78話
オーバーロードナイトの金田という男と合流して、要塞までの確実な道のりを掴んだケン達であったが、問題が無い訳では無かった。
「何だ、お前達も物資が無いのか」
お前達もというのは金田も物資、とりわけ食糧関係を持っていなかったのである。
「正確には運搬の途中で奴らに全部焼かれたんだがな」
奴らというのは当然マンハンターである。 元々、金田達は物資を運搬するために、この廃墟エリアにいたのだが、途中でマンハンターと遭遇して戦闘になったのだ。
しかし、部隊は金田を残して全滅。その上、運搬中の物資も戦闘の最中にマンハンターのレーザーを受けて焼かれてしまったのである。
「一体、何処へ物資を運ぼうとしていたんです?」
ユリが尋ねた。
「セーフティエリア、ここだ」
立ち止まって金田が答える。目の前には崩れ落ちて、瓦礫の集まりにしか見えないものがあった。おそらく、元は何らかの商店だったのだろう。
「何も無いように見えるが?」
目の前にあるのは瓦礫の山にしか見えないケンが言った。
「偽装しているんだよ。マンハンターにバレないようにな」
そう言うと金田は瓦礫の僅かな隙間に潜り込む。
成る程と思いながらケンも続き、顔を見合わせたユリとミクも続く。
「しかし、何なんだここは?」
ケンが尋ねる。
「名前の通りさ。俺達は時々、この廃墟で戦闘訓練やら物資探索を行っているんだが、その時に使うエリアだ。敵が多かった場合に隠れたり、休んだりする時に使うためのものだ。……まさかここに物資を補給するつもりが、逆に自分達がここを使うとは思わなかったが」
やれやれと金田が溜息交じりに答えた。
「さっきの戦闘で敵が集まってきたみたいだよ」
一番後ろに付いていたミクが振り返って言う。
耳をすませば確かに複数の足音が聞こえた。更に、一際大きい足音も続いてくる。
例のブルタンクだ。
「しばらくは隠れるべきだな」
金田が言う。
「太刀打ち出来る武器があれば良いんだが……」
それは武器があれば勝つということだろうかと、ケンの後ろに付いていたユリが首を傾ける。
確かにケンの強さは知っているがそれは自惚れでは無いかと思う。
「武器があっても難しいだろ」
金田もユリと同じことを思ったらしく、そう言った。
それにケンが何か答えかけるが、金田が足を止めて「ここだ」と言う。
薄暗がりの中ではあるが、鉄製の扉が瓦礫の壁に埋め込まれているのがハッキリ見えた。
金田は扉を開けて中に入る。
灯りは全く無く真っ暗だった。
「さっさと入れ」
足を止めた3人に中に入るように促す。
全員が入ったことを確認して扉を閉めた。
「真っ暗で何も見えない」
ユリが言う。
次の瞬間、辺りが急に明るくなった。
金田が照明のスイッチを入れたのだ。
「光が漏れてマンハンターに気付かれるとマズイからな」
その部屋は4人が隠れるのには狭い。六畳あるか無いかといったところだろう。
奥には棚が置いてあり、缶詰やらビニールに入った干し肉といった食糧が並んでいた。
また、天井には電灯を吊るしているコードがあり、それを辿ればマンハンターの胴体に繋がっている。
「マンハンターの胴体?」
ユリが呟く。
「マンハンターに積まれているバッテリーを使っているんだよ」
それにミクが答え、ユリが「あぁ」と納得の声をあげた。
マンハンターの元は機械であり、当然それを動かすためのバッテリーが内蔵されている。
ギジの世界ではそれを使って機械を動かしていることが多いのだ。
「このテレビは何だい?」
部屋の中央に配置されたテーブル。その上にテレビが1台乗っていたのをケンが尋ねる。
「あぁ……」
金田がテレビのスイッチを捻る。
画面には外の風景が白黒で映された。
「監視カメラ?」
「そうだ。外へ出るときにな」
便利なものだとケンが肩をすくめる。
画面を見れば、巨大な脚が映っていた。ブルタンクである。
結局、その日はセーフティエリアで1日を過ごすことになった。
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その後もケン達はセーフティエリアを抜けてはマンハンターに追われ、別のセーフティエリアに逃げ込むという事を繰り返し、なかなか要塞に着かずにいた。
そんな状況が変わったのは金田と合流して3日後のことである。
「ちょっと、これを見てくれ」
セーフティエリア外に設置された監視カメラ。その映像を映しているテレビを見てケンが声をあげた。
「何だ?」
言われて金田が画面を覗き込む。
そこに映っていたのはマンハンターとブルタンクである。
それは珍しくもないが、これらは銃撃戦を行っていたのだ。
当然の話だが、マンハンター同士が銃撃戦を行うことは無い。
つまり、マンハンターと銃撃戦を行う何者かがいるということになる。
「味方だ!」
金田が声をあげた。
この辺りでマンハンターと戦うのはオーバーロードナイトくらいのものだからである。
ブルタンクの脚が画面いっぱいに映し出される。
次の瞬間、画面は真っ白になった。
そして元に戻ったかと思えば、カメラは激しく動き、マンハンターやらブルタンクやらを次々写し出す。
「何が起きた?」
金田が言った瞬間、カメラからの映像が途絶えて画面が砂嵐に切り替わった。
そしてズドンという轟音と地響きである。
「何今の!」
ミクが驚いて言った。
「様子を見てくる」
ケンが答えて“でんでん銃”を引っ掴み、セーフティエリアの扉を開ける。
そして瓦礫に偽装した入り口から頭だけ出して、周囲を見渡す。
「……?」
目の前にはブルタンクが盛大に倒れていた。
側面には焼かれたような穴が開いている。
更に前方を見れば、マンハンターと数人の装甲服が銃撃戦を繰り広げていた。
「金田さんのお仲間らしいね」
奥に向かって一言。
そしてすぐさまマンハンターの背後に躍り出て、“でんでん銃”を乱射する。
後に続いて外に出た金田が突如戦線に加わるケンに驚き、倒れたブルタンクと銃撃戦を確認した。
同じ様に銃撃戦に加わる。
マンハンターは突如として背後から奇襲を受ける形になった。
予想外のことに弱いマンハンターは態勢を立て直す間もなく殲滅される。
「終わったな」
最後に倒れたマンハンターを見て金田が呟く。
目の前には装甲服が数人。
「金田さん!」
その中の1人が声をあげた。彼らもオーバーロードナイトである。
「お仲間、らしいな……」
その様子を見てケンが言う。
「みたいだねー」
ミクが頷く。
「何にせよ3人をよりかは……?」
ユリが言い淀んだ。
「どうかした?」
固まるユリにミクが問かける。
「あれ」
ユリが指を差した方向。
装甲服の中にサンドブラウンのマントを羽織ったメガネの男がいた。
「先生!」
3人が驚きの声をあげる。
「あぁ! 佐原くん、白河さんに水野さんも!」
それはまさしく武器屋旅団の、武器の整備と修理担当の先生というあだ名の男だった。
「お前の知り合いか?」
装甲服の男が先生にライフルを突き付ける。
「えぇ、だから言ってるじゃないですか! 私は盗賊とかじゃありませんよ」
どうやら彼は何やらオーバーロードナイトに誤解されているようだ。