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最低世界の少年  作者: 鉄昆虫
ギジの世界
79/112

79話

 オーバーロードナイトと先生。

 彼らと合流することが出来たケン達であったが、先生はオーバーロードナイトとの間に一悶着あったのである。


「金田さん! こいつセーフティエリアの武器を勝手にくすねたんですよ!


 オーバーロードナイトの1人が訴えかけた。


「いや、ここがあなた方の場所だとは知らなかったんですよ!」


 どうやら先生はセーフティエリアの武器を勝手に持っていったらしい。


「そうなのか?」

 金田が疑問符を掲げ、ケン達に視線で訴えかける。


「少なくとも俺達はここにオーバーロードナイトの保有する場所があるなんてことは知らなかった。なら誰のだが分からない物資は使う事もあるだろう」

 要は落ちている物があれば何でも持っていくし、使うということである。


「大した話だ。道徳心というものがあるのか疑いたくなるな

 オーバーロードナイトの1人が顔をしかめる。

「俺達は温室育ちじゃないからな。隊長以外が全滅なんてマヌケはしない」

 それは金田の率いていた部隊が全滅した事への誹謗である。


「何だと!」

 装甲服の若い男が激昂してケンに掴みかかる。

「やめないか!」

 金田が叫ぶ。


 装甲服の若い男はケンの首襟を掴んでいたが、ケンは相手の顎下に“でんでん銃”を突き付けていた。

「どうする? この通り、ちょっと指を動かせばアンタの頭を吹き飛ばせるんだが?」

 ケンが嘲笑して、男が「何を……」と苦々し気に唸る。


「ケン!」

 声を上げて止めたのはユリだ。

 ケンはフンと鼻で笑い銃を降ろす。


「全滅したのは事実だ」

 金田もケンに掴みかかった男を諌める。


「それにしたって、何で武器を盜んだんだ?」

 金田が話題を逸らす。


「これを作るのに必要だったんですよ」

 先生はそう言うとある物を掲げた。


 掲げられたそれは1メートル程の筒状の武器だった。銃口は4つある。おそらくライフルのものを束ねたのだろう。

 機関部からはコードが飛び出ておりテープで止めてある箇所もある。

 そして機関部の周りを囲うようにライフルのバッテリーパックが取り付けられていた。


「何時だかに手に入れた設計図のものですよ。レーザーバズーカとでも言うべきですかね?」


 オーバーロードナイトの情報を得た時に手に入れた設計図である。

 既に完成させていたのかとケンは先生の技術力に感心する。


「なら、あのブルタンクをやったのはアンタか?」

 金田が尋ねた。

「そうですよ。一か八かだったのですが、上手くいきましたね」

 そう言って先生はフフンと自慢げな顔をする。


「ブルタンクを一撃か……」

 その威力に驚く金田。

 ブルタンクに通用する武器は限られているからである。


「まぁ、1発撃つごとにバッテリーを5つ全て使い切る事と、おそらく2発撃てば銃身が駄目になるという欠点はありますが……」

「まぁ、それだけの威力ならな」


 この武器を量産出来ないかなどと先生の説明を聞きながら金田は思案する。

 それを見かねた若いオーバーロードナイトが語気を荒らげつつ言う。


「それよりも、我々の武器を持ち出したことですよ!」


 金田は男を一瞥して首を傾ける。


「いや、彼の武器と技術は貴重だ。どうやら彼らは仲間であり、我々が助けられたことも確かだ。ここは不問にして要塞へ招き入れたい」

「つまり、これを要塞に渡せば不問ということですかね?」


 金田の言に先生が尋ねる。


「そういうことだな」

 金田が頷く。


「それは構いませんよ。これは試作なんで、もっとキチンとした工具や部品があれば、もう少しマシになりますからね。その為にも要塞にこれを引き渡すのはこちらとしても構いませんよ」

 先生の興味はこの武器の完成であり、その為ならオーバーロードナイトに着いていくことに依存は無いということだ。


「ま、そうするより無いな」

 ケンも同意する。

 その言葉に2人も頷いた。


「良いんですか? 部外者ですよ?」

「行商人だ。本人達の話によるとな」


 そう言う金田がとしてはケン達よりも、先生の持つレーザーバズーカなる物に興味があった。

 ブルタンクを一撃で仕留める武器など、今まで見たことが無かったからだ。

 試作品とはいえ、これを作るだけの技術を持つ人間の協力を得られればオーバーロードナイトの戦力を上げることが出来ると考えたのである。


「なら早く行こうよ。マンハンターがまた集まって来ると厄介だよ」

 ミクが言う。

「そうだな……」

 そう言ってその場の全員が歩き出す。


 その時である。

 それはほんの一瞬の出来事だった。

 レーザーで撃たれた時にある独特のバチッという爆ぜるような音が聞こえたのだ。


「キャッ!」


 甲高い女の声。

 ケン達が振り返ると倒したはずのマンハンターが体中から火花を散らして立ち上がりレーザーライフルを構えていたのだ。


「まだ生きていたのか!」

 ユリがそれを撃つ。

 今度こそマンハンターは胴体をレーザーに焼かれてその機能を完全に停止させた。


「全く……」

 そう言うとユリはケンがその場で固まっていることに気付く。


「ケン?」

 そう尋ねた瞬間だ。

 地面に倒れ込む者がいた。


 ケンでは無い。


「ミクさん!」

「何?」


 倒れたのはミクだった。

 先程、マンハンターに撃たれて甲高い声をあげた当人である。

 それに気付いたユリも叫ぶ。


「ミク!」

 見れば、倒れたミクの胸から血が溢れていた。


「水野さん!」

 先生も駆け寄る。

 そしてミクの様子を見て頭を振った。


「駄目です。おそらく心臓を撃ち抜かれたのでしょう……」

 先生は冷静に言って歯噛みする。


「馬鹿な! こんな事があるかよ!」

 叫んだのはケンである。明らかに取り乱していた。

「嘘だ……。こんなの……」

 同じ様にユリも声を漏らす。


 先生はケンとユリがここまで取り乱すのを見たことが無かった。

 それほどまでに、この3人の絆は強かったのだろう。


「人に死ぬなとか言って! 自分は死ぬのかよ!」

 ケンの言葉にミクは声も無く微笑んだ。

 そして咳き込むと血反吐を吐き出す。


「何? 何を言っているんだ?」

 モゴモゴとミクが口を動かすのを見てユリが尋ねる。

「それは、分かったけど……」

 聞き終えてユリが言う。

 安心したようにミクが目を閉じた。


「ミク? おい!」

「またなのか……!」


 動かなくなったミクを見てユリは泣いた。

 同じ様にケンも泣く。

 彼らは生まれて初めて心の底からないたのである。

 そして思い出す。

 ここはギジの世界で常に死と隣り合わせで理不尽に塗れていることに。


 水野ミク、享年20歳。

 ギジの世界に来て4年、ケン達に会って2年経ってのことである。


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