76話
その廃墟エリアの面積は外の世界なら丸1日歩けば抜けられるくらいだろう。
だが、ギジの世界ではそうはいかない。
廃墟エリアには多数のマンハンターが闊歩しており、その中には大型種であるブルタンクの姿すら見えたからだ。
これらに対抗するだけの物質をケン達は所持しておらず、結果的に隠れてやり過ごし、更に迂回を繰り返しながら進むことになったからである。
そして日が沈む時間になり、ケン達は足を止めて近くにあったレストランであったと思われる建物に入った。
食糧の1つでも見付からないかと期待したが見事に裏切られ、スタッフの休憩室らしき部屋で夜を明かすのみとなる。
「倒した敵から武器のバッテリーは奪えたけど、食糧はほとんど持ってないぞ」
空腹を訴えたミクとユリにケンが言った。
「泉さん達が持っていたからな……」
最後に食糧を運搬していたのが泉と、その周りの団員であることをユリが思い出す。
「ここにはガラクタしか無いよー」
ミクが両手を上げて、お手上げだというポーズをして見せた。
そして次の日になり、再び廃墟を進み出す。
途中で手当たり次第に建物の中で探索を続けるも、申し訳程度に缶詰や古くなって中身が濁ったペットボトル飲料が見付かる程度の収穫しかなかった。
「ま、時間をかけないでここを抜ければ探索は必要無いんだがな。すぐ先に例の要塞とやらがあるみたいだし」
建物の影に隠れてケンが小声で言う。
その後ろをブルタンクが足音を響かせて進んで行く。護衛のマンハンターがいないのは幸いだった。
「迂回と隠密を繰り返して、たまに戦闘もやるとなればねー」
否が応でも時間がかかるとミクが苦笑する。
「武器は良いさ。食糧と水をどうするかだよ」
ブルタンクが通り過ぎたことをユリが確認して言った。
食糧と水の残りはほとんど無く、あと1食分程度しか残っていない。
「だから、それを探しながら進むから時間がかかるんだよ」
周りに敵がいないことを確認してケンが歩き出した。
「そもそも、この先にオーバーロードの要塞があるかだって……」
そもそもこの先の要塞や、オーバーロードナイトの話だって事実かどうか分かったものでは無いとユリは思う。
それも当然で、それらの話はたった1人の得体の知れない男が言っていた事だからだ。
「……少なくともオーバーロードナイトは事実みたいだよ?」
そう言ってミクは後ろの瓦礫に顔を向けた。
そこには見覚えのある装甲服が転がっている。
「オーバーロードナイト、だな。これは……」
ケンが近寄って装甲服の腕を掴む。
腕はバラバラと地面に落ちた。
「相当前のものみたいだねー」
後ろからミクが覗き込んで言う。装甲服の中身は白骨化していたのである。
似たような物が周りにも散らばっていた。
どうやら戦闘でやられたものらしい。
「旅団の他の人達は大丈夫かな?」
ユリが言った。
「何人かは脱落しただろうな……」
バラバラに逃げた時にだが、数人が倒れたのをケンは目撃していたのだ。
「とにかく、早くここを抜け出そう?」
他人の心配よりも自分の心配をするべきだろうとミクは内心で思いつつ出発を促した。
その時である。
バチッという爆ぜるような音が数回、更に男の叫び声が聞こえたのだ。
すぐにそれが戦闘の音だと3人は判断して音が聞こえた方向へ走る。
するとマンハンターと誰がが戦闘を行っていた場所の側面に出た。
旅団の誰かかと期待するが、そこにいた人物を見てそれは裏切られる。
ただ、ある意味においては期待以上のものであった。
そこで戦っていたのは装甲服の男、つまりオーバーロードナイトだったのである。
オーバーロードナイトは1人、対するマンハンターは5体、ケン達は3人。
「ミクさん、ユリさん援護を」
ケンが“でんでん銃”を腰のホルスターから抜いて言う。
次の瞬間には弾幕を張りながらマンハンターに飛び込んで行った。
「あー、もういきなり!」
無謀では無いかとユリが怒鳴りながら援護射撃を行う。
「旅団にいた時は戦列を乱さないようにしてたからねー」
ミクがククっと笑い、ユリに倣ってライフルを撃つ。
突如として側面から行われた攻撃にマンハンターは混乱した。
ユリの正確な射撃で1体やられ、更にミクの射撃で構えていた武器を飛ばされ、そこへケンの突撃である。
あっという間に懐に入られたマンハンターがケンに照準を向ける頃にはケンの“でんでん銃”によって、その四肢を焼かれ、更に蹴り飛ばされ、トドメに外側からの射撃によってその機能を停止させられた。
それはほんの数分の出来事である。
マンハンターは全滅して、そこにはケン達3人と装甲服の男が立っているのみであった。
「あぁ、誰だか知らないが助かったよ」
装甲服の男が短く切り揃えられた髪の頭をかいて言う。
「そうだな。そちらに聞きたい事もある」
ケンは銃をホルスターに納めて言った。
「聞きたいこと?」
男が怪訝そうな顔をする。
「色々とな。だが、その前にアンタはオーバーロードナイトとかって言われてる連中か?」
「……そうだ」
男の答えに3人は目を大きく開けて動きを止めた。
生きていたオーバーロードナイト、都市伝説と言われていた存在に彼からは初めて接触したのである。