがあるとか何とか……」

「うん。正義感が強くて無鉄砲で、戦い方も似てるかな? まぁ、キョウが戦い方を教えたんだから当然かもしれないけど」


 このやりとりから、ミクはケンに死んだ志村の影を見ているのだとユリは思った。


 しかし、実際のところは半分正解といったところだろう。

 確かに、ミクはケンに志村の影を見ていたが、それ以上に彼を一種の作品の様に見ていた。

 ケンの面倒を一番見ていたのは志村だった。そういった意味で今のケンを作ったのは志村と言える。

 そうやって作られた、あるいは志村が残したものが、この世界でどの様になっていくのかを鑑賞していたのだ。


 事実、ミクはケンのやろうとする事にあまり口出しをしていない。

 彼女はただ見ていたかっただけなのだ。そうやって志村の事を懐かしんでいたのかもしれない。


 ミクが死に当たって悔いに思うとしたら、最後までそれが出来なかったことだろう。

 だからこそ、ミクはユリにケンの最後を見届けて欲しいという意味も込めて最後の言葉をかけたのだ。


 しかし当の本人達2人は、そんな事と露知らずにミクの死を悲しんで泣いていた。


「しかし、もし自分が死んだらこうやって泣いてくれる人はいるんですかね?」


 泣いている2人を見て先生が言う。

 周りにいたオーバーロードナイト達はその言葉に自分達はどうだろうと思わずにはいられなかった。



/*/



 翌日。

 ミクの死体はあろうことか、先生の作ったレーザーバズーカで灰にしてしまおうとケンが言い出したのだ。

 もう少し綺麗な言い回しをすれば火葬である。


「おいおい、何考えてんだ?」

 あまりの突飛な話に金田達は目を丸くする。

「いや、これは武器ですよ。火葬に使う物じゃありませんよ」

 先生もこれには難色を示す。


 これに対してケンは、ミクの恋人である志村は所属していた集落で火葬されたのにミク1人がこんな辺鄙な所で埋葬されるのは如何なものかと言った。


「せめて死んだ後くらいは一緒になれるように計らったって良いでしょう?」


 この男にしては珍しくロンマンチストっぽいことを言うと先生は思う。


 だが、実際のところは自分の手でミクを埋めるという行為に耐えられそうに無いという思いが大きい。

 散々、世話になった人物を自分の手で見知らぬ土地に埋めるという光景に強い嫌悪感が抱いたのである。


 これに関してユリは何も言わなかった。

 ケンの内心を朧気ながらに察していたからである。


「分かりました。好きにしてください。バッテリーパックはこの間の戦闘でいくつか手に入りましたからね」


 結局、呆れ顔で先生が言う。


「ありがとうございます」


 ケンはそれだけ言うとすぐに準備を始める。


 地面に細長い建材を突き立てて、そこにミクの死体を縛り付けた。

 まるで磔刑だと、それを見ていたユリは思う。

 そしてレーザーバズーカの確認。


「……」

 何も言葉を発すること無くケンがレーザーバズーカを構えた。

「私もだ」

 レーザーバズーカのグリップをケンと一緒に握る。お互いに目を合わせて頷いた。


 ミクはケンとユリにとって戦友であり家族でもあった人物である。

 その死体を焼こうとするのだ。

 どの様な想いであったかは、2人にしか分からない。

 だが、間違い無く2人共同じ事を思ったであろう。


「じゃあ」

 ケンが呟く。

 ややあってトリガーを引く。


 一瞬、レーザーの閃光で目の前が真っ白になり、チリチリと身体を焼くような熱が2人を包む。

 思わず2人は目を背けた。

 レーザーバズーカの威力では無く、ミクの死体が燃えていく様を見たくなかったのだ。


 レーザーバズーカは確かに建材ごとミクの死体を焼き払い、その後には何も残さなかった。

 それにより、ミクの面影は全て消える。


 2人の心には巨大な穴が開いたような虚しさが残った。

 そして、もうミクの独特な気の抜けたような声も飄々とした笑顔も見れらないことを思い、その場で大きくため息を吐いて、しばらく立ちすくんだ。


 この時の様子を見ていた先生は後にこう語る。


「あの時の2人は間違いなく正気では無かったですよ。佐原君の目は虚ろでしたし、白河さんも言動がどこかおかしかった。それに死体をレーザーバズーカで焼くなんて思い付きもしないでしょう? 仲間の死体を武器で焼くんですから……」


 もちろん、それだけ2人にとってミクは大きな存在だったという事は先生も理解していての発言である。


「ユリさん」

 隣で立ちすくんでいるユリにケンが声をかけた。

「何だ?」

 それまでミクがいた場所を見て答える。


「奴等が見付けたマンハンターの工場だか基地だか、俺も見たくなったよ」

「ミクの仇討ちか?」

「そうだな。それもある」


 無表情に答えるケンを見て、そうじゃ無いなとユリは思った。


 ケンは何でも自分で背負い込むところがある。

 村に賊を呼び込み、その責任を問われた時もそれを何も反せずに受け入れ、トウの街で泉が拐われた時も自らの危険を顧みずに助けに向かった。エミリが崖から落ちて仲間と離れた時も、この方が早いと崖を降りて助けに向かったこともある。


 責任感が強い、というよりも彼のそれは加害者意識が強いというべきだろう。


 今回もおそらくはミクが死んだのは自分のせいだと思い、その戒めのようなものとしてマンハンターの拠点に向かい、それを叩こうと考えているに違いない。


 更に言えば、ケンは昔から危険なことに自ら突っ込んでいく悪癖もある。

 戦闘では常にそうだったし、トウの街では悪漢を煽り、武器屋旅団いた時ですら、気に入らない客に喧嘩を吹っ掛けるような真似をしていた。


 それを考えるとミクが死に際にケンを頼むのも納得がいくかとミクは思う。


「私も着いて行くよ。出来ることは少ないと思うけど」

「そうかい」


 ケンは短く返答した。

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