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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
80/112

80話

 ギジの世界に来てからの水野ミクの人生は常に男と共にあった。

 初めの2年は志村恭平、次の2年は佐原ケンである。


「馬鹿らしい話だが、お前は異世界に来た訳だ」

 志村は忌々し気な顔で説明した。

 しかし、彼が忌々しく思っていたのは、ギジの世界では無く自分達のいる集落である。


 その集落は廃墟の中に陣取るという危険な形で存在しており、マンハンターとの戦闘が絶えなかった。

 これは彼らが廃墟がマンハンターの巣窟であることを知らなかったということと、その廃墟エリアそのものが大きく、物資も豊富にあり、簡単にそれらが手に入ったことが大きな原因である。


 しかし、毎日行われる戦闘は集落の人間に過度なストレスを与えていた。


 結果として、その集落では男は戦闘、女はその男を慰めるという事が常となっていたのだ。


 志村はこれに反感を抱きつつも何も出来ないでいた。

 自分1人では何も出来ないことを解っていたのである。

 また、この時は戦闘が可能な人員も多く、危機意識が薄かった。


「彼女は俺が引き受けますよ。俺が見付けたんだから文句は無いでしょう?」


 そんな状況の中、志村が出来るのはそれくらいだった。

 常に手元のにミクを置いていることで彼女を守ろうと思ったのである。


 これに対してミクは自分の扱いに対して憤慨した。もっともこれは村の事情を知り、何もそういった要求をしない志村を見て思い直すことになる。


 状況が悪化したのはマンハンターの大型種である“ブルタンク”が現れてからだ。


 この巨大な四脚は強力なレーザーとミサイルで味方を跡形も無く消し飛ばし、あっという間に集落の戦闘員を半分以下まで減らした。


 戦死者の増加は集落の人間に更なるストレスを与え、それに伴い女の扱いも悪くなる。

 この頃には一番多い女の死因が男による暴力という有り様になっていたのだ。


「どうして、こんな事を平然と出来るんです?」


 その被害者の後始末をしながらミクは志村に尋ねた。


「そいつらの本質なんだろうさ。自分より弱い奴を貶めることでしか自分を満足させることが出来ないんだろうな」

「キョウさんは?」

「似た様なものかもしれない。俺は奴らが下衆であることを知っている。奴等と同じ事をしない自分は奴等よりも上等だと思っているからな。結局、他人より高い位置に自分を置いて安心しているという点では変わりない」


 自嘲気味に志村が答えた。

 それでも、そこまで落ちぶれないだけ人間的にはマシではないかとミクは思う。


 この頃のミクの話し相手はもっぱら志村だった。

 他の男達は若い女であるミクを舐め回すような目で見ており、志村から武器の扱いを習っていなかったら危なかったという目に何度かあっており信用出来なかったのだ。


 女も同じである。

 志村のおかげで男達の慰め者にならずにいるミクを妬んでおり、とてもではないが会話など出来る関係にはならなかった。



 そんなある日である。

「おい、志村来てくれ!」

 志村が男に呼び出された。

 戦闘か何かと志村が男に着いて行き、その場にミクが残されることになる。


 しばらくしてミクの前に男が数人現れた。

 誰もが下卑な笑いを浮かべている。


「何です?」


 レーザーライフルを持ちながら怪訝そうな顔で尋ねた。


「いやいや、いつも志村とナニをして遊んでいるのか知りたくてさ」

 リーダー格の男が言って、周りがドッと笑う。


「あっちへ行って下さい」

 冷や汗を流しながらも臆していない風な声でライフルを構えた。

「おお、怖い怖い」

 男はそんなミクを見て笑う。

 相変わらずの下卑な顔に苛立ちを覚えた。


 その時である。

 突如として背中から押し込まれるような力と鋭い痛みが奔った。


 振り返れば男が角材を持っていた。

 後ろから殴られたと認識したと同時にミクは武器を取り落としていた事に気付く。


 それを取ろうと手を伸ばそうとするが、その前に後ろの男に組み伏せられて地面に抑え付けられる。

 落ちたライフルは男が蹴り飛ばして手の届かないところへ滑っていった。


「女のくせに武器なんて生意気なんだよ!」


 この時、集落は慢性的な物資不足に陥っており、戦闘員でも2人にライフル1丁という具合だったのた。

 志村とミクは個人的に武器を入手していたので携帯することが出来たのである。

 もっとも、それは集落の人間の反感を買う結果になっていたが。


「おら、大人しくしろ!」

 男達の手が伸びる。

 ミクは必死に抵抗するが叶わない。 


 いきり立つ男が目の前に現れる。

 それを見たミクは恐怖で体が動かなくなった。

 目の前の男が覆い被さり、ミクは目の前が真っ暗になった。


「おい! どうした!」

 何やら叫び声が聞こえ、覆い被さった男が何かに弾き飛ばされる。


 顔を上げれば、そこには志村の姿があった。

 レーザーライフルを手に、その瞳は怒りに燃えている。


「呼び出した奴が襲ってきたから何かと思えば……!」

 そう呟いてミクの腕を握っていた男を撃つ。


「おい、ちょっと……」

 何やら言いかけた男を更に撃ち殺す。志村はそのまま残った男達を殺し続ける。

 ミクを襲った男達の中には武器を持っていた者もいたが志村には敵わなかった。


「待てよ……! これを考えたのは女達だ! 俺達は騙されたんだよ!」

 男の言葉にミクが顔を上げた。 

「実行したのはお前達だ」

 志村は最後の1人を撃ち殺す。


「ミク……?」

 大きく息を吐いてミクに振り返った。


「私、皆に何か悪いことをしたの……?」

 疑問の声を漏らす。


 ミクは彼らに対して害になることは一切していない。

 しかし、ミク自身は志村の庇護のおかげで村の男達から慰み者にされることも無く、それどころか武器を携帯して探索に出てさえいた。

 それが他の女達の妬みを買ったのだ。

 そこへ欲求の捌け口を探していた男達である。


 この集落の人間そのものが腐っている。

 それが原因なのだ。


「何? 終ったの?」

 村の女達が騒ぎを聞きつけて現れた。

 男達がミク達を殺したのだと勘違いしたらしい。


「がっ……!」

 勘違いした女が倒れた。


 志村では無い。

 ミクがライフルを取り戻して撃ったのだ。


「ちょ……! どういうつもり!」

「……!」


 ミクは何も答えずに次々と現れた女達を殺していく。

 何もしていないのに、この様な目に合わせた女達を許す事は出来なかった。


「結局、一番タチが悪いのは人間だったな」


 全てを殺し終わりうずくまって泣いているミクを見て志村が呟く。


「行くぞ。2人でここにいるよりは、この世界を歩き回った方が良いだろう」

「うん……」


 この後、2人はトウの街に辿り着き、しばらくはそこで過ごす事になる。


「思い返してみるとその時が一番良かったかなー? 親切な人の処で好きな人と一緒にいて、たまに博打に興じたりしてさ」


 しかし、競闘のチーム間のトラブルを志村が起こしてしまい、志村とミクは街から出ていくことになった。

 その先の集落でユリやケンと出会うことになる。


「ケンちゃんか……。改めて考えてみるとやっぱりキョウに似ているね。危なかっしいところもあるからさ。ユリちゃんはしっかりケンちゃんを見ていてね」


 それが水野ミクの最後の言葉だった。

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